銀行へ行くのが大変だから、生活費を代わりに引き出してほしいと、高齢になった親からと頼まれることがあります。
親子であれば、ごく自然なことのように感じるかもしれません。
しかし、親名義の預貯金はあくまで親本人の財産です。
子どもや配偶者であっても、家族というだけで当然に預金を自由に引き出したり、処分したりできるわけではありません。
特に注意したいのが、
- 親の判断能力が低下している
- 兄弟姉妹に知らせず一人だけで管理している
- 親のお金と自分のお金が混ざっている
- キャッシュカードと暗証番号を預かってATMで引き出している
- 親が亡くなった後、他の相続人から「使い込みではないか」と指摘された
というケースです。
全国銀行協会も、預金の払戻しは原則として預金者本人の意思確認を前提とし、本人の意思確認が困難な場合には、まず取引金融機関へ相談するよう案内しています。
また、高齢者、とりわけ認知判断能力が低下した方について、家族等による代理取引の考え方も整理されています。
この記事では、高齢の親の通帳を家族が管理するとき、どこから問題になりやすいのか、認知症になった場合はどうすればよいのか、そして将来のトラブルを防ぐための方法について司法書士が解説します。
- 結論|親の同意があっても「家族だから自由に使っていい」わけではない
- 高齢の親の通帳を家族が管理すること自体は問題ない?
- 問題になりやすいケース① 親に無断で預金を引き出す
- 問題になりやすいケース② キャッシュカードと暗証番号だけ預かってATMで出金している
- 問題になりやすいケース③ 親のお金と子どものお金を混ぜてしまう
- 問題になりやすいケース④ 領収書や記録を残していない
- 問題になりやすいケース⑤ 兄弟姉妹に何も説明していない
- 1.金融機関の代理人制度を確認する
- 2.財産管理等委任契約
- 3.任意後見契約
- 4.家族信託
- Q.親が「通帳は全部あなたに任せる」と言っています。自由に管理できますか?
- Q.親の生活費をATMから毎月引き出しています。問題ですか?
- Q.認知症の親の施設代を払うためなら、子どもが自由に預金を引き出してよいですか?
- Q.親が亡くなった後、兄弟から通帳を見せてほしいと言われました
- 参考リンク
結論|親の同意があっても「家族だから自由に使っていい」わけではない
まず結論からいうと、親本人からきちんと依頼を受け、親本人のために必要な範囲で通帳を管理すること自体が、直ちに問題になるわけではありません。
たとえば、判断能力が十分にある親から、「毎月10万円を引き出して、生活費と介護費用に使ってほしい」と明確に依頼され、その範囲内で管理するのであれば、実務上も珍しいことではありません。
しかし、「親子だから」「昔から通帳を預かっているから」という理由だけで、家族に当然の代理権が発生するわけではありません。
ここが重要です。
特に親の判断能力が低下すると、「本当に本人が許可したのか」「本人はその金額を理解していたのか」「本人のための支出だったのか」という問題が生じます。
さらに親が亡くなると、通帳を管理していた家族に対して、他の相続人から過去の出金について説明を求められるケースも少なくありません。
高齢の親の通帳を家族が管理すること自体は問題ない?
親の判断能力が十分にあり、自らの意思で家族に管理を依頼している場合には、家族が通帳を預かること自体は可能です。
たとえば、
- 通帳を保管する
- 記帳をする
- 親から頼まれた生活費を引き出す
- 医療費や介護施設費を支払う
- 公共料金等を支払う
といったサポートです。
ただし、大切なのは、「親から何を頼まれているのか」を明確にしておくことです。
単に「通帳を預かっている」という事実だけでは、「通帳の保管を頼まれただけなのか」
「預金の引き出しまで任されているのか」「いくらまで自由に使ってよいのか」が分かりません。
親が元気なうちに、できれば書面で管理内容を残しておくことをおすすめします。
問題になりやすいケース① 親に無断で預金を引き出す
最も避けるべきなのは、親本人の意思を確認せず、家族が預金を引き出すことです。
たとえば、「どうせ介護のために必要になるから」「将来相続するお金だから」「兄弟より自分が親の世話をしているから」という理由で勝手に預金を動かすことはおすすめできません。
親の預金は、親が亡くなるまでは親本人の財産です。
将来自分が相続人になる予定であっても、それだけで現在の財産を自由に処分する権限はありません。
本人のためではなく、自分の生活費や買い物などに流用した場合には、返還請求や損害賠償などの民事上の問題となる可能性があります。
行為の内容によっては、民事問題だけでなく刑事上の問題が生じる可能性もあるため、「家族間だから大丈夫」と考えるべきではありません。
問題になりやすいケース② キャッシュカードと暗証番号だけ預かってATMで出金している
実務で非常に多いのが、「母からキャッシュカードと暗証番号を教えてもらい、子がATMでお金を下ろしている」というケースです。
家族としては単なるお手伝いのつもりでしょう。
しかし、金融機関から見ると、口座名義人本人以外がキャッシュカードを使用している状態になります。
銀行によっては代理人制度や代理人カードなどを設けている場合がありますので、本人が元気なうちに取引銀行へ確認しておくことが重要です。
全国銀行協会も、認知判断能力が低下した場合への備えとして、金融機関独自の代理人制度や財産管理サービスなどを事前に検討することを案内しています。
「家族だからATMで下ろせばいい」という運用を長期間続けるよりも、正式な方法を確認しておいた方が安全です。
問題になりやすいケース③ 親のお金と子どものお金を混ぜてしまう
親の預金から50万円を引き出して、子ども自身の銀行口座へ移して管理する。
このような方法も避けた方がよいでしょう。
たとえ親のために使う予定であっても、親のお金と子どものお金が混ざると、後から、
「どこまでが親のお金なのか」「何に使ったのか」「残金はいくらなのか」が分からなくなります。
成年後見人による財産管理でも、本人の財産と後見人自身の財産を混同しないことが強く求められています。裁判所の成年後見人向け資料でも、本人名義の財産を後見人個人名義にするのではなく、本人財産であることを明確にして管理するよう案内されています。
家族が任意に管理している段階でも、親のお金と自分のお金を混ぜないという考え方は非常に重要です。
問題になりやすいケース④ 領収書や記録を残していない
親の通帳管理で最も多い相続トラブルの一つが、「何に使ったのか分からない出金」です。
たとえば通帳を見ると、20万円、30万円、50万円といった現金出金が何度もあります。
通帳を管理していた長男は、「母の生活費や介護費に使った」と説明します。
しかし他の兄弟から、「本当に全部母のために使ったのか」「自分の生活費に使ったのではないか」と疑われることがあります。
5年、10年前の支出について、後からすべて説明することは簡単ではありません。
そのため、家族が親のお金を管理する場合には、出金日、出金額、支払先、支出目的、領収書
、残高をできるだけ記録しておくことが大切です。
高価な会計ソフトを使う必要はありません。
ノートやExcelなどでも構いません。
「親のお金をきちんと管理していた」と後から説明できる状態を作っておくことが重要です。
問題になりやすいケース⑤ 兄弟姉妹に何も説明していない
法律上、親から適切に委任を受けていれば、必ず兄弟全員の同意を得なければならないというわけではありません。
しかし、実際の相続トラブルを防ぐという観点では、情報共有は非常に重要です。
たとえば長男だけが母親の通帳を10年間管理していた場合、母親の死亡時には1,000万円あるはずだった預金が300万円になっていたとします。
他の兄弟が、「700万円はどこにいったのか」と疑うのはよくあることです。
実際には、介護施設費、医療費、生活費、固定資産税、自宅修繕費などに使われていたとしても、説明資料がなければ疑いが生まれます。
できれば年に一度程度でも、「現在の預金残高はこれくらい」「今年は介護費としてこれくらい支払った」と家族で共有しておくと、後の相続トラブルを防ぎやすくなります。
親が認知症になったら家族は通帳を自由に管理できる?
ここは特に誤解が多いところです。
親が認知症になったからといって、
子どもが自動的に親の財産管理権を取得するわけではありません。
法務省も、認知症などにより判断能力が不十分となった方について、預貯金などの財産管理や各種契約を本人だけで行うことが難しくなる場合に利用する制度として成年後見制度を案内しています。
もっとも、「認知症と診断された=すべての法律行為が直ちにできなくなる」という単純なものでもありません。
判断能力の程度や、どのような取引を行うのかによって検討する必要があります。
しかし金融機関が本人の意思確認を十分にできない状態になると、家族による預金の引き出しが難しくなることがあります。
全国銀行協会は、預金者本人の意思確認ができない場合で、生活費、入院費、介護施設費などが必要なときは、自己判断でATMから引き出し続けるのではなく、まず取引銀行へ相談するよう案内しています。
親が元気なうちにできる4つの対策
親の財産管理は、判断能力が低下してから考えるのではなく、元気なうちに仕組みを作ること
が重要です。
代表的な方法を紹介します。
1.金融機関の代理人制度を確認する
まず取り組みやすいのが、取引銀行への相談です。
金融機関によっては、
- 代理人届
- 代理人カード
- 家族代理人
- 財産管理サービス
などを用意している場合があります。
制度や利用条件は金融機関によって異なります。
本人が意思表示できるうちに確認しておきましょう。
2.財産管理等委任契約
親に十分な判断能力はあるものの、「足が悪く銀行へ行けない」「施設に入っているので子どもに支払いを頼みたい」といった場合には、財産管理等委任契約を利用する方法があります。
財産管理等委任契約では、「預貯金の管理」「生活費の支払い」「税金の支払い」など、家族や第三者へ任せる内容を具体的に決めることができます。
日本公証人連合会も、判断能力はあるものの身体的な理由などで財産管理を任せたい場合には、財産管理等の委任契約を利用し、将来に備える任意後見契約と組み合わせる方法を紹介しています。
口頭で、「全部任せる」というだけより、誰に、何を、どこまで任せるのかを書面化しておく方が、後日の紛争防止につながります。
3.任意後見契約
将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備える方法が「任意後見契約」です。
本人が判断能力を十分に有している間に、
「将来、自分の判断能力が低下したら、この人に財産管理を任せたい」という人を決めて契約します。
任意後見契約では、預貯金の管理、年金の受領、税金や公共料金の支払い、介護サービスや施設入所に関する契約などの代理権を定めることができます。
任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。
そして本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から任意後見契約が効力を生じます。
したがって、元気なうちは財産管理委任契約、判断能力が低下した後は任意後見契約という「移行型」の設計も選択肢になります。
4.家族信託
財産管理の方法として、家族信託を利用するケースもあります。
家族信託は、親が委託者兼受益者となり、子どもなど信頼できる家族を受託者として財産を託し、契約で定めた目的に従って受託者が管理する仕組みです。
法務省は2026年3月、高齢者の生活支援を目的とした親族間の信託についても具体例を示した「信託制度」のパンフレットを公表しています。
そこでは、高齢の親が将来の判断能力低下に備え、子どもへ財産を信託し、受託者となった子が財産管理をしながら生活費や公租公課などを支払う例が紹介されています。
ただし、家族信託は単に、「通帳を子どもに渡せば完成」という制度ではありません。
信託する財産、管理方法、受益者、終了時の財産の帰属先などをきちんと設計する必要があります。
また、金融機関ごとに信託口口座などの取扱いも異なりますので、利用する場合には事前確認が重要です。
すでに親の判断能力が低下している場合
本人が契約内容を十分理解できない状態になった後では、原則として新たに財産管理委任契約や家族信託、任意後見契約を自由に締結することは難しくなります。
その場合には、法定の成年後見制度を検討することになります。
現在の成年後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助があります。
成年後見人等は、預貯金や不動産など本人の財産を管理し、本人に必要な介護契約や医療費などの支払いを行います。また家庭裁判所による監督を受けます。
家族が成年後見人になるケースもありますが、申立ての際に希望した人が必ず選任されるわけではありません。
事案によっては司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が選任される場合もあります。
【2026年最新情報】成年後見制度は改正されています
成年後見制度については、2026年6月17日に改正法が成立し、同年6月24日に公布されています。
今回の改正では、従来の「後見・保佐」の制度を廃止し、本人に必要な範囲で支援を行う補助制度へ一元化することなど、大きな見直しが予定されています。
ただし、2026年9月現在、この成年後見制度の改正部分はまだ施行されていません。
成年後見制度の見直しに関する改正は、2026年6月24日の公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令により定められる日に施行されます。
そのため、現時点では従来の後見・保佐・補助制度を前提に手続きを行います。
今後制度が大きく変わるため、実際に利用する際は最新情報を確認することが重要です。
親の通帳を家族が管理するときの6つのルール
親の判断能力が十分にあり、家族が預金管理を手伝うのであれば、最低限次の点を意識しておくことをおすすめします。
①本人の意思を確認する
誰が、どの口座を、何のために管理するのかを明確にします。
②できれば書面に残す
財産管理委任契約まで作成しない場合でも、本人の希望を書面にしておけば、後日の説明資料になります。
③親の財産と家族の財産を混ぜない
親のお金を家族自身の口座へまとめて移す方法は極力避けましょう。
④出金記録を残す
「2026年9月10日・5万円・施設利用料」など、支出内容を記録します。
⑤領収書を保管する
特に現金払いの場合は重要です。
⑥判断能力に不安が出たら自己判断で続けない
本人の意思確認が難しくなった場合には、取引金融機関や司法書士等の専門家へ相談しましょう。
よくある質問
Q.親が「通帳は全部あなたに任せる」と言っています。自由に管理できますか?
「任せる」という言葉だけでは、管理権限の範囲が分かりません。
預金の保管だけなのか、生活費の引き出しも含むのか、高額な契約も任せるのかを明確にしておくことが重要です。
できれば書面化しておきましょう。
Q.親の生活費をATMから毎月引き出しています。問題ですか?
本人の判断能力が十分にあり、本人から明確に依頼され、本人のために使用しているのであれば、それだけで直ちに「使い込み」になるわけではありません。
ただし、金融機関ごとに代理取引の取扱いが異なります。
長期間続けるのであれば、金融機関の代理人制度等を確認することをおすすめします。
Q.認知症の親の施設代を払うためなら、子どもが自由に預金を引き出してよいですか?
本人のための支払いだからといって、家族に当然の払戻権限が生じるわけではありません。
本人の意思確認が難しい場合は、まず金融機関へ相談してください。
全国銀行協会も、入院費や介護施設費など本人のために必要な資金について、本人の意思確認ができない場合には取引銀行へ相談するよう案内しています。
状況によっては成年後見制度などを検討します。
Q.親が亡くなった後、兄弟から通帳を見せてほしいと言われました
親の財産を一人で管理していた場合、過去の出金について質問を受ける可能性があります。
「親のために使った」と説明するだけでなく、
- 通帳
- 領収書
- 施設の請求書
- 医療費の明細
- 支出記録
などを残しておくことが重要です。
相続は、親が亡くなった時点から始まるのではなく、実際には生前の財産管理の方法が後の紛争に大きく影響することがあります。
まとめ|高齢の親の通帳管理は「元気なうちの準備」が重要
高齢の親の通帳を家族が管理することは、多くの家庭で行われています。
しかし、「家族だから自由に管理できる」という考え方は危険です。
親の財産は、あくまで親本人のものです。
特に注意したいのは、
- 本人の意思を確認する
- 管理範囲を明確にする
- 自分のお金と混ぜない
- 出金記録や領収書を残す
- 金融機関の代理人制度を確認する
- 判断能力が低下する前に財産管理方法を決める
という点です。
元気な間であれば、財産管理等委任契約、任意後見契約、家族信託など複数の選択肢があります。
一方、本人の判断能力が大きく低下してからでは、利用できる方法が限られてしまいます。
「最近、親がお金の管理をできなくなってきた」「今は自分が通帳を預かっているが、このままでよいのか心配」「兄弟との相続トラブルを防ぎたい」という場合には、問題が起きてからではなく、本人が意思を伝えられる段階で財産管理の方法を整理しておくことが大切です。
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高齢のご家族の財産管理、任意後見、家族信託、相続・遺言・生前対策についても、お気軽にご相談ください。
参考リンク
全国銀行協会:預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料の作成について
全国銀行協会:金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について
法務省:「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について


