「私たちが亡くなった後、残された配偶者や子どもたちが困らないようにしたい」

そう考えて、ご夫婦で一緒に遺言書の作成を検討される方が増えています。

夫婦で遺言書を作ることは、将来の遺産トラブルを防ぐために非常に有効な手段です。しかし、日本の法律には夫婦で遺言書を作る際に絶対に知っておかなければならない「落とし穴」があります。

今回は、夫婦で遺言書を作成するときの注意点と、失敗しないためのポイントを司法書士が分かりやすく解説します。

1. 最大の注意点:1枚の紙に2人分の遺言を書くのはNG(共同遺言の禁止)

夫婦で遺言書を作ろうとする際、最も多くみられる失敗が「1枚の用紙に、夫婦2人分の内容をまとめて書いてしまう」ことです。

民法第994条(共同遺言の禁止)

遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

日本の法律では、二人以上の人が同じ用紙に遺言を書くことを禁止しています。これを「共同遺言の禁止」と言います。

もし「夫が亡くなったら妻へ、妻が亡くなったら夫へ財産を譲る」という内容を1枚の紙に連名で書いてしまうと、その遺言書は一文字も効力を発揮せず、丸ごと無効になってしまいます。

なぜ共同遺言はダメなのか?

遺言書は本来、いつでも自分の意思で自由に書き直せるものであるべきだからです。

1枚の紙に2人で書いてしまうと、片方が「やっぱり書き直したい」と思ったときに、もう片方の同意が必要に見えてしまい、自由な書き直し(撤回)が難しくなってしまいます。そのため、法律で厳しく禁止されているのです。

【対策】

夫婦であっても、必ず「夫は夫の遺言書」「妻は妻の遺言書」と、別々の用紙で1冊ずつ作成してください。

2. 夫婦で遺言書を作る際、他に気をつけるべき3つのポイント

共同遺言を避けること以外にも、夫婦ならではの注意点が3つあります。

① 「遺留分(いりゅうぶん)」に配慮する

遺留分とは、一定の法定相続人に最低限保障されている遺産の取り分のことです。

例えば、夫婦の間に子どもがおらず、夫が「すべての財産を妻に相続させる」という遺言を残したとします。この場合、夫の両親が存命であれば、両親には遺留分があります(※夫の兄弟姉妹には遺留分はありません)。

遺留分を無視した遺言を作ると、残された配偶者が他の親族からお金(遺留分侵害額)を請求され、トラブルになるケースがあります。

② 「予備的遺言(よぶいてきいごん)」を設定しておく

夫婦で遺言書を作るときは、「どちらかが先に亡くなる」ことを前提に書きます。しかし、「もし、財産を譲る予定だった配偶者が、自分より先に(あるいは同時に)亡くなってしまったらどうするか」まで考えておく必要があります。

これをカバーするのが「予備的遺言」です。

  • 記載例:「妻に全財産を相続させる。万が一、遺言者の死亡以前に妻が死亡していた場合は、〇〇(長男など)に相続させる」

この一筆がないと、配偶者が先立った後に遺言書が一部無効になり、結局残された親族間で遺産分割協議を行わなければならなくなります。

③ 認知症のリスク(作成のタイミング)

遺言書は、本人にしっかりとした「遺言能力(判断能力)」がなければ作成できません。

ご夫婦のどちらか片方でも認知症が進行してしまうと、せっかく準備をしようとしても遺言書が作れなくなってしまいます。「元気なうちに、2人揃って元気な段階で」作成することが何よりも重要です。

3. 夫婦の遺言は「公正証書遺言」が圧倒的におすすめ

遺言書には、自分で手書きする「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。

ご夫婦で作成される場合は、「公正証書遺言」を強くおすすめします。

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
形式の不備による無効 リスクが高い(書き損じなど) リスクゼロ(公証人が作成)
紛失・隠匿・改ざん リスクあり(保管場所による) リスクゼロ(公証役場に原本保管)
共同遺言のミス うっかりやってしまう可能性あり 確実に別々に作成してくれる
亡くなった後の手続き 家庭裁判所の「検認」が必要(※) 検認不要ですぐに手続き可能

(※法務局の自筆証書遺言保管制度を利用した場合は検認は不要)

プロである公証人が関与して作成する公正証書遺言であれば、前述した「共同遺言になってしまうミス」や「内容の不備で無効になるリスク」を完全に防ぐことができます。

まとめ:仲の良いご夫婦だからこそ、確実な遺言書を

「うちは夫婦仲もいいし、家族も揉めないから大丈夫」と思っていても、法律のルールを知らないと思わぬ落とし穴に初期段階でつまづいてしまうことがあります。

残される大切なパートナー、そしてお子様やご親族が、あなたの死後に手続きで苦労しないようにするためにも、法的に完璧な遺言書を準備しておきましょう。

当事務所では、ご夫婦それぞれの想いを反映し、将来のトラブルを未然に防ぐ遺言書作成のサポートを行っております。

「何から手を付ければいいか分からない」「私たちの場合はどう書けばいい?」といった小さなお悩みでも、ぜひお気軽にご相談ください。