不動産を購入したとき、住宅ローンを完済したとき、家族が亡くなって相続手続が必要になったときなどに、不動産会社、金融機関、葬儀会社、相続サポート会社などから司法書士事務所を紹介されることがあります。
紹介を受けること自体は珍しいことではありません。自分で司法書士を探す手間が省け、手続がスムーズに進むというメリットもあります。
しかし、紹介された事務所について、次のような疑問を感じる方もいるのではないでしょうか。
自分で探した司法書士より報酬が高い気がする
電話に出るのは事務員ばかりで、司法書士本人と話せない
契約先は相続サポート会社なのに、司法書士が手続をすると説明された
誰が責任を持っているのか分からない
紹介された司法書士事務所だから危険というわけではありません。
ただし、紹介の仕組み、報酬の内訳、資格者の関与状況が不透明な場合には、契約する前に一度立ち止まって確認することが大切です。
この記事では、紹介先の司法書士事務所に依頼してよいか判断するためのチェックポイントを解説します。
司法書士を紹介してもらうこと自体は問題ではない
不動産会社から所有権移転登記を担当する司法書士を紹介されたり、葬儀会社から相続登記に対応する司法書士を案内されたりすることがあります。
紹介そのものが、直ちに問題になるわけではありません。
例えば、以前から業務上の連携実績があり、対応が丁寧な司法書士を紹介することは、相談者にとっても便利です。紹介された司法書士の説明や見積りに納得したうえで依頼するのであれば、基本的に問題はありません。
ただし、紹介されたからといって、その司法書士に必ず依頼しなければならないわけではありません。
司法書士を選ぶのは依頼者本人です。
「当社指定の司法書士でなければ手続できません」
「今日中に契約しなければ間に合いません」
「ほかの司法書士には相談しないでください」
などと強く契約を迫られた場合は、なぜ指定されているのかを確認しましょう。
不動産売買では、決済日や融資条件との関係から金融機関側の指定・調整が行われる場合もありますが、その場合でも、担当司法書士の氏名、事務所名、報酬、業務内容について説明を受けることが重要です。
注意点1 司法書士が紹介料やキックバックを支払っていないか
一般に「キックバック」とは、依頼者を紹介してもらった見返りとして、司法書士が紹介元に金銭その他の利益を渡すことをいいます。
日本司法書士会連合会の司法書士行為規範第12条では、司法書士が依頼者の紹介を受けたことについて、名目を問わず対価を支払うことを禁止しています。また、司法書士が依頼者を紹介した見返りとして対価を受け取ることも禁止されています。
さらに、司法書士法その他の法令に違反して業務を行う者との提携、第三者への名義貸し、正当な理由のない報酬分配なども禁止されています。
「広告料」「業務委託料」という名称なら問題ないのか
紹介元への支払いが「広告料」「システム利用料」「業務委託料」「コンサルティング料」などと呼ばれていることもあります。
ただし、名称を変えれば何でも許されるわけではありません。
司法書士行為規範は、依頼者の紹介に対する支払いについて「いかなる名目によるかを問わず」と定めています。そのため、支払いの名称だけでなく、実際にどのようなサービスに対して、どのような計算方法で支払われているのかが重要になります。
もちろん、正当な広告掲載料やシステム利用料まで、すべてが禁止されるわけではありません。
問題となりやすいのは、例えば次のような仕組みです。
- 依頼者を1人紹介するごとに一定額を支払う
- 司法書士報酬の一定割合を紹介元に渡す
- 紹介件数に応じて支払額が増える
- 実際のサービス内容に比べて不自然に高い業務委託料を支払う
- 依頼者が支払った費用を司法書士と紹介会社で分配する
個別の契約が規範に違反するかどうかは、契約書の名称だけではなく、業務の実態を踏まえて判断されます。
キックバックが依頼者に与える影響
紹介料が支払われている場合、その費用が司法書士報酬やサポート費用に上乗せされ、最終的に依頼者が負担している可能性があります。
また、紹介料を多く支払う司法書士が優先的に紹介される仕組みであれば、依頼者に合う司法書士ではなく、紹介元にとって利益の大きい司法書士が選ばれてしまうおそれもあります。
以前、私が勤務していた大阪の司法書士法人は、葬儀会社に対して報酬の一定割合をキックバックしていました。
キックバック行為をしていることを知り、耐えられなくなり退職しましたが、そのようなキックバック行為をしている司法書士事務所は少なくないと思われます。
余計なお金を支払わなくてすむように、正式に依頼をする前に、複数の事務所に相談するなどを考えることが必要です。
注意点2 報酬が高いだけで違法とは限らない
司法書士の報酬には、全国一律の価格表はありません。
現在は各司法書士が、それぞれ報酬額を定めています。そのため、同じ相続登記や抵当権抹消登記であっても、事務所によって報酬が異なることがあります。
日本司法書士会連合会も、司法書士の報酬は各司法書士が自由に定める一方、報酬額、算定方法、諸費用を明示し、依頼者との合意によって決定するものと案内しています。
したがって、ほかの事務所より報酬が高いという理由だけで、直ちに違法になるわけではありません。
相続人が多数いる、何代にもわたって相続登記が放置されている、戸籍の収集範囲が広い、不動産が複数の法務局管轄にあるなど、事案が複雑であれば報酬が高くなることもあります。
一方で、司法書士法施行規則では、司法書士が業務を受任しようとする場合、あらかじめ報酬額の算定方法その他の報酬基準を示すことが求められています。
司法書士行為規範でも、受任時に報酬・費用の金額または算定方法を明示して十分に説明し、報酬を個別事情に照らして適正かつ妥当なものとするよう定めています。
「相続手続一式」という見積りには注意する
見積書に「相続手続一式 55万円」などとしか書かれていない場合は、内訳を確認しましょう。
相続手続には、さまざまな費用が含まれる可能性があります。
- 司法書士の報酬
- 登録免許税などの税金
- 戸籍謄本や住民票などの取得費用
- 郵送料や交通費
- 不動産の調査費用
- 預貯金等の相続手続に関する報酬
- 遺産分割協議書などの書類作成費用
総額だけを見ても、高いか安いかを正確に判断できません。
「司法書士報酬」と「税金・証明書代などの実費」を分けてもらい、さらに、どこまでが基本料金で、何をすると追加料金が発生するのかを確認しましょう。
追加報酬の条件も確認する
最初の金額が安くても、後から追加報酬が発生することがあります。
例えば、次のような項目です。
- 相続人が一定人数を超えた場合
- 不動産の数が増えた場合
- 法務局の管轄が複数ある場合
- 数次相続や代襲相続が判明した場合
- 戸籍の取得通数が増えた場合
- 遺産分割協議書の作成が必要になった場合
- 預貯金や株式の手続を追加した場合
追加料金があること自体は不自然ではありません。
問題は、追加料金の条件が契約前に説明されていないことです。
見積書には、少なくとも「基本報酬」「実費」「追加報酬が発生する条件」「業務範囲」を記載してもらうと安心です。
注意点3 司法書士ではない担当者だけで手続が進んでいないか
司法書士事務所には、司法書士のほかに補助者が勤務していることがあります。
職員が電話対応、書類の案内、日程調整、進捗連絡などを行うこと自体は問題ではありません。業務を効率的に進めるうえで、補助者の存在は必要です。
しかし、司法書士行為規範では、司法書士が補助者を指導・監督しなければならず、補助者に業務を包括的に処理させてはならないと定めています。
また、司法書士法施行規則にも、司法書士が他人に司法書士業務を取り扱わせてはならないとの規定があります。
司法書士法第73条では、司法書士会に入会している司法書士または司法書士法人でない者が、法律に定める司法書士業務を行うことを原則として禁止しています。
職員が対応してはいけないケースとは
職員が書類を発送したり、必要書類の一般的な案内をしたりすることと、職員が独自に法律判断を行うことは別です。
例えば、次のような対応が司法書士ではない担当者だけで行われている場合は、慎重に確認する必要があります。
- 相続関係を判断し、誰が相続人になるかを確定する
- 遺産分割の方法について法的な助言をする
- 登記できるかどうかを最終判断する
- 依頼者の事情に応じて手続方法を選択する
- 登記申請書や契約書の内容を実質的に決定する
- 司法書士が確認しないまま案件全体を処理する
- 司法書士の名義だけを使って登記申請を行う
補助者や職員が窓口になること自体ではなく、資格者が法律判断と業務管理を行っているかが重要です。
司法書士本人と一度も話せない場合は確認する
相続登記や不動産登記では、書類を形式的に提出すればよいわけではありません。
司法書士行為規範では、不動産登記業務を受任した司法書士に対し、依頼者本人であること、登記を行う意思、対象不動産などを確認し、実体上の権利関係を把握することを求めています。
したがって、手続が終了するまで司法書士本人から一度も連絡がなく、本人確認や意思確認も職員だけで済まされるような場合には、担当司法書士に直接説明を求めた方がよいでしょう。
オンライン面談や電話での確認が行われることもあるため、必ず対面しなければならないという意味ではありません。
重要なのは、誰が資格者として判断し、責任を負っているのかが明確になっていることです。
このような事務所・サービスには注意
次の項目に複数当てはまる場合は、その場で契約せず、見積書や契約書を持ち帰って検討することをおすすめします。
1.担当司法書士の氏名を教えてもらえない
「提携司法書士が担当します」としか説明されず、氏名や事務所名が契約前に分からない場合です。
少なくとも、誰が受任し、誰が責任を持つのかを確認しましょう。
2.契約相手と振込先が司法書士事務所ではない
相続サポート会社やコンサルティング会社と契約し、料金もその会社に一括して支払う仕組みでは、誰の報酬がいくら含まれているのか分かりにくくなります。
民間会社のサービス自体が直ちに問題になるわけではありませんが、司法書士業務の契約先、報酬の支払先、司法書士の業務範囲を分けて確認する必要があります。
3.見積書に内訳がない
「相続パック」「登記代行一式」「安心サポート費用」などの記載しかなく、司法書士報酬と実費の区別がない場合です。
何にいくら支払うのかを質問しましょう。
4.法律に関する質問に資格不明の担当者が回答する
担当者の名刺やメール署名に「相続コンサルタント」「法務担当」「専門スタッフ」などと書かれていても、司法書士資格があるとは限りません。
法律判断を伴う質問は、担当司法書士に直接確認しましょう。
5.他の司法書士への相談を嫌がる
司法書士行為規範では、依頼者が他の司法書士に相談・依頼しようとすることを、正当な理由なく妨げてはならないとされています。
見積りを比較したい、セカンドオピニオンを受けたいと伝えただけで強く引き止められる場合は注意が必要です。
6.契約を急がせる
登記期限や決済日が迫っているケースを除き、「今すぐ契約しなければ損をする」と不安をあおるような勧誘には慎重になりましょう。
期限があると言われた場合は、何の法律上の期限なのか、具体的な日付と根拠を確認してください。
7.質問しても「提携先なので安心」としか答えない
「大手企業の提携先」「銀行の指定先」「全国対応のサービス」という肩書だけでは、個別案件の対応品質までは判断できません。
担当司法書士の説明、業務範囲、料金、連絡体制を見て判断することが大切です。
契約前に確認したい事項
紹介された司法書士事務所に依頼する前に、次の質問をしてみましょう。
- 担当する司法書士の氏名
- その司法書士は、どの司法書士会に登録されているか
- 契約相手は司法書士事務所か、紹介会社か
- 司法書士報酬、実費、紹介会社の費用を分けて示しているか
- 基本料金に含まれる業務はどこまでか
- 追加料金が発生するのはどのような場合か
- 法律上の説明や本人確認は誰が行うか
- 途中で依頼を取りやめた場合の費用はどうなるか
これらの質問に明確に回答し、書面で見積りを出してくれる事務所であれば、契約後のトラブルを防ぎやすくなります。
反対に、質問を嫌がる、回答が何度も変わる、契約書を渡さないという場合は、別の司法書士にも相談した方がよいでしょう。
すでに契約してしまった場合の対処法
すでに契約した後で、料金や資格者の関与に疑問を感じることもあります。
その場合は、まず次の書類を整理しましょう。
- 契約書
- 委任状
- 見積書
- 請求書、領収書
- メールやLINEのやり取り
- 担当者の名刺
- サービスの広告や説明資料
- 支払いの振込先が分かる資料
そのうえで、担当司法書士本人に、業務内容、費用の内訳、今後の手続について説明を求めます。
説明を受けても納得できない場合は、別の司法書士に資料を見てもらい、セカンドオピニオンを受ける方法があります。
ただし、不動産売買の決済や登記期限が迫っている場合、突然連絡を絶ったり、必要な手続を止めたりすると不利益が生じる可能性があります。まず現在の進捗と期限を確認したうえで対応しましょう。
担当者が本当に司法書士か確認する方法
司法書士は、事務所所在地を管轄する司法書士会に所属しています。
京都府内の司法書士については、京都司法書士会の「司法書士を探す」ページで、氏名、事務所名、住所などから検索できます。
ホームページに「司法書士監修」「司法書士提携」と書かれていても、実際の担当者が誰なのかは別問題です。
契約前に、担当司法書士の氏名と登録事務所を確認しておくと安心です。
司法書士の対応に疑問があるときの相談先
司法書士の事件処理や報酬説明などについてトラブルが生じた場合は、まず担当司法書士に説明を求めます。
それでも誠意ある対応が得られない場合、所属する司法書士会に相談する方法があります。
京都司法書士会では、所属会員の登記業務や債務整理などの事件処理に関する苦情を受け付けています。
また、日本司法書士会連合会は、司法書士法に違反する可能性があるサービス事業者について、情報提供フォームを設けています。
個別の契約が違法かどうかは、契約内容や業務の実態によって異なります。疑問を感じた段階で資料を保存し、司法書士会や別の専門家に相談することが大切です。
京都・東寺近くの不動リーガルオフィスでは、相談のご予約受付中です。
初回相談無料
土日祝も相談可能
京都市内は出張料無料
※個別のサービスや契約が司法書士法等に違反するかどうかは、契約内容、金銭の流れ、実際の業務分担などによって判断が異なります。本記事は一般的な情報を解説するものであり、特定の事業者や司法書士事務所について違法性を判断するものではありません。
参考リンク


