相続が発生した際、亡くなった方が自宅や預貯金だけでなく「田」「畑」などの農地を所有していることがあります。
農地も当然ながら相続財産に含まれますので、誰が相続するのかを決め、必要に応じて相続登記を行うことになります。
しかし、農地の相続には一般的な宅地や建物の相続とは異なる注意点があります。
特に重要なのが、「法務局で行う相続登記」と「農業委員会に行う農地法上の届出」は別の手続であるという点です。
また、農地は相続した後で自由に売却したり、住宅や駐車場などに変更したりできるとは限りません。
農地法による規制があるため、相続時点から将来の利用方法まで考えて遺産分割を行うことが重要です。
この記事では、相続財産に農地が含まれている場合に知っておきたい7つの注意点について、司法書士の立場からわかりやすく解説します。
1.農地も相続財産なので相続登記が必要
まず確認しておきたいのは、田や畑であっても、亡くなった方名義の土地であれば通常の土地と同様に相続の対象になるということです。
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
相続や遺言によって不動産の所有権を取得した相続人は、相続の開始とその不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
正当な理由なく義務を履行しなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
これは宅地や建物だけの制度ではありません。登記された田や畑についても、相続登記義務化の対象です。
さらに、2024年4月1日より前に発生した相続についても、相続登記が終わっていない不動産は原則として義務化の対象になります。
施行日前から相続したことを知っていた不動産については、2027年3月31日までに対応する必要があります。
「農地だから名義変更をしなくてもよい」「誰も使っていない畑だから登記しなくても問題ない」と考えるのは危険です。
2.農地を相続したら農業委員会への届出も必要
農地相続で特に見落とされやすいのが、農業委員会への届出です。
農地を相続した場合には、農地法第3条の3に基づき、その農地が所在する市町村の農業委員会へ届出をする必要があります。
農林水産省は、相続等によって農地の権利を取得した場合、権利取得を知った時点から「おおむね10か月以内」に届出を行うものと案内しています。
届出を行わなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
ここで非常に重要なのは、「法務局への相続登記」と「農業委員会への届出」は別の手続
ということです。
相続登記を済ませたからといって、農業委員会への届出が自動的に完了するわけではありません。
反対に、農業委員会へ届出をしただけでは、不動産登記簿の名義は変更されません。
農林水産省も、農地については「相続の届出」と「相続の登記」がそれぞれ法律により義務付けられていると案内しています。
京都市内の農地についても、京都市農業委員会が農地法第3条の3に基づく届出書を公開しています。
農地が相続財産に含まれている場合は、「相続登記をしたから終わり」と考えず、農業委員会への届出まで確認することが大切です。
3.相続そのものに農地法第3条の許可は原則不要
農地の売買や貸し借りでは、原則として農地法第3条の許可が必要です。
そのため、「農家ではない自分が農地を相続できるのだろうか」と心配される方がいらっしゃいます。
しかし、相続によって農地を取得する場合は、通常の売買や贈与による取得とは異なり、相続そのものについて農地法第3条の許可を受けてから取得する仕組みではありません。
その代わり、相続等によって農地の権利を取得した場合には、先ほど説明した農地法第3条の3による農業委員会への届出が必要になります。
農林水産省の事務処理基準でも、相続、遺産分割、包括遺贈などによる権利取得がこの届出の対象とされています。
したがって、相続人自身が農業をしていないという理由だけで、農地を相続できないというわけではありません。
もっとも、「相続できること」と「相続後に自由に売却・貸借・転用できること」は別問題です。この違いを理解しておくことが農地相続では非常に重要です。
4.誰が農地を相続するかは慎重に決める
農地が遺産に含まれている場合、遺産分割協議で「とりあえず相続人全員の共有にしておこう」と考えることがあります。
しかし、安易に共有名義にすることはおすすめできません。
共有状態になると、その後の売却、貸付け、転用などについて共有者同士で調整しなければならない場面が増えます。
例えば、父が亡くなり、子ども3人が農地を3分の1ずつ共有したとします。その後、長男は農地を残したい、長女は売却したい、次男は駐車場にしたいと考えるようになれば、農地の処分方針がまとまらなくなる可能性があります。
さらに、その共有者の一人が死亡すれば、その持分について再び相続が発生します。
世代が進むにつれて共有者が5人、10人と増えていけば、将来的な管理や処分が非常に難しくなることがあります。
そのため、農地の遺産分割では単純に法定相続分だけを見るのではなく、
・現在誰が耕作しているのか
・今後農業を続ける人がいるのか
・売却する予定があるのか
・農地として貸す予定があるのか
・転用の可能性があるのか
といった将来の利用方法まで考えることが大切です。
農地を引き継ぐ予定の相続人が明確であれば、一人の相続人に集約して取得させ、他の相続人には預貯金など別の財産を取得させる方法も検討できます。
5.農地だからといって簡単に売却できるとは限らない
相続人が農業をする予定がない場合、「相続後すぐに売ればよい」と考えることがあります。
しかし、農地を農地として売却したり貸したりする場合には、一般の宅地とは異なる規制があります。
農林水産省によれば、農地を農地として売買または貸借する場合には、原則として農業委員会の許可など、法律に基づく手続が必要です。
農地法第3条の許可を受けずに行った一定の権利移転は効力を生じません。
つまり、農地を相続したからといって、誰にでも自由に売却できるわけではありません。
買主側についても農地法上の要件が問題になるため、一般的な宅地より買主が限定されます。
農地を自分で管理できない場合には、農地中間管理機構、いわゆる「農地バンク」を利用して貸し付けるという選択肢もあります。
農林水産省も、相続した農地について、自ら農業をしない場合には農地バンクを利用する方法を案内しています。
「農地を相続したものの、遠方に住んでいて管理できない」という場合は、放置するのではなく、早い段階で農業委員会などへ相談することをおすすめします。
6.住宅・駐車場などにしたい場合は農地転用の手続に注意
「農地として売れないので、宅地にして売却したい」
「畑を駐車場にしたい」
「相続した土地に住宅を建てたい」
このように考えるケースもあります。
しかし、農地を住宅敷地、駐車場、店舗敷地など農業以外の用途に変更することを「農地転用」といい、農地法上の許可や届出が必要です。
所有者自身が農地を転用する場合には主に農地法第4条、転用を目的として売買等をする場合には主に農地法第5条が問題になります。
市街化区域内の農地では、一定の場合に農業委員会への届出によって手続を行う制度がありますが、市街化区域外では許可が必要です。
京都市農業委員会でも、市街化区域外の農地転用についての許可申請と、市街化区域内の農地転用についての届出をそれぞれ案内しています。
したがって、「相続登記をしたら宅地として売れる」というわけではありません。
農地の場所、都市計画区域、市街化区域か市街化調整区域か、農業振興地域内かどうかなどによって転用の可否や手続が変わることがあります。
特に農用地区域内の農地などでは転用が難しいケースもあるため、相続後の利用目的が決まっている場合は、遺産分割を行う前から農業委員会や関係行政機関に確認しておくことが重要です。
7.登記上の地目だけで判断しない
相続財産を調査するとき、固定資産税の課税明細書や登記事項証明書を確認すると、「田」「畑」などの記載を見つけることがあります。
しかし、農地法上、農地に該当するかどうかは登記簿上の地目だけで決まるものではありません。
農林水産省は、農地であるかどうかは土地の現況によって判断すると案内しており、登記上の地目が「原野」であっても、現況が農地であれば農地法が適用されることがあります。
反対に、登記地目が「田」や「畑」であっても、長期間別の用途で利用されているような場合には、現況や過去の転用手続などを調査する必要があります。
そのため、相続財産に農地らしい土地がある場合には、登記事項証明書だけを見るのではなく、固定資産税の資料、現地の状況、農地台帳、過去の農地転用手続なども確認することが重要です。
農林水産省の「eMAFF農地ナビ」では、農地台帳に登録された現況地目、農振法区分などの情報が公開されている農地もあります。
農地を相続したときの基本的な流れ
農地を含む相続では、まず被相続人が所有していた不動産を調査します。固定資産税の課税明細書、名寄帳、権利証・登記識別情報、登記事項証明書などを確認し、田や畑が含まれていないか確認します。
次に戸籍を収集して相続人を確定し、遺言書の有無を確認します。
遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行い、農地を誰が相続するのかを決めます。
その後、遺産分割協議書など必要書類を整え、法務局へ相続登記を申請します。
さらに、農地については農地法第3条の3に基づく農業委員会への届出も行います。
そして相続後に自分で耕作するのか、第三者へ貸すのか、売却するのか、転用するのかを検討し、それぞれ必要となる農地法上の手続を確認します。
農地相続では、相続登記だけを見て手続を進めるのではなく、「相続」「登記」「農地法」「将来の利用」という複数の視点から検討することがポイントです。
相続した農地を放置するのはおすすめできない
「農業をする人がいないから、とりあえずそのままにしておこう」というケースもあります。
しかし、農地を長期間放置すると草木が繁茂し、隣接地への越境、害虫、ゴミの不法投棄などの問題につながる可能性があります。
また、相続登記をしないまま次の相続が発生すると、相続人の人数が増え、将来の遺産分割や売却が難しくなることもあります。
農林水産省も、所有者が農地から離れて暮らす「不在村農地所有者」が増えることで、農地の集積・集約化の障害となったり、遊休農地や所有者不明農地につながったりする可能性を指摘しています。
利用予定がない場合ほど、早い段階で「売る」「貸す」「農地バンクを利用する」「家族の誰かが管理する」など今後の方針を考えることが大切です。
農地の相続税には納税猶予制度が利用できる場合もある
被相続人が農業を営んでいた場合には、相続税について「農地等の納税猶予」の特例を利用できる可能性があります。
一定の農業相続人が一定の農地等を相続し、農業を継続する場合や一定の貸付けを行う場合には、その農地等について一定部分に対応する相続税の納税が猶予される制度があります。
ただし、この制度は単純に「農地を相続したから利用できる」というものではありません。
被相続人、相続人、対象農地、営農状況などについて細かな要件があります。
また、納税猶予を受けた後に農地を売却したり転用したりすると、猶予されていた相続税や利子税の納付が必要になる場合があります。
納税猶予が関係する相続では、遺産分割や売却を進める前に、税理士、農業委員会などへ確認することが重要です。
農地相続では「誰が取得するか」だけでなく「取得後どうするか」が重要
通常の相続では、「どの財産を誰が取得するか」が遺産分割の中心になります。
しかし、農地の場合は、それだけでは十分ではありません。
農地を相続する人が農業を続けるのか、農業をしないのであれば誰かに貸すのか、売却するのか、将来的に転用するのかまで考えておく必要があります。
例えば、農地を取得する予定の相続人が遠方に住んでおり、今後も農業をする可能性がないにもかかわらず、「実家の近くの土地だから」という理由だけで取得すると、将来管理に困ることがあります。
一方、実際に農業を続けている相続人がいる場合には、その人へ農地を集約して相続させた方が、その後の管理や利用が円滑になる場合があります。
農地の相続では、目の前の遺産分割だけでなく、5年後、10年後の土地利用まで考えて取得者を決めることが重要です。
まとめ|農地がある相続は早めに調査と手続を
相続財産に農地が含まれている場合には、一般的な不動産相続に加えて農地法上の手続を確認する必要があります。
特に重要なのは、相続登記と農業委員会への届出が別々の手続であることです。
また、相続による農地の取得自体と、その後の売却・貸借・転用は分けて考えなければなりません。
相続した農地をどう利用するのかによって必要となる手続も異なります。
農地の相続が判明したら、まず土地の所在、地番、登記地目、現況、農地台帳上の情報などを確認し、「誰が相続するのか」「相続後どう利用するのか」を整理したうえで手続を進めることをおすすめします。
特に、複数の農地がある場合、相続人が多数いる場合、長期間相続登記をしていない場合、農地を売却・転用したい場合などは、早めに専門家や農業委員会へ相談することで、その後の手続をスムーズに進めやすくなります。
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相続財産の中に田や畑があり、「相続登記以外に何をすればよいかわからない」「農地を誰が相続すればよいのかわからない」といった場合も、お気軽にご相談ください。
