以前、父から不動産の贈与を受けたとき、相続時精算課税を選んだような気がする

申告は税理士に任せたが、控えが見当たらない

親が亡くなり相続税の準備をしているものの、過去の贈与が暦年課税だったのか相続時精算課税だったのか分からない

このような問題が起こることがあります。

相続時精算課税は、一度選択すると、その選択をした贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことができません。
また、贈与者が亡くなったときには、相続時精算課税の対象となった贈与財産を踏まえて相続税を計算する必要があります。

そのため、「選択したかどうか分からない」という状態を放置することはできません。

国税庁は、令和8年(2026年)9月下旬以降、e-Taxのマイページに「相続時精算課税適用状況」を追加する予定であると公表しています。
新機能が利用できるようになれば、誰を特定贈与者として、いつから相続時精算課税を適用しているかを、従来より確認しやすくなります。

ただし、本記事を作成した令和8年(2026年)8月28日時点では、まだ「対応予定」の段階です。

利用開始日は「令和8年9月下旬以降」とされており、画面イメージにも今後変更される可能性がある旨の注意書きがあります。現時点ではまだ開始されていませんのでご注意ください。


e-Taxに追加される「相続時精算課税適用状況」とは

新機能は、個人のe-Taxマイページにある「贈与税関係情報」に追加される予定です。

国税庁の公表内容によると、相続時精算課税を適用している場合、主に次の情報が表示されます。

  • 特定贈与者の氏名
  • 相続時精算課税の適用開始年分
  • これまでに申告した年分
  • 申告した財産の価額の合計額
  • 相続時精算課税分の贈与税額など

一覧から特定贈与者を選ぶと、その贈与者について過去に申告した内容を年分ごとに確認できる予定です。

ここでいう「特定贈与者」とは、相続時精算課税の選択に係る贈与者のことです。

相続時精算課税は受贈者が一律に選ぶ制度ではなく、贈与者ごとに選択します。
たとえば、父からの贈与について相続時精算課税を選択していても、母からの贈与について当然に同じ制度が適用されるわけではありません。

新機能で特定贈与者の氏名が表示されることは、この贈与者ごとの区別を確認するうえで非常に重要です。


いつから利用できる?令和8年8月現在はまだ開始前

国税庁の発表では、「相続時精算課税適用状況」は令和8年(2026年)9月下旬に対応予定です。同じ時期に、次の機能も贈与税関係情報へ追加される予定です。

追加予定の機能 確認できる内容
相続時精算課税適用状況 特定贈与者の氏名、適用開始年分、年分ごとの申告内容など
更正・決定の通知情報 贈与税の更正通知書・決定通知書に関する情報
書面申告提出状況 書面で提出した贈与税申告書の提出記録

「書面申告提出状況」については、令和8年9月のリリース時点で、平成29年(2017年)分から令和7年(2025年)分までの提出記録を確認できる予定とされています。

ただし、「提出記録が表示されること」と「提出した書面の内容をすべて画面上で閲覧できること」は同じではありません。

国税庁の案内は、書面申告についてはあくまで「提出記録を表示する」としています。具体的な申告内容や添付書類まで確認する必要がある場合は、申告書の控え、税務署の申告書等閲覧サービスその他の方法も検討する必要があります。


新機能の利用開始後に確認する手順

実際の画面は今後変更される可能性がありますが、公表されている内容と現在のe-Taxマイページの構成から、利用開始後はおおむね次の流れで確認することになると考えられます。

  1. e-Taxホームページの「ログイン」からe-Taxソフト(WEB版)へ進む
  2. マイナンバーカード、スマホ用電子証明書、または利用者識別番号とパスワードでログインする
  3. ログイン後に「マイページ」を開く
  4. 「各税目に関する情報」のうち「贈与税関係」を選ぶ
  5. 「相続時精算課税適用状況」を確認する
  6. 表示された特定贈与者を選択し、適用開始年分や年分ごとの申告内容を確認する

現在のe-Taxマイページは、e-Taxソフト(WEB版)へログインした後、「マイページ」を選ぶ仕組みです。

申告書等の情報を表示する際には、マイナンバーカード等の電子証明書が必要とされています。

利用者識別番号とパスワードだけでログインできた場合でも、情報の表示段階で電子証明書による本人確認が必要となることがあります。

事前にマイナンバーカードの有効期限や暗証番号、カードを読み取れるスマートフォンまたはICカードリーダーの利用環境を確認しておくとよいでしょう。

なお、この情報を確認するのは、贈与を受け、相続時精算課税を選択した本人のマイページです。

贈与者である父母や祖父母のマイページを見れば、受贈者全員の適用状況が一覧できるという仕組みではありません。
兄弟姉妹がそれぞれ贈与を受けている場合は、それぞれの受贈者について確認が必要です。

なぜ「選択したか分からない」ことが問題になるのか

1.一度選択すると暦年課税へ戻せない

相続時精算課税は、贈与者ごとに選択します。そして、一度選択すると、その贈与者からその後に受ける贈与について、暦年課税へ変更することはできません。

過去に選択したことを忘れて、同じ贈与者からの贈与を暦年課税として処理すると、申告や税額計算を誤るおそれがあります。

「何年に選択したか」だけでなく、「誰からの贈与について選択したか」を確認することが大切です。

2.少額の贈与でも制度の適用関係は続く

令和6年(2024年)1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました。
このため、特定贈与者から受けた贈与額などによっては、その年に贈与税の申告が不要となる場合があります。

しかし、申告が不要であることと、相続時精算課税の選択自体が消えることは別問題です。

過去に相続時精算課税を選択していれば、その後の少額贈与についても同制度の適用関係は続きます。
「最近は贈与税申告をしていないから、相続時精算課税ではない」とは限りません。

また、同一年中に複数の特定贈与者から贈与を受けた場合、年110万円の基礎控除は贈与者ごとに110万円ずつ使えるものではなく、受贈者ごとの年110万円を一定の方法であん分します。

具体的な計算や申告の要否は、税理士または税務署へ確認することをおすすめします。

3.贈与者の死亡時に相続税の計算へ影響する

相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなった場合、相続時精算課税の対象となった贈与財産を考慮して相続税を計算します。

贈与時の価額が基準となり、令和6年(2024年)1月1日以後の贈与については、年分ごとの贈与財産の価額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額が加算対象となります。

相続時精算課税の利用を見落とすと、相続税申告の要否判定や税額計算に影響する可能性があります。

親が亡くなってから初めて探すのではなく、生前のうちに適用状況と贈与資料を整理しておくことが望ましいでしょう。

e-Taxに表示されないときは「使っていない」と断定しない

新機能の利用開始後、相続時精算課税に関する情報が見当たらなかったとしても、直ちに「過去に選択していない」と断定するのは慎重であるべきです。

国税庁は、画面に表示される情報について、e-Taxに登録されている情報であると案内しています。
また、新機能の画面イメージは検討中の内容を含み、変更される可能性があります。

古い年分の書面提出、提出時の氏名・住所の相違、データ反映の時期など、個別事情がある場合には追加確認が必要となる可能性があります。

表示されない場合や表示内容に疑問がある場合は、次の資料・方法を順に確認しましょう。

1.手元の申告書控えを探す

「相続時精算課税選択届出書」、贈与税申告書の第一表・第二表、税務署の受付印がある控え、電子申告の受信通知、贈与契約書、振込記録、不動産の登記事項証明書などを確認します。

相続時精算課税を利用した年だけでなく、その後の贈与資料も年ごとに整理することが重要です。

2.過去に依頼した税理士へ確認する

過去の贈与税申告を税理士へ依頼していた場合は、当時の申告書控えや相続時精算課税選択届出書の提出状況が残っていないか確認します。

e-Tax上で納税者と税理士が「委任関係の登録」を行うと、税理士も納税者のマイページにある贈与税関係情報を参照できる予定です。

税理士が参照する場合にも、税理士用電子証明書やマイナンバーカード等による認証が必要です。

3.現在のe-Taxの申告情報・メッセージボックスを確認する

令和7年(2025年)1月から、e-Taxで提出した贈与税申告書は、マイページの「贈与税関係」から確認できるようになっています。

贈与税申告書と同時に相続時精算課税選択届出書を電子送信した場合は、申告年分の帳票一覧に表示されます。

一方、選択届出書を贈与税申告書と別に送信した場合や、選択届出書だけを送信した場合は、従来の「贈与税関係」から確認できないことがあり、その場合はメッセージボックスに格納された受信通知を確認します。

4.税務署の「申告書等閲覧サービス」を利用する

過去に提出した贈与税申告書や各種届出書の内容を確認する必要がある場合、税務署の「申告書等閲覧サービス」を利用できます。

このサービスの対象には、贈与税申告書のほか、各種の申請書・届出書や、一定の添付書類も含まれます。

税務署窓口で申請し、本人確認書類が必要です。
代理人が申請する場合は、代理人の資格に応じて委任状などの書類が必要となります。
文書が業務センターや外部書庫に保管されていることもあるため、事前に税務署へ連絡しておくとスムーズです。

写しの交付が必要な場合には、保有個人情報の開示請求という方法もありますが、手数料がかかり、交付まで一定の日数を要します。

e-Taxで確認できることと、確認できないこと

新機能は便利ですが、相続や生前対策に必要な事実をすべて確認できるわけではありません。

e-Taxで確認が期待できること 別の資料で確認すべきこと
特定贈与者の氏名 実際に贈与された財産の現在の所在
相続時精算課税の適用開始年分 贈与契約の内容や当事者の意思
年分ごとの申告内容 不動産・預貯金・有価証券の名義や残高
申告した財産価額や贈与税額など 遺産分割、特別受益、遺留分など民法上の評価

税務上の「相続時精算課税適用財産」と、民法上の特別受益として持戻しの対象になるかどうかは、同じ基準で決まるものではありません。

また、e-Taxの表示だけで不動産の所有権や贈与契約の有効性が証明されるわけでもありません。

相続手続きでは、e-Taxの情報を入口として、贈与契約書、預貯金の入出金履歴、登記事項証明書、固定資産評価証明書、過去の申告書などを照合する必要があります。

相続が始まる前に作っておきたい「贈与の記録表」

相続時精算課税の適用状況が確認できたら、画面を見るだけで終わらせず、次の事項を一覧にして保存しておくと安心です。

  • 贈与者と受贈者の氏名
  • 相続時精算課税の適用開始年分
  • 贈与した年月日
  • 財産の種類と金額
  • 不動産の場合は所在・地番・家屋番号
  • 贈与時の評価額と評価資料
  • 贈与税申告の有無
  • 納付した贈与税額
  • 贈与契約書、申告書控え、受信通知の保存場所
  • 手続きを依頼した税理士などの連絡先

家族が制度名を正確に覚えていなくても、この記録があれば、相続開始後の資料収集が大幅に進めやすくなります。

特に、不動産の生前贈与を受けた場合は、登記記録だけでは贈与税の課税方式まで分かりません。税務資料と登記資料を分けず、一緒に保管しておくことが大切です。

司法書士へ相談できること、税理士へ相談すべきこと

相続時精算課税は税務の制度です。

相続税・贈与税の申告要否、財産評価、税額計算、申告書の作成や税務代理などの個別具体的な税務判断は、税理士または税務署へご相談ください。

一方、司法書士は、不動産の生前贈与による所有権移転登記、相続登記、遺言書作成、生前対策、遺産分割協議書の作成などを通じて、財産の名義や権利関係を整理します。

たとえば、e-Taxで過去の相続時精算課税の利用が判明した場合でも、次の問題は別途検討が必要です。

  • 贈与された不動産の名義変更が完了しているか
  • 贈与契約書などの権利関係を示す資料が残っているか
  • 遺言書の内容と生前贈与後の財産状況が合っているか
  • 相続人間で生前贈与をどのように整理するか
  • 相続登記に必要な戸籍や遺産分割協議書をどのように整えるか

税務と登記・民法上の問題は密接に関係しますが、それぞれ確認すべき資料と専門分野が異なります。

司法書士と税理士が連携して確認することで、見落としを防ぎやすくなります。

よくある質問

Q1.新機能を使えば、相続時精算課税を選択したか必ず分かりますか?

相続時精算課税を適用している場合には、特定贈与者の氏名や適用開始年分が表示される予定です。

ただし、国税庁は表示情報をe-Taxに登録されている情報と案内しており、開始前のため画面や取扱いが変わる可能性もあります。表示がないことだけで結論を出さず、古い書面申告や届出書の控え、税務署の保有資料も確認してください。

Q2.父からの贈与で選択した場合、母からの贈与にも適用されますか?

自動的には適用されません。

相続時精算課税は贈与者ごとに選択する制度です。父と母の双方から贈与を受けている場合は、それぞれについて課税方式を確認する必要があります。

Q3.年110万円以下の贈与なら、確認しなくても問題ありませんか?

そうとは限りません。

令和6年(2024年)以後の相続時精算課税には年110万円の基礎控除がありますが、相続時精算課税を選択した事実や、同じ贈与者からの将来の贈与に同制度が適用されることは変わりません。

複数の特定贈与者がいる場合の計算にも注意が必要です。

Q4.司法書士が本人に代わってe-Taxの贈与税情報を閲覧できますか?

国税庁の新機能の案内では、e-Tax上で納税者と委任関係を登録した税理士が贈与税関係情報を参照できるとされています。

司法書士へ相談する際は、ご本人が確認した画面や申告書控えを持参し、必要に応じて税理士とも連携するのが現実的です。

 

まとめ|新機能は便利だが、資料の照合まで行うことが大切

令和8年(2026年)9月下旬以降、e-Taxマイページの「贈与税関係情報」に「相続時精算課税適用状況」が追加される予定です。

特定贈与者の氏名、適用開始年分、年分ごとの申告内容などを確認できるようになれば、「相続時精算課税を使ったか分からない」という不安の解消に役立ちます。

もっとも、令和8年8月28日現在は開始前であり、表示内容だけですべての贈与事実や相続上の問題が分かるわけではありません。

e-Taxの情報を、申告書控え、贈与契約書、預貯金記録、不動産登記資料などと照合し、税務上の判断は税理士または税務署へ、登記・遺言・遺産分割などの法律手続きは司法書士へ相談することが大切です。

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参考リンク