ご家族が亡くなり相続が発生すると、最初に確認しなければならないことの一つが「亡くなった方がどのような財産を持っていたのか」という相続財産の調査です。
「自宅と銀行預金くらいしかないと思う」
「通帳は見つかったから、財産はこれで全部だろう」
と思っていても、実際に調査を進めてみると、別の金融機関の預金口座、遠方の土地、証券会社の株式、生命保険、ネット銀行、さらには借入金などが後から見つかることがあります。
相続財産の調査が不十分なまま遺産分割協議をすると、後から新しい財産が判明し、相続人間で改めて話し合いが必要になることもあります。
また、借金などのマイナス財産を見落とすと、相続放棄を検討するうえで重大な問題となる可能性があります。
相続財産調査とは
相続財産調査とは、被相続人、つまり亡くなった方が死亡時にどのような財産や債務を持っていたのかを確認する作業です。
調査する対象は、現金や預貯金、不動産といった分かりやすい財産だけではありません。
株式、投資信託、生命保険、貸金庫、ゴルフ会員権、事業上の権利、未収金、暗号資産などが含まれる場合があります。
一方、借入金、住宅ローン、カードローン、クレジットカードの未払金、税金や医療費などの未払金、保証債務など、マイナスの財産についても確認する必要があります。
つまり、相続財産調査では「いくら財産があるか」だけではなく、
プラスの財産とマイナスの財産をできる限り正確に把握すること
が重要になります。
なぜ相続財産調査が重要なのか
相続財産調査が重要な理由は、大きく分けて三つあります。
第一に、正確な遺産分割協議を行うためです。
例えば、相続人が長男と長女の2人で、預貯金2,000万円だけだと思って遺産分割をした後、被相続人名義の土地が見つかったとします。
その土地については改めて誰が取得するか協議する必要が生じます。
第二に、相続放棄をするかどうか判断するためです。
相続では、預貯金や不動産などのプラス財産だけではなく、原則として借金などの債務も承継します。
裁判所によれば、相続放棄は原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります。調査しても判断材料が得られない場合には、相続の承認または放棄の期間を伸長する手続を検討できる場合があります。
第三に、相続税の申告が必要かどうか判断するためです。
相続税の基礎控除は、原則として
3,000万円+600万円×法定相続人の数
で計算されます。正味の遺産額が基礎控除額を超える場合には、原則として相続税の申告が必要です。
財産が十分に把握できなければ、そもそも相続税の申告が必要なのかどうかを正確に判断することもできません。
相続財産調査では何を調べる?
相続財産調査では、主に次のような財産・債務を確認します。
・現金
・普通預金、定期預金などの預貯金
・土地、建物、マンションなどの不動産
・株式、投資信託、国債などの有価証券
・生命保険
・自動車、貴金属、骨董品など
・貸付金、未収金
・ネット銀行、ネット証券
・暗号資産などのデジタル資産
・事業用財産
・借入金、住宅ローン、カードローン
・クレジットカード利用代金
・未払いの税金、医療費など
・保証債務
財産を探す際には、「資産」だけを探すのではなく、「負債」も同時に調べることが大切です。
預貯金はどうやって調査する?
まず確認したいのが、被相続人の自宅に残されている通帳やキャッシュカードです。
さらに、過去の通帳、金融機関から届いた郵便物、カレンダーや手帳、スマートフォン、パソコン、メールなども確認します。
例えば、年金の振込先、公共料金の引落先、クレジットカード代金の引落先などから、利用していた金融機関が判明することがあります。
金融機関が判明した場合には、相続人であることを証明する戸籍などを提出し、残高証明書や取引履歴を取得して確認していきます。
取引履歴を見ることで、別の銀行や証券会社への送金、保険料の支払い、貸金庫利用料など、新たな財産を発見する手掛かりが見つかることもあります。
マイナンバーが付番された預貯金は「相続時照会」が利用できる場合も
2026年現在、被相続人が生前に預貯金口座へマイナンバーを付番していた場合、相続人は任意の金融機関で「相続時照会」を申し込むことができます。
一部対象外の金融機関を除き、被相続人のマイナンバーが付番された預貯金口座の所在を確認することができます。
ただし、非常に重要なのは、被相続人のすべての銀行口座を無条件に全国一括検索できる制度ではない、という点です。
被相続人がマイナンバーを付番していない預貯金口座などは、この制度だけでは確認できません。
したがって、通帳、郵便物、取引履歴など従来の調査方法も引き続き重要です。
不動産の相続財産調査
不動産の調査では、まず固定資産税の納税通知書や課税明細書を確認します。
これにより、被相続人名義の土地や建物を確認できることがあります。
また、不動産が所在する市区町村で名寄帳などを取得する方法もあります。
ただし、固定資産税関係の資料は基本的に自治体ごとの調査となります。
例えば、京都市に自宅があり、滋賀県や奈良県に土地を所有している場合、京都市の資料だけを確認しても遠方の不動産を把握できない可能性があります。
そこで、2026年から非常に重要になったのが「所有不動産記録証明制度」です。
2026年2月開始「所有不動産記録証明制度」とは
2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」が始まりました。
これは、登記官が特定の被相続人について、所有権の登記名義人として記録されている不動産を検索し、一覧として証明する制度です。
従来、不動産登記記録は土地・建物ごとに作成されていたため、「父が全国にどの不動産を持っていたか」を法務局で氏名から一括して調べる制度はありませんでした。
この制度の開始によって、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくなりました。全国の法務局で書面またはオンラインによる請求が可能です。
相続財産調査という観点では、非常に大きな制度変更といえます。
所有不動産記録証明書にも注意点がある
もっとも、この制度を利用すれば絶対にすべての不動産が見つかる、というわけではありません。
法務省も、検索条件として指定した氏名・住所等と登記記録が一致しない場合などには、不動産が存在していても検索結果に抽出されない可能性があると案内しています。
例えば、被相続人が過去に複数回転居している場合には、昔の住所で登記されたままの不動産が存在することがあります。
そのため、戸籍の附票などから過去の住所を確認し、必要に応じて複数の検索条件を指定することが重要になります。
また、所有権の登記がされていない不動産や、コンピュータ化されていない登記簿の不動産など、検索対象にならないものもあります。
所有不動産記録証明書だけに頼るのではなく、固定資産税資料、権利証・登記識別情報、売買契約書なども併せて確認した方が安全です。
株式や証券口座はどう調べる?
被相続人が株式や投資信託を保有していた場合、証券会社から届いている取引報告書、配当金計算書、株主総会関係書類、メールなどを確認します。
しかし、「株を持っていたことは分かるが、どこの証券会社か分からない」というケースもあります。
このような場合には、証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」を利用できる場合があります。
相続人から開示請求を行うことにより、振替株式等について口座が開設されている証券会社や信託銀行等を確認できます。
ただし、開示結果から分かるのは主に口座開設先であり、保有銘柄や残高などについては、開示された証券会社等へ別途問い合わせる必要があります。
また、外国株式、国債、社債など、対象外となるものもあるため注意が必要です。
生命保険も見落としやすい
生命保険については、保険証券、保険会社からの郵便物、通帳の保険料引落しなどを確認します。
それでも契約していた保険会社が分からない場合には、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用できることがあります。
親族等が死亡した場合、一定の要件のもとで生命保険協会の会員会社に保険契約の有無を確認する制度です。
なお、生命保険金は契約内容や受取人の指定によって、民法上の遺産に含まれるかどうか、相続税上どのように扱われるかが異なることがあります。
「保険金がある=すべて遺産分割の対象」と単純に判断しないよう注意しましょう。
借金などのマイナス財産の調査も忘れない
相続財産調査で特に注意したいのが借金です。
被相続人の自宅にある金銭消費貸借契約書、ローン関係書類、クレジットカード、金融会社からの郵便物、銀行口座の返済履歴などを確認します。
固定資産税、住民税、医療費、施設利用料、家賃などの未払金が残っていないかについても確認しましょう。
相続税の計算上も、被相続人の死亡時に存在した借入金や未払金などで、確実と認められる一定の債務は遺産総額から控除できる場合があります。
もっとも、相続税の「債務控除」の問題と、民法上その債務を相続するかどうかという問題は必ずしも同じではありません。
特に保証債務などがある場合には慎重な確認が必要です。
ネット銀行・暗号資産などのデジタル財産にも注意
最近の相続では、スマートフォンやパソコンの中にしか手掛かりが残っていない財産も増えています。
ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネーなどです。
紙の通帳が存在しないため、郵便物だけを確認していると見落とす可能性があります。
スマートフォンにインストールされているアプリ、パソコンのブックマーク、メール、SMSなどから利用していたサービスを確認することも、現在の相続財産調査では重要です。
ただし、パスワードが分からないからといって、相続人が被相続人本人になりすましてサービスにログインすることが適切とは限りません。
サービス提供会社の相続手続窓口に問い合わせ、正規の手続を進めることをおすすめします。
相続財産調査に「いつまで」という期限はある?
相続財産調査そのものについて、「死亡から○か月以内に終了しなければならない」という一律の法律上の期限があるわけではありません。
しかし、実際には関連する手続に期限があります。
特に重要なのが、相続放棄の原則3か月、相続税申告の原則10か月です。
相続税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納税する必要があります。遺産分割が終わっていなくても、申告期限そのものが延びるわけではありません。
また、不動産については2024年4月1日から相続登記が義務化されています。
原則として、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく義務を怠った場合には10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
したがって、「遺産分割を始める直前になって財産を調べればよい」という考え方はおすすめできません。
相続開始後、できるだけ早い段階から財産調査を始めることが大切です。
財産調査が不十分なまま遺産分割協議をするとどうなる?
一度遺産分割協議が成立した後に新しい財産が見つかることは、実務上決して珍しいことではありません。
遺産分割協議書に、「本協議書に記載のない財産が後日判明した場合には○○が取得する」などの条項を設けることもありますが、このような条項を入れておけば財産調査をしなくてよいわけではありません。
後から数千万円の預金や価値の高い不動産が判明すれば、相続人間の公平感が崩れ、トラブルにつながる可能性があります。
また、相続税の申告内容にも影響する場合があります。
可能な限り財産の全体像を確認したうえで遺産分割協議を行うことが基本です。
相続財産調査の実務的な進め方
実務では、まず被相続人の自宅にある資料を確認し、そこから手掛かりを広げていく方法が有効です。
通帳や固定資産税通知書だけでなく、郵便物、確定申告書、メール、スマートフォン、クレジットカード明細なども確認します。
次に、判明した金融機関、法務局、自治体、証券会社、保険会社などへ照会し、残高証明書や取引履歴などの資料を取得します。
そして、集めた資料を整理し、
「金融資産」
「不動産」
「その他の資産」
「債務」
といった形で財産目録を作成していくと、遺産分割協議や相続税申告へスムーズにつなげやすくなります。
相続財産調査を司法書士に相談するメリット
相続財産調査は、ご自身で進めることもできます。
しかし、不動産が複数ある場合、過去の住所が多数ある場合、相続人が多い場合、古い相続が放置されている場合などは、調査が複雑になることがあります。
特に司法書士は、不動産登記記録の確認や相続登記、戸籍収集、法定相続情報一覧図の作成など、相続手続と密接に関係する部分を取り扱う専門家です。
2026年から始まった所有不動産記録証明制度も活用しながら、固定資産税資料や登記記録などを組み合わせて確認することで、不動産の登記漏れを防ぎやすくなります。
また、相続財産調査を進めていく中で、
「借金が多く、相続放棄を検討した方がよい」
「相続税の申告が必要になりそう」
「相続人間ですでに争いが起きている」
といった問題が判明することもあります。
その場合には、必要に応じて弁護士や税理士など適切な専門家と連携して対応することも重要です。
まとめ|相続財産調査は「分かっている財産」だけで終わらせない
相続財産調査で最も危険なのは、
「親の財産はだいたい分かっているから大丈夫」
と思い込んでしまうことです。
預貯金については通帳や取引履歴、不動産については固定資産税資料や登記記録、株式については証券会社関係資料、生命保険については保険証券など、複数の資料を組み合わせて確認する必要があります。
さらに現在では、一定の条件のもとで預貯金の相続時照会、証券保管振替機構の開示請求、生命保険契約照会制度などを利用する方法もあります。
そして2026年2月からは、被相続人名義の不動産を全国的に確認しやすくする「所有不動産記録証明制度」も始まりました。
相続財産調査を早い段階でしっかり行うことは、単に財産額を知るためだけではありません。
相続放棄をするかどうか、誰がどの財産を取得するか、相続税申告が必要か、どの不動産について相続登記が必要か――その後の相続手続すべての土台になります。
財産の所在が分からない、不動産がどこにあるか分からない、預貯金や株式の調査方法が分からないといった場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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参考リンク


