相続財産に実家や土地が含まれているとき、とりあえず法定相続分どおり兄弟で共有名義にしておこう、と考える方は少なくありません。
相続人が3人なら各3分の1という形は、一見すると公平で、話もまとめやすいように思えます。
しかし、不動産の共有は、財産の価値だけでなく、売却・利用・修繕などに関する意思決定権まで分けることを意味します。
相続時には関係が良好でも、転居、病気、認知症、資金事情、さらに次の相続によって状況は変化します。共有名義にした直後には問題がなくても、5年後、10年後に身動きが取れなくなることがあるのです。
本記事では、相続不動産を共有名義にする前に知っておきたいリスク、共有を選んでもよい場合、共有を避ける遺産分割方法、すでに共有になっている場合の解消方法を解説します。
相続不動産の「共有名義」とは
共有名義とは、1つの不動産を複数人が持分割合に応じて所有する状態です。
たとえば、父の自宅を長男・長女・次男が各3分の1ずつ相続すると、3人の共有不動産になります。
ここで誤解しやすいのは、持分3分の1が「建物の1階」「土地の東側3分の1」など、特定の場所を意味するわけではないことです。
各共有者は、抽象的な割合として不動産全体に権利を持ちます。
したがって、「自分の持分部分だけを自由に建て替える」「自分の場所だけを単独で売る」ということはできません。
共有物に関する主なルールは、行為の内容によって次のように異なります。
| 行為の種類 | 原則的な決定方法 | 例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 各共有者が単独でできる | 雨漏りの応急修理、不法占拠者への一定の請求など |
| 管理行為 | 持分価格の過半数で決める | 利用方法の決定、一定の賃貸借など |
| 形状・効用を著しく変えない変更 | 持分価格の過半数で決める | 内容に応じた軽微な改良など |
| 重大な変更・不動産全体の処分 | 全共有者の同意が必要 | 建物の取り壊し、不動産全体の売却など |
具体的な工事や賃貸がどの区分に該当するかは、目的、規模、期間などによって判断が分かれます。
特に賃貸借は借地借家法の影響も受けるため、「過半数が賛成しているから必ず進められる」と単純に判断しないことが大切です。
相続不動産を共有名義にする7つのリスク
1.不動産全体を売却するには全共有者の協力が必要
共有不動産全体を第三者へ売却するには、共有者全員が売主となり、売買契約や所有権移転登記に協力しなければなりません。3人のうち1人が反対すれば、持分の過半数が賛成していても、不動産全体を売却することはできません。
「もう空き家なので売りたい」「維持費が負担になっている」と2人が考えていても、残る1人が「思い出の家を残したい」と反対すれば、話合いは止まります。
売却条件には同意していても、売出価格、値下げの範囲、測量や解体の要否、仲介業者の選定、引渡時期などで意見が分かれることもあります。
買主が見つかってから共有者間の対立が判明すると、売却の機会を逃すだけでなく、仲介業者や買主にも迷惑をかけかねません。
将来売却する予定があるなら、相続時点で換価分割を検討するほうが、手続を一本化しやすい場合があります。
2.修繕・賃貸・建替えなどの管理方針でもめやすい
建物は、所有しているだけでも劣化します。屋根や外壁の修繕、庭木の管理、火災保険、空き家の見回りなどが必要です。ところが、共有者によって経済状況や不動産への思いが異なると、「今すぐ直すべきか」「最低限の応急措置でよいか」「費用をどこまでかけるか」で対立しやすくなります。
賃貸に出す場合も、賃料、契約期間、リフォーム費用、入居者対応などを決めなければなりません。家賃収入があれば、その収入と必要経費を整理し、共有者間で精算する必要もあります。
令和5年4月1日施行の改正民法によって共有物の管理ルールは見直されましたが、共有者同士の意見や利害が自動的に一致するわけではありません。法律上は多数決で決められる行為でも、実際に費用を負担する人、現地で対応する人、利用している人の間に不公平感が残れば、親族関係の悪化につながります。
3.共有者の1人が自分の持分だけを第三者へ売却できる
不動産全体の売却には全共有者の協力が必要ですが、各共有者は、自分の共有持分だけを第三者へ売却できます。
共有持分だけでは自由な利用や全体売却ができないため、通常の不動産としては買手が限られ、価格も「不動産全体の価格×持分割合」より低く評価されます。
一方、共有持分を専門に買い取る事業者が取得すると、残る共有者に持分の買取りや不動産全体の売却、共有物分割を求めることがあります。
兄弟姉妹だけの共有だったはずが、知らない第三者との共有に変われば、感情面だけでなく交渉面の負担も大きくなります。「家族だから持分を勝手に売らないだろう」という期待だけでは、将来の安全を確保できません。
4.1人だけが住んでいると使用利益や費用負担の問題が生じる
相続した実家に長男だけが住み続け、他の兄弟も共有持分を持つケースは珍しくありません。共有者は持分に応じて共有物全体を使用できますが、1人が合意なく持分を超えて使用している場合、他の共有者から使用の対価を求められる可能性があります。
もっとも、被相続人との同居状況、相続開始前後の合意、遺産分割の経緯などによって結論は異なります。「無償で住んでよいと言われた」「固定資産税や修繕費は自分が負担してきた」「他の相続人も使用を認めていた」といった事情が争点になることがあります。
居住者側には「家を守って費用も出してきた」という思いがあり、非居住者側には「自分の財産を無償で使われている」という思いがあります。共有にするなら、居住の期間、使用料の有無、固定資産税・保険料・修繕費の分担、退去や売却の条件まで書面で決めておく必要があります。
5.固定資産税・修繕費・管理費の負担でもめる
共有不動産の固定資産税・都市計画税について、共有者は自治体に対して連帯納税義務を負います。一般的には代表者に納税通知書が送られますが、「自分は持分相当額だけ納めれば自治体に対する義務が終わる」という仕組みではありません。
代表者がいったん全額を支払い、他の共有者が負担分を送金する運用もあります。
しかし、送金が遅れる、修繕の必要性に納得しない、草刈りや見回りをする人だけに負担が偏るといった問題が起こります。
支出だけでなく、賃料や駐車場収入がある場合には収入の管理も必要です。
収支報告、領収書の保管、確定申告の資料作成を誰が担当するのかまで決めなければ、少額の不一致が長年積み重なって大きな不信感になりかねません。
6.次の相続で共有者が増え、持分が細分化する
共有名義の最大の問題は、時間の経過とともに権利関係が複雑になりやすいことです。共有者の1人が死亡すると、その持分がさらにその人の相続人へ承継されます。
当初は兄弟3人の共有でも、各兄弟の配偶者や子へ相続が重なると、共有者が6人、10人と増えることがあります。
甥や姪など普段交流のない人が共有者になり、住所が分からない、海外に住んでいる、認知症で意思能力に問題がある、未成年者と親権者の利益が対立する、といった事情が加わることもあります。
共有者が増えるほど、売却や重大な変更に必要な同意、本人確認書類、登記手続の調整に時間と費用がかかります。相続登記を行っても、共有状態そのものが解消されるわけではありません。今の相続人だけでなく、「次の相続が起きたときに誰が話合いをすることになるか」まで想像することが重要です。
7.共有物分割請求によって訴訟や競売に至る可能性がある
民法上、各共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求できます。共有者間で分割方法の協議がまとまらなければ、裁判所に共有物分割を求めることができます。
裁判では、不動産を物理的に分ける現物分割、特定の共有者が不動産を取得して他の共有者に金銭を支払う価格賠償などが検討されます。適切な方法で分けられない場合には、競売によって売却し、その代金を分配する結論になる可能性もあります。
競売は、通常の任意売却と比べて条件や価格の面で不利になることがあります。また、親族間の訴訟には、弁護士費用や時間だけでなく、大きな精神的負担も伴います。共有名義を選ぶことは、将来、共有者の誰かが共有関係の終了を求める可能性を受け入れることでもあります。
「法定相続分どおりなら公平」という考え方の落とし穴
相続人全員が同じ割合で不動産を共有すれば、数字の上では公平に見えます。しかし、実際の公平は持分割合だけでは判断できません。
たとえば、長男が実家に居住し、長女と次男は遠方に住んでいる場合、長男は住居を利用できる一方、維持管理の手間を負います。長女と次男は利用できない一方、財産価値の実現には長男の退去や売却への同意が必要です。固定資産税や修繕費を誰が負担するかによっても、実質的な利益は変わります。
大切なのは、登記上の割合をそろえることではなく、各相続人が取得する財産全体の価値、利用状況、将来の売却可能性、費用負担を含めて調整することです。
共有名義を避ける主な遺産分割方法
1.現物分割
現物分割は、遺産をそのままの形で各相続人に割り振る方法です。
たとえば、長男が自宅、長女が預貯金、次男が別の土地を取得するように、できる限り各財産を単独所有にします。
不動産と預貯金の価値が釣り合わない場合には、他の分割方法との組合せも検討します。土地を実際に分筆して分ける方法もありますが、接道、面積、建築規制、測量費、分筆後の価値などを事前に確認する必要があります。
2.代償分割
代償分割は、1人の相続人が不動産を取得し、その人が他の相続人に代償金を支払う方法です。
実家に住み続ける相続人がいる場合や、事業用不動産を分散させたくない場合に有効です。
ただし、不動産を取得する人に代償金を支払う資力が必要です。
不動産の評価方法を固定資産評価額、相続税評価額、実勢価格のどれにするかでも意見が分かれます。代償金の金額、支払期限、分割払いの可否、担保や遅延時の対応を遺産分割協議書に明確に記載することが重要です。
税務上の取扱いもあるため、必要に応じて税理士へ確認します。
3.換価分割
換価分割は、相続不動産を売却し、諸費用や税金を精算した後の代金を相続人間で分ける方法です。
誰も住む予定がなく、全員が売却に賛成している場合には、共有状態を長期間残さず公平に分けやすい方法です。
売却前に、最低売却価格、仲介業者、測量・解体・残置物処分の費用、譲渡所得税や仲介手数料の負担、売却代金の分配割合を合意しておきます。
便宜上、代表相続人の単独名義に登記して売却する設計もありますが、遺産分割協議書の内容や実際の代金分配が不明確だと、贈与税などの疑問が生じるおそれがあります。登記と税務の両面を確認して進めるべきです。
共有名義にしてもよいケースはある?
共有名義が常に不適切というわけではありません。
たとえば、相続開始後すぐに不動産全体を売却する方針が決まっており、売却までの短期間だけ共同名義にする場合は、実務上の選択肢になり得ます。
また、収益不動産を共同で運営する明確な目的があり、共有者に十分な知識と協力関係がある場合も考えられます。
ただし、少なくとも次の事項は、共有にする前に確認しておきたいところです。
- 誰が不動産を使用し、誰が管理するのか
- 固定資産税、保険料、修繕費、管理費をどう負担するのか
- 賃料収入や売却代金をどう分配するのか
- 売却の時期、最低価格、仲介業者をどう決めるのか
- 共有者が持分を手放したいとき、他の共有者が買い取るのか
- 認知症、死亡、連絡不能などが生じた場合にどう対応するのか
- 共有関係をいつまでに解消するのか
共有者間で合意書を作成することは紛争予防に役立ちますが、すべての将来問題を解決できるわけではありません。
契約内容が相続人や持分取得者にどこまで及ぶかは別途検討が必要です。
また、共有物を分割しない旨の契約も、民法上は一度に定められる期間が5年以内とされています。
すでに共有名義になっている場合の解消方法
すでに相続不動産が共有になっていても、早い段階であれば、次のような方法を検討できます。
- 共有者全員で不動産全体を売却し、代金を分ける
- 共有者の1人が他の共有者の持分を買い取る
- 土地を分筆し、それぞれが単独所有する形に整理する
- 他の共有財産との交換や金銭精算によって持分を集約する
- 協議がまとまらない場合は、民事調停や共有物分割請求を検討する
どの方法が適切かは、不動産の評価額、住宅ローンや抵当権の有無、居住者、取得資金、譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税などによって異なります。
相続による遺産分割なのか、相続後の持分売買・贈与・交換なのかによって、登記原因や税負担も変わり得ます。
「兄弟間で名義を移すだけ」と考えず、実行前に司法書士・税理士などへ確認することが重要です。
相続登記の義務化を理由に、急いで共有登記をする前に
令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが原則となりました。
ただし、期限があるからといって、十分な検討をせず法定相続分で共有登記をすることが唯一の対応ではありません。
遺産分割協議を早めに進めて最終的な取得者へ直接相続登記をする方法のほか、協議がまとまらない場合には、相続人申告登記によって申請義務を履行する制度もあります。
もっとも、相続人申告登記は所有権の帰属を確定させる遺産分割や通常の相続登記に代わるものではありません。
また、その後の遺産分割によって法定相続分を超えて不動産を取得した場合には、遺産分割の日から3年以内に、その内容を踏まえた登記申請が必要です。
期限対策と、将来に適した名義の決定は分けて考え、早い段階で手続の見通しを立てることをおすすめします。
まとめ|共有名義は「今の公平」より「将来の動かしやすさ」で判断する
相続不動産の共有名義は、相続人間の取得額を数字上そろえやすい一方で、売却・管理・費用負担・使用方法について継続的な合意や調整を必要とします。
さらに、共有者の死亡による持分の細分化、第三者への持分売却、共有物分割請求など、時間がたつほど解決が難しくなるリスクがあります。
特に、誰かが住んでいる実家、当面売却しない空き家、修繕が必要な建物、相続人同士が遠方に住んでいる不動産では、安易な共有を避けたほうがよい場合が多いでしょう。
遺産分割では、目の前の持分割合だけでなく、5年後、10年後の利用、管理、売却、次の相続まで見据えることが大切です。現物分割、代償分割、換価分割を比較し、不動産をできる限り単独名義にまとめられないか、相続登記をする前に検討しましょう。
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参考リンク
- e-Gov法令検索:民法
- 法務省:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し
- 法務省:相続登記の申請義務化に関するQ&A
- 裁判所:遺産分割調停
- 国税庁:No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
- 国税庁:遺産の換価分割のための相続登記と贈与税
- 岡山市:共有名義の土地・家屋の固定資産税は持分に応じて課税されますか?


