「相続の話をすると、親から財産を欲しがっていると思われそう」

「縁起でもない話なので、なかなか切り出せない」

「家族で話し合うとしても、何から確認すればよいのか分からない」

相続について家族で話した方がよいと分かっていても、実際に話題にするのは簡単ではありません。

しかし、相続が発生してから初めて財産を調べようとすると、預貯金口座や不動産、借金、生命保険、遺言書の保管場所などが分からず、残された家族が困ることがあります。また、親の考えを確認できないまま、子どもたちだけで遺産の分け方を決めなければならない場合もあります。

政府広報でも、財産を円滑に引き継ぐためには、相続の基本を理解し、必要な準備や家族での話し合いを行うことが大切だと案内されています。

家族会議の目的は、親の財産を早く分けることではありません。

本人の希望を家族で共有し、将来どのような問題が起こり得るかを確認したうえで、必要な準備を始めることが本来の目的です。

この記事では、家族会議で話しておきたい相続の項目、話し合いの進め方、注意すべき法的ポイントを解説します。


家族会議は「遺産分割協議」ではない

最初に理解しておきたいのは、相続が始まる前の家族会議と、相続開始後の遺産分割協議は別のものであるという点です。

親が存命中に子どもたちが集まり、

「長男が自宅を相続する」

「次女は預貯金だけを受け取る」

「私は何も相続しない」

などと話し合っても、それだけで将来の遺産分割が法的に確定するわけではありません。

遺産分割協議は、相続が始まった後に、その時点の相続人全員で行う手続です。
家族会議で作成した議事録や確認書も、通常は遺言書や遺産分割協議書の代わりにはなりません。

また、相続放棄は、相続が始まった後に家庭裁判所で行う手続です。
「自分は財産をもらわない」と生前の家族会議で約束しただけでは、法律上の相続放棄にはなりません。

相続放棄や限定承認には、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月という熟慮期間があります。

家族会議は、将来の方向性を確認するための大切な機会です。しかし、話し合った内容を確実に実現するには、遺言書、任意後見契約、家族信託、財産管理委任契約など、それぞれの目的に適した法的な準備へつなげる必要があります。


家族会議はいつ開けばよい?

家族会議を始める時期について、明確な年齢の基準はありません。
ただし、本人が自分の考えを十分に伝えられるうちに始めることが重要です。

例えば、次のような時期がきっかけになります。

  • 親が高齢になってきたとき

  • 定年退職を迎えたとき

  • 配偶者が亡くなったとき

  • 入院や手術を経験したとき

  • 自宅の売却や住み替えを考え始めたとき

  • 介護施設への入居を検討するとき

  • 認知症への不安が出てきたとき

  • お盆や年末年始など、家族が集まるとき

  • 遺言書やエンディングノートを作ろうと思ったとき

認知症と診断されたからといって、直ちに遺言書を作成できなくなるわけではありません。
もっとも、遺言の内容を理解し、判断できる能力が必要であるため、判断能力が低下してからでは希望どおりの対策ができない可能性があります。

「まだ元気だから必要ない」のではなく、元気な今だからこそ本人の意思を確認できると考えることが大切です。

家族会議で話しておくべき10のこと

1.家族関係と相続人になる人

まずは、将来誰が相続人になる可能性があるのかを確認します。

一般的な家族であれば分かりやすいように思えますが、次のような事情がある場合には注意が必要です。

  • 前婚の子がいる

  • 認知した子がいる

  • 養子縁組をしている

  • 子どもが先に亡くなっている

  • 兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる可能性がある

  • 長期間連絡を取っていない親族がいる

  • 海外に居住している相続人がいる

  • 内縁の配偶者や事実上の家族がいる

戸籍上の相続関係と、家族が認識している関係が一致しているとは限りません。

特に再婚家庭では、現在の配偶者、前婚の子、現在の配偶者との子の間で、相続に対する考え方が異なることがあります。
家族会議の段階で全員を一堂に集めることが難しい場合は、まず本人の希望を整理し、その後、必要に応じて個別に説明する方法も考えられます。

2.どのような財産があるか

相続手続で最初に問題になりやすいのが、財産の全体像が分からないことです。

家族会議では、少なくとも次のような財産の有無を確認しておきましょう。

  • 預貯金

  • 土地・建物

  • 株式、投資信託、国債など

  • 生命保険

  • 自動車

  • 貸金庫

  • 貴金属、骨董品などの動産

  • 会社の株式や事業用資産

  • 他人に貸しているお金

  • 暗号資産、電子マネー、ネット証券などのデジタル資産

最初から口座残高などを細かく家族に伝えることに抵抗がある場合は、金融機関名、支店名、財産の種類、関係書類の保管場所だけでも整理しておくとよいでしょう。

ただし、暗証番号、インターネットバンキングのパスワード、秘密の質問などを家族全員に配ることは、防犯上おすすめできません。
重要な情報は、安全な方法で管理し、「必要な情報がどこにあるか」を分かるようにしておくことが重要です。

3.借金や保証債務の有無

相続の対象になるのは、プラスの財産だけではありません。借入金、未払金、税金、事業上の債務など、マイナスの財産も原則として相続の対象になります。

特に見落とされやすいのが、次のような債務です。

  • 住宅ローンや事業資金の借入れ

  • クレジットカードの未払金

  • 知人や親族からの借入れ

  • 賃貸物件の原状回復費用

  • 事業に関する買掛金

  • 他人の借入れに対する保証債務

家族が借金の存在を知らず、相続開始からしばらく経過した後に請求書が届くこともあります。

債務がある場合は、借入先、残額、担保、保証人、返済状況などを整理し、契約書や返済予定表の保管場所を共有しておきましょう。

4.不動産を誰が、どのように引き継ぐか

相続トラブルの原因になりやすい財産の一つが不動産です。

自宅しか大きな財産がない場合、家を相続する人と、それ以外の相続人とのバランスをどのように取るかが問題になります。

家族会議では、次の点を確認しておきましょう。

  • 現在の登記名義人は誰か

  • 誰がその家に住んでいるか

  • 将来も住み続けたい人がいるか

  • 売却する予定があるか

  • 空き家になる可能性があるか

  • 固定資産税や修繕費を誰が負担するか

  • 共有名義にする必要があるか

  • 農地、山林、遠方の土地がないか

  • 境界や未登記建物などの問題がないか

「子ども全員で平等に共有すればよい」と考える方もいますが、不動産を共有すると、将来の売却や建替え、管理方針をめぐって意見が分かれる可能性があります。
共有者の一人が亡くなると、その持分がさらに相続され、権利関係が複雑になることもあります。

また、相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。
正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。

義務化前に発生した相続についても対象となり、以前から相続登記をしていない不動産は、原則として2027年3月31日までの対応が必要です。

親名義だと思っていた自宅が、実際には亡くなった祖父母の名義のままだったというケースもあります。家族会議を機に、登記事項証明書などで名義を確認しておくと安心です。

5.本人が希望する財産の分け方

本人が、誰に何を引き継いでもらいたいと考えているのかも重要なテーマです。

ただし、いきなり金額や割合の話から始めると、家族が身構えてしまいます。
まずは、本人が大切にしていることを確認しましょう。

例えば、

  • 配偶者が安心して自宅に住み続けられるようにしたい

  • 事業を継ぐ子に会社の株式を引き継がせたい

  • 障害のある子の生活を支えたい

  • 介護をしてくれた子に多く残したい

  • 孫の教育のために財産を使いたい

  • お世話になった親族や団体にも財産を残したい

といった希望が考えられます。

財産を必ず均等に分けなければならないわけではありません。
しかし、分け方に差を設ける場合には、その理由を整理しておくことが大切です。

家族に対する説明がないまま、遺言書に結果だけが書かれていると、「なぜ自分だけ少ないのか」という不満につながることがあります。
必要に応じて、遺言書の付言事項に本人の思いや理由を記載する方法もあります。

なお、配偶者、子、一定の場合の直系尊属には遺留分が認められるため、遺言書を作成するときは遺留分にも配慮する必要があります。

6.過去の贈与や介護などの家族事情

相続開始後によく問題になるのが、過去の生前贈与や家族による介護の負担です。

家族会議では、次のような事情も可能な範囲で確認しておきます。

  • 住宅購入資金を援助した子がいる

  • 結婚資金や開業資金を渡したことがある

  • 多額の学費や留学費用を負担した

  • 不動産を生前贈与した

  • 特定の子だけが長期間介護をしている

  • 親の生活費や施設費を子が負担している

  • 親の財産管理を一人の子に任せている

介護をしたという事実だけで、当然に相続分が増えるわけではありません。
また、家族が通常期待される範囲を超えて貢献したかどうかについては、相続開始後に認識が食い違うことがあります。

介護費用や立替金については、領収書や振込記録を残し、親のお金と子どものお金を混同しないようにすることが重要です。

7.遺言書を作成するか

家族会議で本人の希望が整理できたら、それをどのような形で残すかを検討します。

遺言書が特に必要となりやすいのは、次のような場合です。

  • 不動産を特定の相続人に引き継がせたい

  • 法定相続分とは異なる分け方を希望している

  • 再婚しており、前婚の子がいる

  • 子どもがいない夫婦である

  • 内縁の配偶者や相続人以外の人に財産を残したい

  • 相続人同士の関係が良くない

  • 事業や賃貸不動産を特定の人に承継させたい

  • 障害のある子や生活面に不安のある家族がいる

一般に利用される遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要です。
公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書については、検認が不要です。

ただし、法務局の保管制度では遺言書の内容に関する法律相談を受けられるわけではありません。
希望する内容を法的に実現できるか、遺留分や登記手続に問題がないかについては、作成前に専門家へ相談することをおすすめします。

8.認知症になった場合の財産管理

親が認知症になっても、家族が当然に親名義の預貯金や不動産を自由に管理・処分できるわけではありません。

本人の判断能力が十分なうちであれば、将来の状況に備えて次のような方法を検討できます。

  • 財産管理委任契約

  • 任意後見契約

  • 家族信託

  • 遺言書

  • 預貯金や支払方法の整理

任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに、将来誰にどのような事務を任せるかを公正証書による契約で定めておく制度です。
本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から任意後見人の事務が始まります。

家族信託、任意後見、財産管理委任契約には、それぞれ役割と限界があります。
流行している制度を選ぶのではなく、本人の財産、生活状況、家族関係、将来の希望に合わせて検討する必要があります。

9.相続税と納税資金

財産の概算額が分かれば、相続税がかかる可能性についても確認します。

相続税の基礎控除額は、原則として次の計算式です。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

正味の遺産額が基礎控除額を超える場合は、原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告・納税が必要です。

自宅や賃貸不動産など、現金化しにくい財産が多い場合は、相続税を納めるための現金が不足する可能性があります。誰が不動産を取得し、誰が納税資金を確保するのかという視点も必要です。

具体的な相続税の試算、特例の適用、生前贈与との比較については、税理士に確認しましょう。司法書士は、不動産登記、遺言書、家族信託、成年後見などの法務面を中心に、必要に応じて税理士などの専門家と連携して対応します。

10.葬儀、お墓、デジタル情報、手続の担当者

相続財産だけでなく、亡くなった後に家族が判断しなければならない事項も話しておくと安心です。

例えば、次のような項目です。

  • 葬儀の規模や形式

  • 菩提寺や宗派

  • 納骨先やお墓の承継

  • 遺影に使う写真

  • 親族や友人への連絡方法

  • ペットの引き取り先

  • スマートフォンやパソコンの取扱い

  • SNSや有料サービスの解約

  • 遺言書や重要書類の保管場所

  • 相続手続の窓口となる人

  • 遺言執行者を誰にするか

葬儀や納骨、デジタル情報の処理などは、遺言書に記載すればすべて法的に実現できるとは限りません。必要に応じて、エンディングノート、死後事務委任契約、遺言書などを目的に応じて使い分けます。

家族会議を円滑に進める5つのポイント

本人の意思を中心にする

家族会議は、子どもが親の財産を分けるための会議ではありません。まず本人がどのような老後を送り、財産をどのように使い、残したいと考えているのかを確認します。

一度ですべて決めようとしない

相続、介護、認知症、葬儀などを一度に話すと、本人も家族も疲れてしまいます。

第1回は財産と書類の所在、第2回は住まいと介護、第3回は遺言書というように、テーマを分けても構いません。

「事実」と「希望」を分けて整理する

例えば、「自宅の名義人は父」というのは事実ですが、「長男に自宅を継いでほしい」というのは本人の希望です。

事実と希望を分けて記録すると、専門家に相談するときも状況を整理しやすくなります。

発言を強要しない

疎遠な家族、再婚家庭、過去の贈与などが関係する場合、全員を集めることで対立が激しくなることもあります。

全員参加の会議にこだわらず、本人と専門家が先に面談し、その後に家族へ説明する方法もあります。

話し合った後に実行する

家族会議を開いても、その後何もしなければ状況は変わりません。

会議の最後に、

  • 財産目録を作る人

  • 登記事項証明書を確認する人

  • 遺言書について相談する期限

  • 税理士に相続税を確認する期限

  • 次回の家族会議の日程

などを決めておきましょう。

家族会議で避けたい言い方

相続の話を切り出すときに、次のような言い方をすると、親が警戒することがあります。

  • 「財産はいくらあるの?」

  • 「家は誰にくれるの?」

  • 「認知症になる前に名義を変えて」

  • 「遺言書を書いておいて」

  • 「兄には渡さないで」

  • 「介護するから多く相続させて」

代わりに、

「もし入院したとき、どこに連絡すればよいか確認しておきたい」

「お父さん、お母さんの希望を尊重したいので、元気なうちに聞いておきたい」

「私たちが困らないためだけではなく、希望どおりにできるよう準備したい」

というように、本人の安心と意思の尊重を目的として伝えると話しやすくなります。


家族会議の記録に残しておきたい項目

家族会議を開いたら、次の項目を簡単に記録しておきましょう。

  • 開催日

  • 参加者

  • 確認できた財産と債務

  • 重要書類の保管場所

  • 本人の希望

  • 家族から出た意見

  • 未確認の事項

  • 専門家に相談する事項

  • 次回までの担当者

  • 次回の開催予定日

ただし、記録には「家族会議の確認メモであり、遺言書や契約書ではない」ことを明記しておくのが無難です。

本人の希望を法的に実現する必要がある場合は、家族会議の記録だけで終わらせず、正式な遺言書や契約書を作成します。

家族会議用の相続チェックリスト

家族会議では、次の項目を順番に確認してみてください。

□ 相続人になる可能性のある人を把握している
□ 預貯金や証券会社などの取引先が分かる
□ 不動産の所在地と登記名義人が分かる
□ 借入金や保証債務の有無が分かる
□ 生命保険の契約内容と受取人が分かる
□ 過去の生前贈与や家族による立替金を整理している
□ 自宅や事業を誰に引き継いでほしいか確認した
□ 遺言書を作成する必要があるか検討した
□ 認知症になった場合の財産管理を検討した
□ 葬儀、お墓、ペット、デジタル情報について希望を確認した
□ 遺言書や権利証などの重要書類の保管場所が分かる
□ 相続手続の中心となる人を決めた
□ 司法書士や税理士に相談すべき事項を整理した

すべてを一度に確認する必要はありません。確認できた項目から記録し、定期的に見直すことが大切です。

家族会議だけでは解決しにくいケース

次のような事情がある場合は、家族だけで結論を出そうとせず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

  • 再婚家庭で前婚の子がいる

  • 相続人同士が疎遠である

  • 子どものいない夫婦である

  • 障害や認知症のある家族がいる

  • 不動産が財産の大部分を占める

  • 会社や個人事業を承継する必要がある

  • 多額の生前贈与がある

  • 借金や保証債務がある

  • 海外に財産や相続人がいる

  • 遺留分を侵害する可能性がある

  • 家族の一人が親の財産を管理している

  • 親族以外の人に財産を残したい

専門家が関与することで、本人の意思を確認しながら、法律上の問題点を整理できます。家族の誰か一人に有利な内容を押し付けるのではなく、本人の希望と将来の手続を客観的に検討することが重要です。

まとめ|相続の家族会議は「結論」より「準備」が大切

家族会議で大切なのは、その場で財産の分け方を決め切ることではありません。

本人の希望、財産と債務、家族関係、介護、認知症、葬儀などについて情報を共有し、今後どのような準備が必要かを明らかにすることが目的です。

家族会議で話しておきたい主な事項は、次のとおりです。

  • 誰が相続人になるのか

  • どのような財産と債務があるのか

  • 自宅や事業をどうするのか

  • 本人が希望する財産の分け方

  • 過去の贈与や介護の状況

  • 遺言書を作成する必要性

  • 認知症になった場合の財産管理

  • 相続税と納税資金

  • 葬儀、お墓、デジタル情報

  • 相続手続を担当する人

家族会議で合意しただけでは、将来の遺産分割が法的に確定するわけではありません。本人の希望を実現するためには、遺言書や契約書などの適切な形にする必要があります。

「何を家族に伝えればよいか分からない」「遺言書を作るべきか判断できない」「不動産の分け方が難しい」という場合は、家族会議を開く前の段階から司法書士に相談することも可能です。

 


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