銀行口座の開設、不動産取引、会社設立などの際に、運転免許証やマイナンバーカードを提示して本人確認を受けた経験がある方は多いのではないでしょうか。

これまで対面で本人確認を行う場合には、運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの本人確認書類を提示し、担当者が「本人の顔」と「本人確認書類の顔写真」を見比べ、氏名・住所・生年月日などを確認する方法が広く利用されてきました。

ところが、2027年(令和9年)4月1日から、この本人確認の方法が大きく変わります。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則、いわゆる「犯収法施行規則」の改正により、一定の対面本人確認では、マイナンバーカードや運転免許証などを単に目で確認するだけではなく、カードに搭載されているICチップの情報を読み取ることが原則として必要になります。

警察庁も、2027年4月1日から、口座開設等で本人確認を受ける際にはマイナンバーカード等のICチップ情報の読み取り等が必要になると案内しています。

「なぜ急にICチップを読み取る必要があるのか」
「マイナンバーカードを持っていなければ手続ができないのか」
と疑問を感じる方もいるでしょう。

この記事では、2027年4月から本人確認がどのように変わるのか、一般の方にもわかりやすい言葉で解説します。

犯収法とは?

犯収法とは、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の略称です。

この法律は、犯罪によって得られた資金の出所を分からなくするマネー・ローンダリングや、犯罪組織・テロ活動などへの資金提供を防ぐことなどを目的としています。

銀行や証券会社などの金融機関だけを対象とした法律ではありません。

不動産会社、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士なども一定の業務について対象となります。

司法書士の場合には、たとえば宅地・建物の売買に関する手続、会社等の設立や組織に関する一定の手続、一定額を超える財産の管理・処分などについて、犯収法上の取引時確認が必要となる場合があります。
警察庁も、司法書士について法律相談を含むすべての業務が対象になるわけではなく、対象となる業務や取引が限定されていることを示しています。

つまり、司法書士事務所に相談へ行けば必ず犯収法上のICチップ確認を受ける、という意味ではありません。

この点は後ほど詳しく説明します。

なぜICチップを読み取ることになったのか

今回の本人確認方法の見直しには、本人確認書類の偽造や、偽造された本人確認書類を使った「なりすまし」への対策という背景があります。

これまで一般的だった本人確認では、担当者が運転免許証やマイナンバーカードなどの表面を見て、

・顔写真が本人と一致しているか
・氏名が一致しているか
・住所が一致しているか
・生年月日が一致しているか

などを確認していました。

しかし、本人確認書類の表面が精巧に偽造された場合、人が目で確認しただけでは偽造を見抜くことが難しいケースがあります。

そこで重要になるのが、カード内部に搭載されているICチップです。

ICチップには本人確認に利用できる情報が記録されており、カード表面の印刷だけを偽造する場合と比較して、ICチップ内の情報まで正規のものとして偽造することは容易ではありません。

そのため、2027年4月からは、本人確認書類の表面を見るだけでなく、ICチップ内の情報も読み取り、本人確認書類が真正なものであるかを確認する仕組みが強化されることになります。

民間の法律事務所による改正内容の実務解説でも、ICチップ付きの写真付き本人確認書類を利用する場合には、従来の券面の目視確認だけではなくICチップの読み取りを組み合わせることが今回の改正の重要なポイントとして整理されています。

2027年4月から何が変わる?

最もわかりやすい変化は、対面で運転免許証やマイナンバーカードなどを提示して本人確認を受ける場面です。

これまで

これまでは、代表的な方法として、「本人確認書類を担当者に見せる」という方法で本人確認を行うことができました。

例えば、運転免許証を提示し、担当者が、

「顔写真と本人の顔が一致している」
「氏名・住所・生年月日も確認できた」

と判断すれば、本人確認を行うことができました。

2027年4月以降

改正後は、ICチップが搭載された顔写真付き本人確認書類を使って対面で本人確認をする場合、

①本人確認書類そのものを提示する
②カードに搭載されたICチップを読み取る

という確認が基本になります。

つまり、

「免許証を見せたから本人確認終了」

ではなく、

「免許証を見せてもらい、さらにICチップ情報も確認する」

という形へ変わるわけです。

注意点1 マイナンバーカードだけが必要になるわけではない

「2027年4月からICチップの読み取りが必要」と聞くと、

「これからはマイナンバーカードがないと本人確認できないのでは?」

と思う方もいるでしょう。

しかし、そういう意味ではありません。

本人確認に利用できるICチップ付きの本人確認書類としては、マイナンバーカードだけでなく、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券などもあります。
警察庁の資料でも、対象となる写真付き本人確認書類についてICチップを利用した確認へ移行することが示されています。

したがって、「2027年4月からマイナンバーカードがなければ銀行口座を開設できない」というような理解は正確ではありません。

ただし、実際にどの本人確認書類に対応するかは、それぞれの金融機関や事業者の運用によって異なる可能性があります。

法律上使用可能な書類だからといって、すべての事業者がすべての本人確認書類のICチップ読み取りに対応するとは限りません。

実際に手続をする場合には、事前に利用できる本人確認書類を確認しておくと安心です。

注意点2 本人確認書類を「見せるだけ」で済むケースが減る

今回の改正で一般の方への影響が大きいのが、この点です。

これまでは、顔写真付き本人確認書類を提示するだけで完了できる本人確認がありました。

また、顔写真のない本人確認書類などについても、複数の書類を組み合わせたり、本人確認書類を提示したうえで別の書類を郵送したりする方法など、さまざまな確認方法が認められていました。

2027年4月以降は、こうした方法の一部が廃止されます。

難しい法令上の呼び方を使わず簡単に説明すると、

「本人確認書類を2種類見せればよい」という方法の一部がなくなる

ほか、

「本人確認書類を窓口で見せ、後からその書類の原本やコピーを送ればよい」という方法の一部もなくなる

という見直しです。

その代わりに、ICチップ付きの本人確認書類については、ICチップを読み取ることで本人確認書類そのものが真正なものであることを確認する方法が中心になっていきます。

これは、「本人確認書類を何枚見たか」よりも、「その本人確認書類が本物であることをより確実に確認する」という方向へ制度が変わると考えるとわかりやすいでしょう。

注意点3 ICチップのない本人確認書類がすべて使えなくなるわけではない

では、「ICチップのない本人確認書類は2027年4月から全部使えなくなるのか」というと、これも違います。

ICチップを搭載していない本人確認書類についても、一定の方法によって本人確認に利用できる場合があります。

ただし、本人確認書類を見せるだけでは完了せず、例えば、本人確認書類に記載された住所へ転送不要郵便で書類を送るなど、追加の確認が必要になる場合があります。

つまり、制度全体としては、ICチップ付きの顔写真付き本人確認書類を利用できる人はICチップで確認し、それ以外の場合には別の方法を組み合わせて本人であることを確認する

という方向に変わると考えると理解しやすいでしょう。

注意点4 マイナンバーカードはスマートフォンでICチップを確認できる

ICチップの読み取りというと、「専用の大型機械が必要なのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、マイナンバーカードについては、NFC機能を搭載した対応スマートフォンを利用してICチップの情報を読み取ることができます。

デジタル庁は、事業者や自治体向けに「マイナンバーカード対面確認アプリ」を提供しています。

このアプリを利用すると、マイナンバーカードのICチップに記録された情報を読み取り、

・顔写真
・氏名
・住所
・生年月日
・性別
・有効期限

などを画面上で確認できます。

つまり、事業者側に対応スマートフォンなどがあれば、マイナンバーカードをかざしてICチップを読み取ることが可能です。

デジタル庁は、券面確認だけでは見抜きにくい偽造カードへの対策として、このようなICチップを利用した本人確認を推進しています。

なお、ここで読み取ることと、「12桁のマイナンバー(個人番号)を相手に知らせること」は別の話です。

ICチップを利用した本人確認だからといって、本人確認のために12桁の個人番号を事業者へ伝えるという意味ではありません。

注意点5 運転免許証を本人確認に使う場合も注意が必要

運転免許証にもICチップが搭載されています。

これまでは身分証明書として運転免許証を提示するときに、ICチップの存在を意識することはほとんどありませんでした。

しかし、今後ICチップを利用する本人確認が増えると、運転免許証についてもICチップ情報の読み取りが重要になります。

利用する本人確認方法や機器によっては、免許証交付時に設定した暗証番号が必要です。

長年運転免許証を利用している方の中には、「免許更新のときに暗証番号を決めた覚えはあるが、番号を覚えていない」という方も少なくないでしょう。

本人確認を受ける予定がある場合には、事業者がどの本人確認書類に対応しているのか、事前に確認しておくことが大切です。

注意点6 司法書士への依頼すべてでICチップ読み取りが必要になるわけではない

司法書士事務所のコラムとして、特に誤解してほしくないのがこの点です。

司法書士は犯収法上の「特定事業者」に該当します。

しかし、司法書士への相談や依頼のすべてについて、犯収法上のICチップ本人確認が義務付けられるわけではありません。

警察庁は、司法書士について犯収法上の対象となる業務として、主に、

・宅地や建物の売買に関する手続
・会社等の設立や合併などに関する一定の手続
・一定の現金、預金、有価証券その他の財産の管理・処分

などを挙げています。

例えば、不動産売買に伴う所有権移転登記などでは、犯収法上の本人確認が問題となる場合があります。

一方で、単に司法書士へ法律相談をしただけであれば、それだけを理由として犯収法上の取引時確認が必要になるものではありません。

また、「相続登記だからすべて対象外」「遺言だから絶対に関係ない」と業務名だけで一律に判断できるものでもありません。
具体的な依頼内容の中に財産の管理・処分などが含まれる場合には、個別に犯収法上の対象になるかを検討する必要があります。

さらに重要なのは、犯収法上の本人確認と、司法書士が職責として行う本人確認・意思確認は、必ずしも同じものではないということです。

司法書士は、本人になりすました登記や本人の意思に基づかない登記などを防止するため、従来から依頼者の本人確認や意思確認を行っています。

日本司法書士会連合会も、司法書士は不実の登記を未然に防止するため本人確認・意思確認を徹底するとともに、犯収法上の特定事業者として必要な義務を履行してきたとしています。

したがって、「犯収法の対象でない=司法書士が本人確認をしなくてもよい」という意味でもありません。

なぜ司法書士業務でも本人確認が重要なのか

不動産登記は大きな財産に関係する手続です。

例えば、第三者が所有者になりすまして不動産を売却し、所有権移転登記まで行われてしまえば、非常に深刻な被害につながります。

会社設立などについても同様です。

他人名義を無断で利用した会社が設立され、犯罪に利用されるようなことがあってはなりません。

司法書士にとって本人確認は、単に法律上要求されているから行う形式的な作業ではありません。

「目の前の人が本当に本人なのか」
「本人が本当にこの手続を希望しているのか」

を確認し、適正な登記や法律手続を実現するための重要な手続です。

今回のICチップ読み取りの強化も、こうした「なりすまし」を防止する流れの一つと考えることができます。

2027年4月から急にすべての本人確認が変わるわけではない

今回の改正を聞くと、「2027年4月1日になったら、全国ですべて同じ方法に変わる」と思うかもしれません。

しかし、実際の本人確認方法は、取引内容や本人確認書類の種類、対面かオンラインか、各事業者が採用する本人確認方法などによって異なります。

金融機関、携帯電話会社、不動産会社、司法書士事務所など、それぞれの事業者が改正内容に合わせて本人確認の運用を整えていくことになります。

そのため、実際に手続をするときには、「何を持って行けばよいですか?」と事前に確認するのが最も確実です。

特に2027年4月前後は、事業者によって対応方法が異なる可能性があります。

本人確認は「面倒になる」のではなく「なりすましを防ぐ」ための改正

ICチップの読み取りが必要になると、「今まで免許証を見せるだけだったのに面倒になる」と感じる方もいるかもしれません。

確かに、手続の場面では確認作業が一つ増えることになります。

しかし、本人確認を受ける本人にとっても、偽造された本人確認書類を使って第三者が自分になりすますことを防ぐことには大きな意味があります。

預金口座、不動産、会社、携帯電話などは犯罪に悪用されるケースがあります。

特に本人確認書類の偽造技術が高度化している現在では、「カードの表面を見るだけ」という本人確認では十分に対応できないケースがあります。

そこで、目で本人確認書類を見るだけでなく、カード内部のICチップ情報を確認することで本人確認の信頼性を高めようとしているのが今回の改正です。

まとめ|2027年4月から「本人確認書類を見る」だけの本人確認が変わる

2027年4月1日から、犯収法施行規則の改正によって本人確認方法が大きく見直されます。

特に重要なのは、マイナンバーカードや運転免許証などICチップ付きの顔写真付き本人確認書類を利用して対面で本人確認を行う場合、原則として、本人確認書類を提示するだけでなく、ICチップ情報を読み取って確認する仕組みに変わることです。

また、これまで利用されてきた、「本人確認書類を2種類見せて確認する」方法の一部や、「本人確認書類を窓口で見せ、後から原本やコピーを送る」方法の一部も廃止されます。

オンラインでも、本人確認書類の写真と本人の自撮り画像だけに依存する本人確認方法の一部が廃止され、ICチップやマイナンバーカードの電子的な本人確認機能を利用する方向へ移行します。

ただし、

「マイナンバーカードしか使えなくなる」

「ICチップがない書類は全部使えなくなる」

「司法書士への依頼はすべてICチップ確認が必要になる」

ということではありません。

本人確認書類の種類や取引の内容に応じて、複数の確認方法が用意されています。

司法書士業務についても、犯収法上の取引時確認が必要となる業務には一定の範囲があります。

一方で、犯収法の対象かどうかとは別に、司法書士には適正な登記や法律手続を行うため、本人確認や意思確認を行う重要な責任があります。

2027年4月以降、銀行、不動産取引、会社設立などさまざまな場面で、「本人確認書類を見せてください」だけではなく、「ICチップを読み取らせてください」と案内される機会が増えていくでしょう。

これは単に手続を厳しくするためではありません。

本人確認書類の偽造や第三者によるなりすましを防ぎ、私たちの預金、不動産、会社など大切な財産や権利を守るための本人確認方法の見直しなのです。

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参考リンク

警察庁:JAFIC 犯罪収益移転防止法施行規則の改正による本人確認方法の見直しについて

警察庁:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)

警察庁:犯罪収益移転防止法・施行令・施行規則など

警察庁:士業者との取引に関する改正犯罪収益移転防止法等の施行について

デジタル庁:「マイナンバーカード対面確認アプリ」をリリースしました

デジタル庁:スマートフォンでのICチップ等の読み取りについて

日本司法書士会連合会:改正された犯罪による収益の移転防止に関する法律の施行にあたって