相続土地国庫帰属制度で「最大93%引き」の売却が始まる?

「相続土地制度が崩壊する」「国が相続土地を最大93%引きで叩き売る」

このような刺激的な表現を、動画やインターネットの記事で目にした方もいらっしゃるかもしれません。

背景にあるのは、相続土地国庫帰属制度によって国庫に帰属した土地について、財務省が令和8年(2026年)6月に導入した新たな管理・処分方法です。

新たな仕組みでは、測量や境界確定などを行わない「現状有姿」での売却や、隣接地の所有者などを相手方とする随意契約が活用されます。また、買受け希望者が現れない土地については、市場の反応に応じて評価額を段階的に修正する仕組みも設けられました。

財務省が示した計算例では、最終的に当初評価額の7%まで価格が下がる可能性があります。これが「最大93%引き」といわれる理由です。

ただし、これは相続土地国庫帰属制度そのものが廃止されたり、すべての土地が直ちに93%引きで売却されたりするという話ではありません。

今回の見直しが何を意味するのか、制度の利用を検討している相続人はどのような点に注意すべきなのかを整理します。

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度とは、相続または相続人に対する遺贈によって取得した土地について、一定の要件を満たした場合に、所有権を国庫に帰属させることができる制度です。

令和5年(2023年)4月27日に開始されました。制度開始より前に相続した土地も対象となるため、何十年も前に相続した山林、農地、原野などについても利用できる可能性があります。

共有地の場合は、共有者全員が共同して申請しなければなりません。共有者の一部と連絡が取れない場合や、共有者の一人が反対している場合は、そのままでは申請できないため注意が必要です。

制度を利用するためには、土地一筆につき1万4,000円の審査手数料を納付します。審査の結果、国庫帰属が承認された場合には、原則として10年分の土地管理費相当額となる負担金を納付しなければなりません。

負担金は一律ではありませんが、一般的な土地については一筆20万円が基本です。一部の市街地にある宅地、農用地区域等の田畑、森林などは、面積に応じて負担金が計算されます。

なぜ国が土地を安く売却することになったのか

相続土地国庫帰属制度は、土地を手放したい相続人にとって重要な選択肢です。

一方、土地を引き取った後は、国がその土地を管理しなければなりません。柵の設置、草刈り、看板の設置、定期的な巡回などが必要になることもあります。

財務省の資料によると、財務局が管理する国庫帰属土地のストックは、令和5年度末の195件から、令和6年度末には939件、令和7年度末には1,586件へと増加しました。

令和7年度の管理コスト実績は約8,248万円であり、納付された負担金を10年間で割った年額相当額約4,614万円を上回っています。財務省は、管理コストが負担金相当額を上回る状況が続く場合には、将来的な負担金額の見直しも必要になるとの考えを示しています。

さらに、財務局が管理する帰属土地には、次のような土地が多く含まれています。

  • 無道路地や細長い土地
  • 崖地やのり地
  • 単独では利用しにくい土地
  • 土地需要が少ない地域の土地
  • 売却のために測量や境界確定をすると、土地の価格以上の費用がかかる土地

従来どおり一般競争入札を行うには、測量、境界確定、地下埋設物調査、不動産鑑定、物件調書の作成などに費用と時間がかかります。

財務省の調査では、令和8年3月末時点で、財務局が管理する帰属土地のうち売却に至ったものはありませんでした。そこで、管理コストを抑えながら処分を進めるために、売却手続が大幅に簡素化されたのです。

新ルール1 測量をしない「現状有姿売買」

今回の見直しでは、国庫に帰属した土地を「現状有姿」で売却する方法が導入されました。

現状有姿売買とは、簡単にいえば、国が土地を現在の状態のまま売却する方法です。

通常の不動産売買のように、国があらかじめすべての問題を調査し、整理してから売却するわけではありません。

財務省の資料では、現状有姿売買について、次のような条件が想定されています。

  • 測量や境界確定協議を実施していない
  • 地下埋設物の調査を実施していない
  • 土壌汚染に関する調査を実施していない
  • 境界が不明確であることによって買主に損害が生じても、国は責任を負わない

つまり、買主は土地を安く購入できる可能性がある一方、境界、埋設物、土壌汚染などに関するリスクを引き受けることになります。

財務省は、このようなリスクが買主側へ移転することを評価額に反映させるため、標準的な修正率をマイナス30%、残価率を70%としています。

新ルール2 隣接地所有者などへの随意契約

国庫帰属した土地の中には、単独ではほとんど利用価値がないものの、隣接地と一体にすれば利用できる土地があります。

例えば、道路に接していない小さな土地や、細長く残った土地などです。

このような土地は、不特定多数を対象とした一般競争入札よりも、隣接地所有者に購入してもらう方が現実的です。

そこで、隣接地所有者だけが買受けを希望している場合には、随意契約による売却が可能となりました。

また、隣接地所有者以外の希望者が一人だけで、予定価格が100万円以下の場合にも、一定の条件で随意契約が活用されます。

国が購入希望者と直接契約できるようにすることで、「買いたい人がいるのに、入札や測量に時間がかかって売れない」という問題を減らす狙いがあります。

新ルール3 買い手がいなければ3か月ごとに価格を修正

最も注目されているのが、市場の反応に応じた評価額の修正です。

国庫に帰属した土地については、まず財務局等のホームページに土地情報と参考価格を掲載し、3か月間、国や地方公共団体、一般の購入希望者などから要望を受け付けます。

希望者がいない場合は、現状有姿売買に伴うリスクを考慮し、当初評価額から標準30%の修正を行います。

その後も買受け希望者が現れなければ、3か月ごとに価格を段階的に修正します。

財務省資料のモデルでは、当初評価額を100とした場合、次のように価格が下がります。

100
↓ 現状有姿売買に伴う30%の修正
70
↓ 買受け希望がなければ3か月ごとに修正
63
56
49
42
35
28
21
14
7

最終的には当初評価額100に対して7となるため、最大で93%の価格修正が行われる計算です。

ただし、最初から93%引きで販売されるわけではありません。

一定期間ごとに買受け希望がないことを確認しながら段階的に修正する仕組みであり、財務省の資料例では、当初評価額の7%となるまでに相応の期間を要します。

「最大93%引き」は制度崩壊を意味するのか

結論からいうと、相続土地国庫帰属制度が直ちに「崩壊した」と評価するのは適切ではありません。

今回変更されたのは、主に国が土地を引き取った後の管理・売却方法です。

相続人が国庫帰属を申請する際の要件がなくなったわけでも、国がどのような土地でも無条件に引き取るようになったわけでもありません。

令和8年5月31日現在、相続土地国庫帰属制度の累計申請件数は5,545件、実際に国庫に帰属した件数は2,762件です。却下は81件、不承認は85件、取下げは1,023件となっています。

申請件数と帰属件数を単純に割って「承認率は約50%」と評価することも適切ではありません。申請件数には、審査中の案件や取下げられた案件が含まれており、申請した時期と帰属した時期にもずれがあるからです。

一方で、今回の見直しからは、国が引き取った土地であっても、市場で売却することが極めて難しいケースが多いことが分かります。

「国が引き取ったのだから価値のある土地」というわけではなく、管理に費用がかかる一方で、買い手が見つからない土地が増えているという現実が表面化したといえるでしょう。

国が安く売却しても、元の所有者にお金は戻らない

相続土地国庫帰属制度を利用した人の中には、次のように感じる方もいるかもしれません。

「負担金を支払って国に引き取ってもらったのに、その後、国が第三者に売却するのはおかしいのではないか」

しかし、負担金は土地の買い取り代金ではありません。

国が土地を管理するための10年分の管理費相当額として納付するものです。

負担金を納付し、土地の所有権が国に移った後は、元の所有者に土地の処分権はありません。国がその土地を売却しても、売却代金が元の所有者に返還される仕組みではありません。

反対に、国が当初評価額より大幅に安い価格で売却したとしても、元の所有者が追加の費用を請求される仕組みでもありません。

国庫帰属を申し出る際には、「将来値上がりするかもしれない土地の所有権を手放す」という点も含めて判断する必要があります。

すべての土地を国に引き取ってもらえるわけではない

相続土地国庫帰属制度には、厳格な要件があります。

次のような土地は、申請段階で却下される可能性があります。

  • 建物がある土地
  • 抵当権などの担保権が設定されている土地
  • 賃借権、地上権、地役権などが設定されている土地
  • 現に道路や墓地などとして利用されている土地
  • 基準を超える土壌汚染がある土地
  • 境界が明らかでない土地
  • 隣地所有者との間で境界や所有権に争いがある土地

また、申請自体は受け付けられても、管理に過大な費用や労力がかかる土地は不承認となる場合があります。

例えば、危険な崖がある土地、倒木のおそれがある樹木がある土地、地下に撤去が必要な埋設物がある土地などです。

「使わない土地だから国に渡せる」という単純な制度ではありません。

空き家が建っている場合には、原則として建物を解体して更地にする必要があります。解体費用、境界確認費用、残置物の撤去費用などを考えると、国庫帰属以外の方法が適しているケースもあります。

国庫帰属を申請する前に検討したいこと

相続した土地を手放したい場合でも、最初から国庫帰属制度だけに絞る必要はありません。

まずは、次のような方法を比較することが重要です。

  • 隣接地所有者に売却または贈与できないか
  • 地元の不動産業者に売却を依頼できないか
  • 空き家バンクや低価格不動産のマッチングサービスを利用できないか
  • 自治体や地域団体に寄附できないか
  • 建物を解体すれば国庫帰属の要件を満たすか

特に隣接地所有者への売却は、国庫帰属の申請よりも費用を抑えられる可能性があります。

国庫帰属制度では審査手数料と負担金が必要になるほか、建物の解体や残置物の撤去が必要になります。

相続登記を放置したままにはできない

「利用しない土地だから、名義を変更せずに放置しておけばよい」と考えることはできません。

令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から原則3年以内に相続登記を申請する必要があります。

正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。義務化より前に発生した相続も対象です。

まとめ

国庫に帰属した相続土地について、現状有姿売買や随意契約、段階的な評価額の修正が導入されました。

財務省の資料上、買受け希望者が長期間現れない場合には、当初評価額の7%、すなわち最大93%減となる可能性があります。

しかし、これは相続土地国庫帰属制度が廃止・崩壊したという意味ではありません。

むしろ、国が引き取った後も売却できず、管理コストが増え続けている現実に対応するため、処分方法を民間市場の実態に近づけたものと考えられます。

今回の見直しから分かるのは、利用価値や市場性の低い土地を次の世代へ先送りすると、家族だけでなく社会全体の負担にもなり得るということです。

山林、農地、空き地、空き家などを所有している方は、相続が発生してから慌てるのではなく、売却、管理、国庫帰属、生前贈与、遺言などの選択肢を早めに検討しておきましょう。


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