はじめに
「自分が亡くなった後、障害のある子どもは生活していけるだろうか」
「兄弟姉妹に負担をかけたくない」
「相続財産を残したいが、適切に管理できるか心配」
このような悩みを持つ方は少なくありません。
特に知的障害、精神障害、発達障害、身体障害などがあるご家族がいる場合、一般的な相続対策だけでは不十分なケースがあります。
障害のある方が安心して生活を続けるためには、相続対策と福祉制度を組み合わせた長期的な準備が重要です。
本記事では、障害のある家族がいる場合に検討すべき相続対策について、司法書士の視点からわかりやすく解説します。
なぜ障害のある家族には特別な相続対策が必要なのか
一般的な相続では、遺言書を作成する、相続税対策をする、不動産を承継する、といった対策が中心になります。
しかし障害のある家族が相続人となる場合には、次のような課題があります。
① 財産管理が難しい場合がある
障害の内容や程度によっては、預金管理、契約手続き、不動産管理などを一人で行うことが難しい場合があります。
相続でまとまった財産を取得しても、適切な管理ができなければ将来的に生活が不安定になる可能性があります。
② 悪質商法や詐欺の被害に遭うリスク
判断能力に不安がある場合、高額商品の契約、投資詐欺、訪問販売などの被害に遭う危険があります。
相続財産があることで狙われるケースも少なくありません。
③ 兄弟姉妹への負担
親亡き後は、兄弟姉妹、親族が支援することになります。
しかし、遠方に住んでいる、高齢である、自身の家庭がある、などの事情により、十分な支援ができないこともあります。
④ 親亡き後問題
障害のある子どもを持つ家庭では、「親亡き後問題」が大きな課題となります。
親が亡くなった後、
- 誰が面倒を見るのか
- 財産管理はどうするのか
- 生活費は足りるのか
を事前に考えておく必要があります。
障害のある家族のための相続対策の基本
相続対策は以下の3つの視点で考えることが重要です。
① 生活資金を確保する
まずは将来の生活費を確保します。
必要となる費用の例
- 家賃
- 食費
- 光熱費
- 医療費
- 介護費用
- 通院交通費
- 趣味や余暇活動費
平均寿命を考慮し、「何歳まで生活するか」を想定して資金計画を立てます。
② 財産管理の仕組みを作る
単に財産を残すだけでは十分ではありません。
重要なのは、「誰がどのように管理するのか」を決めることです。
③ 支援体制を作る
財産だけでなく、親族、福祉施設、相談支援専門員、成年後見人などの支援体制も整えておく必要があります。
障害のある家族がいる場合に有効な相続対策
1. 遺言書を作成する
最も基本となる対策です。
遺言書がない場合、法定相続分によって財産が分配されます。
しかし、「障害のある子どもに多めに財産を残したい」という希望がある場合は遺言書が必要です。
遺言書のメリット
- 財産の承継先を指定できる
- 相続人同士の争いを防げる
- 手続きがスムーズになる
公正証書遺言がおすすめ
遺言書の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言があります。
障害のある家族の将来に関わる重要な内容であるため、公証人が作成する公正証書遺言がおすすめです。
2. 家族信託を活用する
近年注目されている制度です。
家族信託とは
財産を信頼できる家族に託し、管理・運用してもらう仕組みです。
メリット
- 柔軟な財産管理が可能
- 成年後見制度より自由度が高い
- 親亡き後も継続的な支援が可能
デメリット
- 専門的な設計が必要
- 税務面の検討が必要
3. 成年後見制度を利用する
判断能力が十分でない場合に利用される制度です。
成年後見制度とは
家庭裁判所が選任した後見人が、本人に代わって財産管理や契約手続きを行います。
利用場面
- 預金管理
- 不動産管理
- 施設契約
- 福祉サービス契約
など
メリット
- 財産を適切に管理できる
- 悪質商法対策になる
デメリット
- 家庭裁判所の監督がある
- 柔軟な財産運用が難しい
4. 障害者扶養共済制度
親亡き後対策として活用される制度です。
制度の概要
保護者が掛金を納付し、死亡または重度障害になった場合、障害のある子どもにお金が支給されます。
メリット
- 毎月安定した収入を確保できる
- 全国で利用可能
5. 生命保険を活用する
生命保険も有効な相続対策です。
活用例
親の死亡時に、一時金や年金形式で保険金を受け取れるように設計します。
6. 特定贈与信託(障害者扶養信託)
障害のある方の将来の生活を支えるために、親や親族が財産を信託銀行等に預けて管理してもらう制度です。障害のある方が亡くなるまで、生活費や医療費などを継続的に受け取れる仕組みになっています。
仕組み
親が信託銀行等へ資金を預け、障害のある家族の生活費や医療費として定期的に支給します。
税制上の優遇
一定額まで贈与税が非課税になります。
非課税限度額
- 特別障害者:6,000万円
- その他の障害者:3,000万円
親亡き後問題に備えるための準備
障害のある家族がいる場合は、次の内容をまとめておくことをおすすめします。
エンディングノートの作成
記載例
- 医療機関
- 服薬内容
- 障害福祉サービス
- 通所施設
- 支援者一覧
- 財産一覧
- 緊急連絡先
家族会議を行う
親だけで決めるのではなく、兄弟姉妹、親族、支援者を交えて話し合うことが大切です。
司法書士に相談するメリット
障害のある家族の相続対策は、
- 相続
- 成年後見
- 家族信託
- 遺言
- 不動産
など複数の法律分野が関係します。
司法書士に相談することで、ご家族の状況に応じた最適な対策を組み合わせることができます。
特に、
- 親亡き後問題
- 家族信託
- 成年後見制度
- 遺言書作成
は早めの準備が重要です。
まとめ
家族に障害がある場合の相続対策では、単に財産を残すだけでなく、
- 生活資金の確保
- 財産管理の仕組みづくり
- 支援体制の構築
を総合的に考える必要があります。
主な対策として、
- 遺言書
- 家族信託
- 成年後見制度
- 障害者扶養共済制度
- 生命保険
- 特定贈与信託
などがあります。
親亡き後に慌てないためにも、元気なうちから準備を始めることが大切です。
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障害のあるご家族の将来に不安を感じている方、遺言書や家族信託を検討されている方は、お気軽にご相談ください。
参考リンク
- 法務省:成年後見制度
- 国税庁:相続税の障害者控除
- 厚生労働省:障害者総合支援制度
- 厚生労働省:障害者扶養共済制度(しょうがい共済)
障害のある方を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、保護者が亡くなった時などに、障害のある方に対し、一定額の年金を一生涯支給するというもの


