親や配偶者が亡くなり不動産を相続したところ、その家に誰かが住んでいる、というケースは珍しくありません。

たとえば、
「父が亡くなった後も兄が実家に住み続けている」
「亡くなった父の内縁の妻が家から出てくれない」
「相続したマンションに賃借人がいる」
「母が亡くなった後も親族が無償で住んでいる」
といったケースです。

このような場合、相続したのだから出て行ってもらえばいい、と考えるかもしれませんが、実際にはそれほど単純ではありません。

不動産に住んでいる人が、相続人なのか、亡くなった方の配偶者なのか、賃借人なのか、あるいは無償で住んでいた親族や第三者なのかによって、法律関係が大きく異なります。

特に、賃貸借契約がある場合には借地借家法による保護があります。
また、亡くなった方の配偶者については「配偶者短期居住権」や「配偶者居住権」が問題になることがあります。
相続人自身が住んでいる場合も、不動産が遺産分割前であれば、単純に「他の相続人の家に勝手に住んでいる」と評価できるとは限りません。

そこで今回は、相続した不動産に住んでいる人がいる場合に確認しておきたい7つのポイントを、司法書士の視点から解説します。

1.まず「誰が、どのような権利で住んでいるのか」を確認する

最初に確認すべきなのは、「誰が住んでいるか」だけではなく、「何を根拠として住んでいるのか」です。

主なケースとしては、次のようなものがあります。

・共同相続人が住んでいる
・亡くなった方の配偶者が住んでいる
・賃貸借契約を締結した賃借人が住んでいる
・親族などが無償で住んでいる
・内縁の配偶者や知人が住んでいる
・明確な契約や許可なく第三者が占有している

同じ「住んでいる」という状態であっても、法的な扱いはまったく異なります。

そのため、不動産を相続したからといって、いきなり退去を求めたり、鍵を交換したりすることは避けるべきです。

まず、賃貸借契約書、使用貸借契約書、遺言書、被相続人とのやり取り、家賃の振込履歴などを確認し、その人がどのような根拠で居住しているのかを整理する必要があります。

2.相続人の一人が住んでいる場合

実務上非常に多いのが、「父が亡くなった後も長男が実家に住んでいる」といったケースです。

たとえば、父が亡くなり、相続人が長男・長女・次男の3人だったとします。実家には以前から長男が父と同居しており、父の死亡後もそのまま住み続けているケースです。

遺言書などで取得者が決まっていない場合、相続人が複数いれば、相続財産は原則として共同相続人の共有状態になります。民法では、相続人が数人ある場合には相続財産はその共有に属すると定められています。

したがって、長男だけが相続不動産の所有者というわけではありませんが、逆に他の相続人が当然に長男へ「今すぐ出て行け」と請求できるわけではありません。

特に、生前から被相続人の了承を得て同居していた場合には、被相続人との間の使用関係や相続開始後の合意などを確認する必要があります。

また、「一人だけ住んでいるのだから、他の相続人に家賃相当額を必ず支払わなければならない」と一律に判断できるものでもありません。

使用貸借などの法律関係が成立しているのか、他の相続人が居住を認めていたのか、遺産分割協議がどのような状況にあるのかなどによって判断が異なります。

このため、相続人の一人が実家を占有している場合には、単に「家賃を請求する」「退去を求める」という話から始めるのではなく、まず遺産分割をどうするのかを整理することが重要です。

3.住んでいる相続人が不動産を取得する「代償分割」も検討する

相続人の一人が実家に長年住んでいる場合、その相続人が不動産を取得する方法として「代償分割」があります。

たとえば、相続財産が実家3,000万円と預貯金600万円で、相続人が子ども3人だったとします。

長男が実家に住み続けたい場合には、長男が実家を取得し、その代わりに他の相続人へ一定額の代償金を支払う方法を検討できます。

この方法であれば、実家を売却せずに居住を継続できる可能性があります。

裁判所も、遺産分割の方法として、「現物分割」「代償分割」「共有分割」「換価分割」という方法を案内しています。代償分割は、一人または数人の相続人が遺産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。

ただし、不動産の評価額をいくらとするかで争いになることがあります。

固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定価格などは、それぞれ金額が異なることがあります。
特に代償金の額を決める場合には、「実家をいくらと評価するのか」が重要です。

また、不動産を取得する相続人に十分な資力がなければ代償金を支払えません。

そのため、居住中の相続人が不動産を取得したい場合には、不動産の評価と代償金の支払方法をセットで検討する必要があります。

4.配偶者が住んでいる場合は「配偶者短期居住権」に注意する

亡くなった方の夫または妻が自宅に住んでいた場合には、特に注意が必要です。

民法には「配偶者短期居住権」という制度があります。

被相続人が所有していた建物に配偶者が相続開始時に無償で住んでいた場合、一定期間、その建物を無償で使用できる制度です。

たとえば、夫名義の自宅に夫婦で住んでおり、夫が死亡したとします。
夫が亡くなったからといって、他の相続人が妻に対して直ちに「この家から出て行ってください」とはいえません。

居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合、配偶者は、原則として、遺産分割により居住建物の帰属が確定する日または相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで、無償で居住できます。

また、第三者への遺贈や配偶者が相続放棄した場合などについても、一定期間の居住が保護される仕組みがあります。

したがって、相続した不動産に亡くなった方の配偶者が居住している場合には、配偶者短期居住権が成立していないかを必ず確認する必要があります。

5.長期間住み続けてる場合は「配偶者居住権」という選択肢もある

配偶者については、短期的な居住を保護する「配偶者短期居住権」とは別に、「配偶者居住権」という制度があります。

配偶者居住権は、一定の要件のもとで、亡くなった方の配偶者がその住宅に終身または一定期間住み続けられる権利です。

遺産分割協議などで設定することができます。

たとえば、夫が亡くなり、妻と子どもが相続人になったケースを考えてみましょう。

自宅の所有権そのものを妻が取得すると、妻の相続財産の大部分が不動産になり、生活資金となる預貯金を十分に取得できないことがあります。

このような場合に、自宅の所有権を子どもが取得し、妻が配偶者居住権を取得することで、「妻の住む場所を確保しながら、預貯金も一定程度確保する」という遺産分割が可能になります。

ただし、配偶者居住権は通常の所有権とは異なる特殊な権利であり、登記や将来の不動産売却への影響なども考える必要があります。

単純に「配偶者居住権を設定すれば得」と考えるのではなく、家族構成、妻の年齢、不動産の価値、預貯金額、将来の売却予定などを考慮して判断することが大切です。

6.賃借人が住んでいる場合、相続しただけでは退去を求められない

相続した不動産が賃貸物件だった場合には、さらに注意が必要です。

たとえば、父が所有していた一戸建てを第三者に月8万円で貸しており、父が亡くなったケースです。

この場合、父との賃貸借契約だから、父が亡くなれば契約も当然に終了する、というわけではありません。

被相続人が賃貸人として有していた権利義務は、原則として相続人に承継されます。
つまり、相続人側は賃貸人としての地位や法律関係を引き継ぐことになります。

建物賃貸借については、借地借家法による賃借人保護もあります。

借地借家法では、建物の引渡しを受けている賃借人について一定の対抗力が認められています。
また、普通建物賃貸借契約について賃貸人側から更新を拒絶したり解約を申し入れたりする場合には、「正当の事由」が必要となる場合があります。

したがって、

「相続した家を自分で使いたいから、来月までに退去してください」

「売却したいので賃貸借契約を終了します」

と一方的に通知すれば必ず退去させられるわけではありません。

賃貸中の不動産を相続した場合には、まず賃貸借契約書を確認し、普通借家契約なのか定期借家契約なのか、契約期間、敷金、家賃、滞納の有無、保証会社の有無などを確認しましょう。

賃貸不動産を売却する場合も、「賃借人付きの収益物件」として売却するのか、退去後に空き家として売却するのかによって対応が大きく変わります。

7.親族などが無料で住んでいる場合は「使用貸借」を確認する

次に問題となりやすいのが、賃貸借契約はないものの、被相続人の親族や知人が無料で住んでいるケースです。

たとえば、

「父が弟夫婦に家を無料で貸していた」

「叔父が亡くなったが、昔から従兄弟が住んでいる」

「被相続人の交際相手が無償で住んでいた」

といった場合です。

このような場合には「使用貸借」が成立している可能性があります。

使用貸借とは、簡単にいえば物を無償で使用させる契約です。

契約書が作成されていないケースも多いため、「契約書がない=何の権利もない」とは限りません。

被相続人と居住者の関係、いつから住んでいるのか、家賃を支払っていたのか、固定資産税や修繕費を誰が負担していたのか、どのような約束で住み始めたのかなどを確認する必要があります。

また、被相続人が亡くなったからといって、すべての使用貸借が当然かつ直ちに終了するわけではありません。

退去を求める場合にも、その使用貸借の内容や終了時期などを確認したうえで対応する必要があります。

「家賃相当額を払ってほしい」と請求できるのか

相続人の一人が相続不動産を単独で使用していると、「自分も所有者なのだから、住んでいる兄から家賃をもらいたい」と考える方もいます。

しかし、これも一律には判断できません。

相続開始前から被相続人の許可を得て住んでいたのか、相続人間で無償居住を認めていたのか、使用貸借などが成立しているのかによって結論が変わります。

そのため、「固定資産税評価額が○○万円だから家賃はいくら」「法定相続分が2分の1だから家賃の半分を請求できる」と単純に計算することはできません。

この問題は遺産分割とは別の民事上の請求が問題となることもあるため、争いがある場合には弁護士への相談が必要になるケースもあります。

勝手に鍵を交換したり荷物を処分したりしない

居住者との関係が悪化すると、

「自分が相続した家なのだから鍵を交換しよう」

「留守の間に荷物を外へ出してしまおう」

と考える方もいるかもしれません。

しかし、このような実力行使は避けるべきです。

たとえ最終的に退去を求めることができるケースであっても、適法な手続きを踏まずに居住者を強制的に排除すると、新たな紛争につながる可能性があります。

まずは居住者の権利関係を確認し、必要に応じて退去時期や引越費用などについて話し合います。

話し合いで解決できない場合には、民事調停や訴訟などの法的手続きを検討することになります。

売却したい場合も「居住者の存在」を先に整理する

相続した不動産を売却しようと考えている場合には、居住者の問題を後回しにしないことが重要です。

空き家として売却する予定なのか、賃借人付き物件として売却するのかによって、不動産の評価や買主も変わります。

特に、親族が無償で居住しているケースでは、「売却すると決まれば出てくれるだろう」と考えて話を進めたところ、売買契約直前になって退去を拒否されることがあります。

売却を検討するのであれば、早い段階で次の事項を確認しておきましょう。

・誰が住んでいるのか
・何を根拠として住んでいるのか
・退去する意思があるのか
・退去するとすればいつなのか
・賃貸借契約が存在するか
・敷金や保証金を預かっているか
・相続人全員が売却に同意しているか
・相続登記が完了しているか

不動産会社へ売却査定を依頼する前に権利関係を整理しておくと、その後の手続きが進みやすくなります。

相続登記も忘れずに行う

居住者との話し合いに時間がかかっている場合でも、相続登記の問題を放置してはいけません。

2024年4月1日から相続登記が義務化されています。

相続によって不動産を取得したことを知った相続人は、原則として、そのことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なく義務を履行しなかった場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

また、2024年4月1日より前に発生した相続についても、相続登記がされていない不動産は義務化の対象です。一定の場合を除き、2027年3月31日までの対応が必要となります。

「兄が実家から出てくれないので遺産分割が進まない」

「誰が家を取得するか決まっていない」

という場合でも、相続登記の義務までなくなるわけではありません。

遺産分割がまとまらず期限内の相続登記が難しい場合には、「相続人申告登記」を利用して申請義務を履行する方法もあります。

居住者問題と相続登記は分けて考えることが重要です。

話し合いがまとまらない場合は遺産分割調停も検討する

相続人の一人が実家に住み続けているケースでは、最終的に「その不動産を誰が取得するのか」を決めなければ問題が解決しないことがあります。

相続人間の話し合いで遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる方法があります。

遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員を介して、不動産を誰が取得するのか、代償分割にするのか、売却して代金を分けるのかなどを話し合います。

調停でも合意できなければ、原則として審判手続へ移行し、裁判所が判断することになります。

「住んでいる相続人と退去をめぐって争う」という形にするよりも、遺産分割全体の中で「実家を誰が取得するのか」を解決した方がよいケースも少なくありません。

相続した不動産に人が住んでいる場合の7つのチェックポイント

相続した不動産に誰かが住んでいた場合には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

1.現在住んでいる人が誰なのかを確認する
2.相続人・配偶者・賃借人・第三者のどれに当たるのか確認する
3.賃貸借・使用貸借など居住の根拠を確認する
4.遺言書や遺産分割協議の状況を確認する
5.退去してもらうのか、住み続けてもらうのかを検討する
6.不動産を取得する相続人や売却方針を決める
7.相続登記を進める

「誰が所有するか」と「誰が住むことができるか」は、必ずしも同じ問題ではありません。

ここを混同すると、相続人間の争いが大きくなることがあります。

まとめ|まず居住者の権利関係を確認してから相続手続きを進める

相続した不動産に人が住んでいる場合、最も重要なのは、いきなり退去を求めるのではなく、「誰が、どのような法律上の根拠で住んでいるのか」を確認することです。

相続人が住んでいる場合には遺産分割との関係を検討する必要があります。
配偶者であれば配偶者短期居住権や配偶者居住権が問題になることがあります。
賃借人であれば、相続によって賃貸借関係が当然になくなるわけではなく、借地借家法による保護も考慮しなければなりません。

また、親族が無償で住んでいる場合には使用貸借が成立している可能性があります。

「相続した不動産だから自由にできる」と判断して、鍵を交換したり荷物を処分したりするのは避けましょう。

不動産を誰が相続するのか、住んでいる人は今後どうするのか、売却するのか、相続登記をどう進めるのかを一体として整理することが重要です。

相続した不動産に居住者がいるケースでは、通常の相続登記よりも確認すべき事項が多くなります。できるだけ早い段階で権利関係を整理しておくことで、将来の相続トラブルを防ぎやすくなります。

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相続した不動産に相続人や親族が住んでいる場合の相続登記、遺産分割、不動産の名義変更などについてもご相談いただけます。居住者との間で法律上の紛争が生じている場合には、必要に応じて弁護士への相談を含め、状況に応じた対応を検討することが大切です。

参考リンク

e-Gov法令検索:民法

e-Gov法令検索:借地借家法

法務省:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)

法務省:相続登記の義務化

京都家庭裁判所:遺産分割調停