相続が発生し、相続人の中に17歳以下の未成年者がいると、「子どもは自分で遺産分割協議ができないから、親が代わりに手続をすればよい」と考える方も多いでしょう。
たしかに、通常は親権者である父母が未成年の子を代理して財産に関する手続をすることができます。
ところが相続では、親自身も相続人になることがあります。
たとえば父が亡くなり、相続人が「母と15歳の子」だった場合を考えてみましょう。
母が遺産を多く取得すれば、子が取得できる遺産は少なくなる可能性があります。
そのような場面で母が「自分自身の立場」と「子どもの代理人の立場」の両方を兼ねて遺産分割協議をすると、公平な話し合いができない可能性があります。
そこで登場するのが「特別代理人」です。
特別代理人とは、親と子の利益がぶつかる特定の手続について、親に代わって一時的に未成年者を代理する人で、家庭裁判所が選任します。
ただし、相続人に未成年者がいるからといって、すべての相続で特別代理人が必要になるわけではありません。
「誰が相続人なのか」「親も相続人なのか」「未成年者は何人いるのか」「遺産分割協議をするのか」「遺言書があるのか」「相続放棄をするのか」などによって結論が変わります。
この記事では、相続人に未成年者がいる場合について、特別代理人とはどのような人なのかという基本から、選任が必要なケース・必要ないケースまで、具体例を使ってわかりやすく解説します。
- 1.まず知っておきたい「未成年者は自分だけで遺産分割協議ができない」
- 2.特別代理人とは?
- 3.具体例で考えると特別代理人の意味がわかりやすい
- 4.「利益相反」とは何?
- 5.特別代理人はずっと子どもの代理人になるわけではない
- 6.ケース1|父が死亡し、母と未成年の子1人が相続人
- 7.ケース2|母と未成年の子が2人いる
- 8.ケース3|親は相続人ではなく、未成年の子1人だけが相続人
- 9.ケース4|親は相続人ではないが、未成年の兄弟2人が相続人
- 10.ケース5|遺言書があり、誰が何を相続するか決まっている
- 11.ケース6|遺産分割協議をせず、法定相続分のまま相続登記する
- 12.ケース7|法定相続分と同じ割合で遺産分割協議をする
- 13.ケース8|未成年者がもうすぐ18歳になる
- 14.ケース9|母だけでなく子も相続放棄
- 16.ケース10|離婚した元夫が死亡し、未成年の子が相続人になった
- 17.ケース11|未成年後見人と未成年者が一緒に相続する
- 18.特別代理人には誰がなれる?
- 19.特別代理人は親の希望どおりに遺産分割する人ではない
- 20.特別代理人選任はどこの裁判所に申し立てる?
- 21.特別代理人選任の申立てには何が必要?
- 22.「母が全部相続する」という遺産分割はできる?
- 23.「特別代理人を選びたくないから法定相続分で登記」は慎重に
- 24.特別代理人が必要か判断するときのチェックポイント
- 25.よくある誤解①「親だから子の相続手続は全部できる」
- 26.よくある誤解②「法定相続分を守れば特別代理人はいらない」
- 27.よくある誤解③「遺言書があれば絶対に特別代理人はいらない」
- 28.よくある誤解④「祖父を特別代理人に決めればすぐ手続できる」
- 29.まとめ|未成年者がいる相続では「誰と誰の利益が対立するか」を確認する
- 参考リンク
1.まず知っておきたい「未成年者は自分だけで遺産分割協議ができない」
現在の民法では、18歳以上が成年、18歳未満が未成年です。成年年齢は2022年4月1日に20歳から18歳へ引き下げられました。
そのため、現在17歳以下の人が相続人となった場合、その未成年者が単独で遺産分割協議をして遺産分割協議書に署名するということはできません。
未成年者の財産に関する法律行為は、通常は親権者が法定代理人として行います。
簡単にいえば、
「子ども自身では法律上の重要な手続ができないので、通常は親が代わりに行う」
ということです。
ここまではそれほど難しくありません。
問題になるのは、その親自身も同じ相続の相続人になっている場合です。
2.特別代理人とは?
「特別代理人」と聞くと、弁護士や司法書士のような専門家を想像する方もいるかもしれません。
しかし、特別代理人は資格の名称ではありません。
簡単にいえば、
「この手続についてだけ、親の代わりに子どもの立場に立つ人」
です。
通常、未成年の子については親権者が代理人になります。
しかし、
母にも利益がある
子にも利益がある
母と子で同じ遺産を分ける
という場面では、母が子の代理人になってしまうと、
「母として自分の取り分を決める人」
と、
「子どもの取り分を守る人」
が同じ人物になってしまいます。
そこで家庭裁判所が、未成年者の利益を守るために別の人を選びます。
それが特別代理人です。
民法826条でも、親権者と子との利益が相反する行為について、親権者は子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないと定められています。
3.具体例で考えると特別代理人の意味がわかりやすい
父Aが亡くなり、
母B
15歳の長男C
の2人が相続人になったとします。
遺産は、
自宅 3,000万円
預金 1,000万円
合計4,000万円だったとします。
母Bと長男Cの法定相続分は、それぞれ2分の1です。
ここで、
「自宅は母が全部取得して、預金1,000万円は子が取得する」
という遺産分割を考えたとします。
母の取得額は3,000万円、子は1,000万円です。
本来、母Bは子Cの親権者なので、子Cの財産について代理する立場です。
しかし、この場面で母Bが、
「自分は3,000万円をもらいます。子どもには1,000万円を取得させます」
という内容を、自分と子どもの両方の立場から決めるのは適切ではありません。
そこで子Cについて特別代理人を選び、
母B
対
子Cの特別代理人
という形で遺産分割協議をします。
裁判所も、夫が死亡して妻と未成年の子が共同相続人となる遺産分割を、典型的な利益相反行為として案内しています。
4.「利益相反」とは何?
特別代理人を理解するうえで重要なのが「利益相反」という言葉です。
利益相反とは、簡単にいえば、
「一方が得をすると、もう一方が不利益を受ける可能性がある関係」
です。
遺産が4,000万円しかないのであれば、母が3,000万円取得すれば、子が取得できる財産は残り1,000万円になります。
反対に、子が3,000万円取得すれば、母が取得できる財産は1,000万円になります。
このように相続では、一人の取得分を増やすことで、別の相続人の取得分が減る可能性があります。
ここで大切なのは、
「母親が本当に子どもの財産を奪おうとしているのか」
によって判断するわけではないという点です。
裁判所は、利益相反行為について、法律行為そのものや外形から見て親と子、あるいは子ども同士の利益が対立する行為かどうかで判断すると説明しています。
たとえ、遺産のすべてを子が相続する、という内容の遺産分割協議をする場合であっても、特別代理人が必要になります。
利益相反行為に当たるかどうかを、親権者の意図や実際の結果ではなく、その法律行為の外形・客観的性質から判断する『外形標準説』を最高裁は採用しております。
5.特別代理人はずっと子どもの代理人になるわけではない
特別代理人に選ばれた人が、その後ずっと子どもの財産を管理したり、生活上の判断をしたりするわけではありません。
たとえば、「父の相続について遺産分割協議をする」という目的で選任されたのであれば、その遺産分割について子どもを代理します。
その手続が終われば、その特別代理人の仕事も終わります。
裁判所も、特別代理人は家庭裁判所の審判で定められた行為について代理権を行使し、その行為が終了すると任務も終了すると説明しています。
つまり、
「未成年後見人のように長期間子どもの生活や財産を管理する人」ではなく、
「特定の手続だけを担当する臨時の代理人」
です。
6.ケース1|父が死亡し、母と未成年の子1人が相続人
父Aが死亡し、
母B
17歳の長男C
が相続人になったとします。
母BとCで遺産分割協議をする場合、母B自身にも相続する権利があります。
そのため母Bは、子Cを代理して遺産分割協議をすることができません。
この場合は、子Cについて特別代理人を選任する必要があります。
特別代理人がCの代わりに遺産分割協議に参加します。
これは未成年者がいる相続で最も典型的なケースです。
7.ケース2|母と未成年の子が2人いる
父Aが死亡し、
母B
16歳の長男C
13歳の長女D
が相続人だったとします。
この場合には、
母BとC
母BとD
の利益が対立します。
さらに、
CとD
も同じ遺産を分ける共同相続人です。
長男Cの取得分が増えれば、長女Dの取得分が減る可能性があるため、子ども同士にも利益相反があります。
このケースでは、母Bがどちらの子についても遺産分割協議の代理をすることができないため、CとDについてそれぞれ別の特別代理人を選任することになります。
一人の特別代理人に2人の未成年者をまとめて代理させることもできません。2人の子どもの間でも利益が対立するためです。
裁判所も、同じ親権に服する複数の未成年者の間で利益が相反する場合には特別代理人が必要と案内しています。
8.ケース3|親は相続人ではなく、未成年の子1人だけが相続人
では、親自身が相続人ではない場合はどうでしょうか。
祖父Aが死亡しました。
Aの長男Bはすでに死亡しており、Bの17歳の子Cが代襲相続人になったとします。
Cの母Dは、祖父Aとは親子関係がありませんから、祖父Aの相続人ではありません。
この場合、母Dは祖父Aの財産を取得する立場ではありません。
そのため、ほかに利益相反となる事情がなければ、母Dが親権者としてCを代理して遺産分割協議を行うことができ、特別代理人を選任する必要はありません。
ここから分かる重要なポイントは、
「未成年者が相続人なら特別代理人が必要」ではない
ということです。
親と子の利益が対立するのかを確認する必要があります。
9.ケース4|親は相続人ではないが、未成年の兄弟2人が相続人
先ほどのケースを少し変えてみます。
祖父Aが死亡しました。
Aの長男Bはすでに死亡しています。
Bには、
15歳の長男C
12歳の長女D
がいました。
CとDが代襲相続人になります。
2人の母Eは祖父Aの相続人ではありません。
「母Eは相続人ではないのだから、2人とも母が代理すればよい」と考えたくなります。
しかし、そうはいきません。
CとDは同じ遺産を分ける相続人です。
Cが多く取得すれば、Dが取得できる財産が少なくなる可能性があります。
したがって、母EがCとDの両方を同時に代理して遺産分割協議をすることはできません。
このケースでは、たとえば、
Cについて母Eが親権者として代理する
Dについて特別代理人を選任する
という形で手続を進めることが考えられます。
裁判所も、親権者自身が相続人でなくても、同じ親権者が複数の未成年者を代理して遺産分割する場合には利益相反が生じると案内しています。
10.ケース5|遺言書があり、誰が何を相続するか決まっている
父Aが、
「自宅は妻Bに相続させる」
「○○銀行の預金は長男Cに相続させる」
という遺言書を残して死亡したとします。
長男Cは16歳です。
この場合、遺言書によって誰が何を取得するかが決められており、その遺言どおりに手続をするのであれば、改めて母BとCで「どの財産を誰が相続するか」を話し合う遺産分割協議は必要ありません。
したがって、その遺言に従って相続手続をするためだけに、遺産分割協議用の特別代理人を選任する必要はありません。
ただし、
「遺言書がある=どんな場合でも特別代理人は不要」
というわけではありません。
たとえば、
「妻に全財産を相続させる」
という遺言があり、未成年の子の遺留分について対応する必要が生じた場合には、母と子の利益が対立する可能性があります。
また、
「妻2分の1、長男2分の1」
というように割合だけを遺言で指定し、具体的にどの財産を誰が取得するかについて改めて協議する場合には、その協議について利益相反の検討が必要になります。
遺言書がある場合は、「遺言書があるか」だけではなく、「その遺言だけで財産の帰属まで決まるのか」を確認することが重要です。
11.ケース6|遺産分割協議をせず、法定相続分のまま相続登記する
父Aが死亡し、
母B
15歳の長男C
が相続人だとします。
法定相続分は、
母B 2分の1
長男C 2分の1
です。
ここで遺産分割協議を行わず、不動産について法律で決まっている持分のまま、
母B 持分2分の1
長男C 持分2分の1
として相続登記する場合があります。
これは、
「母と子が話し合って2分の1ずつに決めた」
のではありません。
法律上の相続分によって生じている共有状態を、そのまま登記するものです。
法務局も「遺産分割協議による相続登記」と「法定相続分による相続登記」を別の手続として案内しています。
したがって、このように遺産分割協議をせず、法定相続分のまま相続登記をするのであれば、遺産分割協議のための特別代理人は必要ありません。
ただし、不動産を親子の共有名義にすると、将来売却したり、建物を処分したりするときに別の問題が生じる可能性があります。
単に「特別代理人を選任しなくて済む」という理由だけで共有名義にするのではなく、その後の不動産の利用方法まで考えて判断することが大切です。
12.ケース7|法定相続分と同じ割合で遺産分割協議をする
先ほどと同じく、
母B
15歳の長男C
が相続人だとします。
法定相続分はそれぞれ2分の1です。
では、
「母Bが2分の1、Cも2分の1で相続する」
という内容の遺産分割協議書を作成する場合はどうでしょうか。
結論は先ほどと異なります。
法定相続分と同じ割合であっても、遺産分割協議をするのであれば特別代理人が必要です。
裁判所も、法定相続分どおりに遺産分割する場合であっても、利益相反関係にある場合には特別代理人の選任が必要と案内しています。
つまり、
遺産分割協議をせず、法律上の持分のまま登記する
→ 遺産分割のための特別代理人は不要
母2分の1・子2分の1という内容の遺産分割協議をする
→ 特別代理人が必要
となります。
結果が同じ2分の1ずつでも、法律上行っている手続が違うのです。
この違いは非常に間違えやすいポイントです。
13.ケース8|未成年者がもうすぐ18歳になる
父Aが死亡し、
母B
17歳11か月の長男C
が相続人だったとします。
遺産分割協議をするのであれば、Cが17歳である間は未成年者です。
しかし、1か月後に18歳になれば成年者となります。
成年者になれば、C本人が遺産分割協議に参加できます。
そのため、相続税の申告期限や不動産売却など、急いで遺産分割をしなければならない事情がない場合には、18歳になるまで待って本人が遺産分割協議に参加するという方法も考えられます。
この場合、18歳になった後の遺産分割については、未成年者を代理するための特別代理人は必要ありません。
ただし、相続手続をいつまでも放置してよいわけではありません。
不動産については2024年4月1日から相続登記が義務化されています。遺産分割以外にも期限のある手続があるため、相続全体のスケジュールを確認する必要があります。
14.ケース9|母だけでなく子も相続放棄
父Aが多額の借金を残して死亡し、
母B
15歳の長男C
が相続人になったとします。
「母も子も相続放棄したい」というケースです。
ここでも特別代理人が問題になることがあります。
たとえば、母B自身は相続する一方で、子Cについてだけ相続放棄をすると、
母Bの取得する相続分が増える可能性があります。
そのため、これは母BとCとの利益が対立する行為に当たり、特別代理人が必要となります。
裁判所も、
「相続人である母または父が、未成年者についてのみ相続放棄をする場合」
を利益相反行為の例として挙げています。
一方で、親自身も相続放棄し、その後に子について相続放棄をする場面などでは、利益相反の有無について別の検討が必要になります。
相続放棄には期間の制限がありますので、未成年者がいる場合には「誰からどの順番で相続放棄するのか」まで確認して進めることが大切です。
16.ケース10|離婚した元夫が死亡し、未成年の子が相続人になった
父Aと母Bが離婚した後、Aが死亡したとします。
AとBの間には15歳の子Cがいました。
離婚した元配偶者Bは、Aの相続人ではありません。
一方、子Cは両親が離婚していても父Aの子であることに変わりませんので、Aの相続人になります。
BがCについて親権を行う立場にあり、B自身がAの相続人ではなく、ほかに利益相反となる事情もなければ、BがCを代理して相続手続を行える場合があります。
つまり、
「親が未成年者を代理する=特別代理人が必要」ではありません。
その親自身が同じ相続について財産を取得する立場にあるかどうかが重要です。
なお、2026年4月1日に離婚後の親権制度が改正され、現在は離婚後について父母双方を親権者と定めることも可能です。
実際の相続では、戸籍などによって現在の親権者を確認したうえで判断する必要があります。
17.ケース11|未成年後見人と未成年者が一緒に相続する
両親がすでに亡くなっているなどの事情により、未成年者について「未成年後見人」が選ばれていることがあります。
未成年後見人は、親権者に代わって未成年者の財産管理などを行う人です。
しかし、その未成年後見人自身と未成年者が同じ相続の相続人になった場合には、未成年後見人と未成年者との利益が対立します。
その場合にも特別代理人を選任する必要があります。
ただし、未成年後見監督人が選任されている場合は、未成年後見監督人が未成年者を代理するため、特別代理人を別に選任する必要はありません。
18.特別代理人には誰がなれる?
特別代理人になるために、弁護士や司法書士などの資格が必須というわけではありません。
特別な資格要件はありません。
たとえば祖父母や叔父・叔母などの親族を候補者として申し立てることも考えられます。
ただし、「この人を候補者として書けば必ず選ばれる」というものではありません。
特別代理人は未成年者の利益を守る立場です。
家庭裁判所は、未成年者との関係、その人自身に利害関係がないか、適切に未成年者を代理できる人物かなどを考慮して選任します。
裁判所も、特別代理人になるための資格は特にない一方、未成年者との関係や利害関係の有無などを考慮して適格性を判断するとしています。
19.特別代理人は親の希望どおりに遺産分割する人ではない
ここは非常に重要です。
特別代理人は、「母の代わりに印鑑を押してくれる人」ではありません。
また、「親が決めた遺産分割案をそのまま承認するための人」でもありません。
特別代理人の役割は、未成年者の利益を守ることです。
たとえば、
遺産 4,000万円
母 4,000万円
未成年の子 0円
という遺産分割案だった場合を考えてみましょう。
単に、
「家は母が住むから」
「子どもは母と一緒に暮らしているから」
「家族全員が納得しているから」
という理由だけで、当然に認められるわけではありません。
裁判所の案内では、未成年者の取得分が法定相続分を下回らないようにするなど、未成年者の利益を十分に守る必要があるとされ、法定相続分が確保されていない遺産分割案は原則として認められないとされています。
そのため、
母が自宅を取得する代わりに子が預金を取得する
代償金を支払う
など、未成年者の利益をどのように確保するかを検討する必要があります。
20.特別代理人選任はどこの裁判所に申し立てる?
特別代理人は家族だけで自由に決めるものではありません。
未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所が選任します。
申立てができるのは、親権者や利害関係人です。
申立手数料は、未成年者1人につき収入印紙800円です。このほか、連絡用の郵便料が必要になります。郵便料は家庭裁判所によって異なります。
21.特別代理人選任の申立てには何が必要?
裁判所が案内している標準的な書類には、次のようなものがあります。
・特別代理人選任申立書
・未成年者の戸籍謄本
・親権者または未成年後見人の戸籍謄本
・特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
・遺産分割協議書案など利益相反の内容が分かる書類
・必要に応じてその他の資料
遺産分割を目的として申し立てる場合には、遺産分割協議書の案を提出することが重要なポイントです。
つまり、「とりあえず特別代理人だけ選んでもらい、遺産の分け方は後から考える」という手続ではありません。
家庭裁判所は、「どのような遺産分割を予定しているのか」を確認したうえで、未成年者の利益が守られているかを審査します。
22.「母が全部相続する」という遺産分割はできる?
実務上よくある相談です。
たとえば夫が亡くなり、
妻
10歳の子
が相続人になったものの、
「自宅も預金も妻名義にしたい」という希望があるケースです。
しかし、子にも相続権があります。
特別代理人を選任したからといって、子の相続分を自由にゼロにできるわけではありません。
特別代理人は子どもの権利を守るために選ばれる人だからです。
不動産を母が取得したい事情があるのであれば、
預金を子が取得する
母から子へ代償金を支払う
その他の方法で子の利益を確保する
など、相続財産全体を見ながら分割案を考える必要があります。
23.「特別代理人を選びたくないから法定相続分で登記」は慎重に
「特別代理人を選任するのは大変そうだから、自宅を母と子で2分の1ずつ登記してしまおう」
と考えるケースがあります。
確かに、遺産分割協議をせず法定相続分のまま相続登記するのであれば、遺産分割のための特別代理人は必要ありません。
しかし、その結果、
母2分の1
未成年の子2分の1
という共有名義になります。
その後に自宅を売却しようとすると、子の持分についても手続が必要になります。
つまり、
**「今、特別代理人が不要か」
だけではなく、
「相続登記をした後、その不動産をどうするのか」
まで考えることが重要です。
相続登記だけを見れば簡単でも、その後の売却・管理・処分が複雑になる可能性があります。
24.特別代理人が必要か判断するときのチェックポイント
未成年者が相続人にいる場合には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
① 未成年者は現在17歳以下か
18歳以上であれば、成年者として本人が遺産分割協議に参加できます。
② 誰が親権者なのか
戸籍などで現在の親権者を確認します。
③ 親権者自身も相続人なのか
親も相続人であれば、遺産分割について親子の利益相反が問題になります。
④ 未成年の相続人は1人か、複数か
複数いる場合は、子ども同士の利益相反も確認します。
⑤ 遺言書があるか
遺言書だけで財産の取得者が決まっていれば、遺産分割が不要な場合があります。
⑥ 遺産分割協議をするのか
法定相続分であっても「遺産分割協議」をする場合には利益相反が問題になります。
⑦ 相続放棄をする人がいるか
親だけ、子だけ、兄弟の一部だけなど、誰が放棄するかによって利益相反の有無が変わります。
この7点を整理すると、特別代理人が必要かどうかを判断しやすくなります。
25.よくある誤解①「親だから子の相続手続は全部できる」
これは正しくありません。
親権者は通常、未成年の子を代理できますが、親自身と子どもの利益が対立する手続については代理できません。
親だからこそ代理できない場面がある、というのが特別代理人制度です。
26.よくある誤解②「法定相続分を守れば特別代理人はいらない」
これも注意が必要です。
母2分の1、子2分の1という法定相続分どおりであっても、その内容について遺産分割協議をするのであれば特別代理人が必要です。
「法定相続分で登記すること」と「法定相続分どおりに遺産分割協議をすること」は別です。
27.よくある誤解③「遺言書があれば絶対に特別代理人はいらない」
遺言書で具体的な財産の取得者が決まり、その内容どおりに相続手続をするだけなら遺産分割協議は不要です。
しかし、遺言の内容によっては、
具体的な財産について協議が必要
未成年者の遺留分が問題になる
そのほか親と子の利益が対立する法律行為が必要
ということがあります。
したがって、遺言書の内容を確認して判断する必要があります。
28.よくある誤解④「祖父を特別代理人に決めればすぐ手続できる」
祖父母などを候補者として申し立てることはできますが、候補者を最終的に特別代理人として選任するのは家庭裁判所です。
候補者自身に利害関係がある場合などは、適任ではないと判断される可能性があります。
そのため、候補者を考えるときには、
相続人ではないか
相続財産について利害関係がないか
未成年者の利益を適切に守れるか
を確認することが大切です。
29.まとめ|未成年者がいる相続では「誰と誰の利益が対立するか」を確認する
相続人に未成年者がいるからといって、必ず特別代理人を選任しなければならないわけではありません。
判断のポイントは、
「親と子、または子ども同士の利益が対立する手続をするのか」
という点です。
父が亡くなり母と未成年の子で遺産分割する場合には、特別代理人が必要になります。
一方、
親自身は相続人ではなく未成年の子1人だけを代理する
遺言書によって財産の取得者が決まっていて遺産分割をしない
遺産分割をせず法定相続分のまま相続登記する
遺産分割をする時点ですでに子が18歳になっている
など、特別代理人を選任しなくても手続できるケースもあります。
また、親自身が相続人ではなくても、未成年の兄弟姉妹が複数の相続人となる場合には、子ども同士で利益が対立するため特別代理人が必要になることがあります。
未成年者がいる相続では、「未成年だから特別代理人」と単純に判断するのではなく、
誰が相続人なのか
誰が親権者なのか
未成年者は何人いるのか
遺産分割をするのか
遺言書があるのか
相続放棄をするのか
不動産を最終的にどうしたいのか
まで整理してから手続を進めることが大切です。
特に、相続登記だけを先に考えて法定相続分の共有名義にすると、将来の売却や処分で思わぬ問題が生じることがあります。
未成年者がいる相続では、遺産分割協議書を作成する前に、相続関係と利益相反の有無を確認しておくことをおすすめします。
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参考リンク


