「自分には離婚する意思がないのに、相手が署名済みの離婚届を持っている」
「自分の知らないところで養子縁組届を提出されるのではないか」
「相続手続のために戸籍を確認したところ、家族が知らなかった養子が記載されていた」このような戸籍の届出をめぐる問題で知っておきたい制度が「不受理申出」です。
不受理申出とは、本人の意思に基づかない婚姻届、協議離婚届、養子縁組届などについて、本人が窓口に出頭して届け出たことを確認できない限り、市区町村役場に受理しないようあらかじめ申し出ておく制度です。
法務省も、不受理申出制度について、本人の意思に基づかない戸籍の届出が受理されることを防止するための制度と説明しています。
対象となるのは、協議離婚、養子縁組、協議養子離縁、任意認知などです。
特に養子縁組は、成立すると法律上の親子関係が生じ、将来の相続にも大きく影響します。
そのため、「養子縁組届を勝手に提出される可能性がある」という場面では、離婚届と同様、不受理申出を知っておくことが重要です。
不受理申出とは
婚姻、協議離婚、養子縁組などは、一定の要件を満たした届出が受理されることによって法律上の身分関係に大きな変化を生じさせます。
たとえば協議離婚届が受理されれば法律上の婚姻関係が解消され、養子縁組届が受理されれば養親と養子との間に法律上の親子関係が生じます。
そのため、本人の意思に反して届出が提出されると、戸籍上の身分関係に重大な影響が生じます。
戸籍法第27条の2では、一定の届出について、本人が市区町村役場に出頭して届け出たことを確認できない場合には受理しないよう、あらかじめ申し出ることができる制度が設けられています。
不受理申出をしている人について、その本人が窓口に出頭したことを確認できない状態で対象となる届出が提出された場合、市区町村長はその届出を受理することができません。
「届出自体を永久に禁止する制度」ではなく、「本人の意思を確認できない届出が受理されることを防ぐ制度」と考えると分かりやすいでしょう。
不受理申出の対象となる5つの届出
不受理申出ができるのは、次の5種類の届出です。
| 届出 | 不受理申出ができる人 |
|---|---|
| 婚姻届 | 夫になる人・妻になる人 |
| 協議離婚届 | 夫・妻 |
| 養子縁組届 | 養親になる人・養子になる人 |
| 協議養子離縁届 | 養親・養子 |
| 任意認知届 | 認知する父 |
養子となる人が15歳未満の場合、養子縁組届については法定代理人が不受理申出をすることができます。協議養子離縁の場合には、15歳未満の養子について離縁後の法定代理人となる人が申出人となります。
以下では、実務上相談が生じやすい「協議離婚」と「養子縁組」を中心に詳しく見ていきます。
注意点1 署名した離婚届でも、提出前なら不受理申出を検討できる
夫婦で離婚について話し合い、一度は離婚届に署名したものの、その後に事情が変わることがあります。
たとえば、財産分与、子どもの養育、住居などについて話合いがまとまらず、「今は離婚したくない」と考え直す場合です。
この場合、「一度自分で署名した以上、提出を止められない」というわけではありません。
協議離婚には届出時の離婚意思が必要です。
以前は離婚する意思があったとしても、届出前にその意思を撤回したのであれば、不受理申出を検討することができます。
特に、署名済みの離婚届を相手方が持っており、返却してもらえない場合には注意が必要です。
不受理申出をしておけば、申出人本人が窓口へ出頭したことを確認できない状態で、その協議離婚届が提出されても受理されません。
不受理申出は、「離婚届を書いてしまった後では遅い」という制度ではありません。
大切なのは、市区町村役場に届出が提出されて受理される前に対応することです。
注意点2 養子縁組届についても不受理申出ができる
不受理申出は離婚届だけの制度ではありません。
養子縁組届についても、養親になる人、養子になる人から不受理申出をすることができます。
15歳未満の人が養子となる場合には、その法定代理人から申出をすることができます。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
高齢の親が、ある親族から「養子縁組をしよう」と勧められ、一度は養子縁組届に署名したものの、その後考え直した場合。
養子になる予定だった人が、縁組するつもりで書類を作成したものの、その後関係が悪化し、縁組をやめたいと考えた場合。
署名済みの養子縁組届が相手方の手元にあり、勝手に提出されることを心配している場合。
こうした状況では、養子縁組届について不受理申出をしておくことが考えられます。
養子縁組について民法は、縁組の届出など一定の要件を定めており、15歳未満の人を養子とする場合には法定代理人が本人に代わって縁組の承諾をする制度も設けています。
また、未成年者を養子とする場合には、自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合などを除き、家庭裁判所の許可が必要です。
不受理申出は、このような養子縁組制度の中で、本人の意思に反する届出が受理されることを防ぐための重要な仕組みです。
注意点3 養子縁組は相続にも大きく影響する
司法書士実務との関係で特に注意したいのが、養子縁組と相続の関係です。
普通養子縁組が成立すると、養親と養子との間に法律上の親子関係が生じます。
民法上、被相続人の子は相続人となりますので、養子も養親の相続では「子」として相続人になることがあります。
その結果、養子縁組の有無によって、相続人そのものが変わったり、他の相続人の法定相続分が変わったりする可能性があります。
たとえば、父Aに実子BとCがいるとします。
養子縁組がなければ、配偶者がいないケースではBとCが相続人となり、それぞれの法定相続分は2分の1です。
ところが、AがDと普通養子縁組をしていれば、DもAの子として相続人となるため、B・C・Dの3人が相続人となり、それぞれの法定相続分は3分の1となります。
つまり、養子縁組は単なる戸籍上の形式変更ではありません。
相続人の範囲や相続分に直接影響し得る重要な身分行為です。
相続登記のために被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集したところ、「家族が知らなかった養子が記載されていた」という事案があります。
もちろん、相続人にとって不都合だからという理由だけで、有効に成立した養子縁組を否定することはできません。
一方で、本人に養子縁組をする意思がなかったにもかかわらず届出がされていたという事情がある場合には、別途、養子縁組の有効性そのものを検討する必要があります。
このような問題を未然に防ぐという意味でも、本人の意思に反した養子縁組届が提出される具体的なおそれがある場合には、不受理申出を知っておく意義があります。
注意点4 15歳未満の養子については法定代理人が申出をする
養子縁組の不受理申出では、「15歳」という年齢が重要になります。
養子となる人が15歳未満である場合、民法では法定代理人が本人に代わって養子縁組の承諾をすることができます。
これに対応して、15歳未満の人を養子とする養子縁組届についての不受理申出も、その法定代理人が行うことができます。
ただし、法定代理人がした不受理申出が、その子についてそのままずっと続くわけではありません。
京都市は、15歳未満の人を養子とする養子縁組届について法定代理人が不受理申出をしている場合、本人が15歳に達したときに不受理申出を継続するのであれば、本人から改めて不受理申出をする必要があると案内しています。協議養子離縁についても同様の取扱いです。
たとえば、14歳の子について親権者が養子縁組届の不受理申出をしたとしても、その子が15歳になった後も不受理の状態を続けたいのであれば、15歳になった本人が改めて手続をする必要があります。
養子縁組の不受理申出では、この点を忘れないよう注意が必要です。
注意点5 不受理申出には一律の有効期限がない
以前は6カ月毎に届出を更新しなければなりませんでした。現在は、申出人が取り下げない限り効力が続きます。
京都市も、不受理期間について、申出をしたときから「不受理申出取下書」の提出があるまでとしています。
したがって、協議離婚届について不受理申出をした後、一定期間が経過しただけで自動的に失効するものではありません。
養子縁組届についても同様です。
ただし、先ほど説明した15歳未満の養子について法定代理人がした申出については、本人が15歳に達した場合の取扱いに注意してください。
注意点6 申出は本人が窓口でする
不受理申出は、本人の身分関係について極めて重要な手続です。そのため、本人確認が重視されています。
申出先は、申出人の本籍地の市区町村役場です。また、本籍地以外でも、申出人の住所地や現在いる場所の市区町村役場で受け付けてもらうことができます。
必要となるものは、不受理申出書と本人確認書類です。
運転免許証やマイナンバーカードなど、本人確認ができる書類を用意します。
2021年9月1日以降、不受理申出書への押印義務は廃止されています。署名によって申出ができ、希望する場合には任意に押印することもできます。
京都市で手続をする場合には、区役所・支所の市民総合窓口室戸籍住民担当や出張所などが窓口となります。京都市役所本庁では受け付けていません。
また、不受理申出の手数料はかかりません。
本人以外の家族が代わりに申出をすることはできません。
ただし、病気などのやむを得ない事情によって本人が役所へ出向けない場合については、公正証書や公証人の認証を受けた私署証書を利用する方法があります。
このため、本人の来庁が難しい事情があるときには、事前に本籍地の市区町村へ相談するとよいでしょう。
注意点7 すでに離婚届や養子縁組届が受理されていた場合は別の手続になる
不受理申出について最も注意したいのが、「これから提出される届出を防ぐ制度」であるという点です。
すでに協議離婚届や養子縁組届が受理された後に不受理申出をしても、その届出をさかのぼって取り消すことはできません。
たとえば、本人に離婚意思がないのに協議離婚届が提出され、すでに戸籍に離婚の記載がされている場合には、不受理申出だけでは解決できません。
家庭裁判所における協議離婚無効確認調停などを検討することになります。
裁判所も協議離婚無効確認調停の手続を案内しています。
養子縁組についても同じです。
「知らないうちに自分が誰かの養子になっていた」
「本人が養子縁組をした覚えがない」
「養親本人には縁組する意思がなかったのではないか」
といった問題が、すでに養子縁組届の受理後に判明した場合、不受理申出で戸籍を元に戻すことはできません。
裁判所の養子縁組に関する案内でも、「自分の知らないところで、養子縁組が成立していたので、無効にしたい」という場合には、「養子縁組無効確認調停」という手続が示されています。
民法第802条も、当事者間に縁組をする意思がない場合などについて、養子縁組が無効となる場合を定めています。
したがって、
「まだ届出が提出されていない」
「提出される可能性がある」
という段階なのか、
「すでに戸籍上、養子縁組が成立している」
という段階なのかによって、とるべき対応は全く異なります。
特に相続手続の途中で養子縁組の問題が判明した場合には、養子縁組が有効なのかという問題が相続人の確定そのものに関係する可能性があります。
不受理申出と通常の本人確認制度は違う
「役所では本人確認をするのだから、不受理申出までは必要ないのではないか」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、通常の戸籍届出における本人確認制度と、不受理申出制度は同じものではありません。
不受理申出がされていない通常の届出では、窓口に来ていない届出人について本人確認ができなかったというだけで、必ず届出が不受理になるわけではありません。
これに対して、不受理申出がされている場合には、申出をした本人が窓口へ出頭したことを確認できなければ、その対象となる届出を受理することができません。
たとえば、夫が協議離婚届について不受理申出をしている場合、妻だけが署名済みの離婚届を持参しても、夫本人が窓口へ出頭したことを確認できなければ受理されません。
養子縁組でも同じ考え方です。
養親になる予定の人が養子縁組届について不受理申出をしているにもかかわらず、養子になる予定の人などが養親の署名等がされた届書を持参しても、不受理申出をした養親本人の出頭を確認できなければ受理されません。
本人の意思に反する届出について具体的な心配があるときには、通常の本人確認制度だけでなく、不受理申出という制度があることを知っておくことが重要です。
不受理申出を取り下げる場合
不受理申出をした後、事情が変わることもあります。
たとえば、離婚届の不受理申出をしたものの、その後夫婦双方が離婚について合意した場合や、養子縁組について不受理申出をしたものの、その後改めて話合いを行い、本当に養子縁組をすることになった場合です。
不受理申出そのものを終了させる場合には、「不受理申出取下書」を提出します。
京都市では、不受理申出をした本人が取下書を提出することで、不受理期間が終了すると案内しています。
なお、不受理申出がされているからといって、申出人本人がその後自分の意思で身分行為を行うことまで禁止するものではありません。
ただし、かならず本人が窓口へ出向く必要があります。
相続手続で身に覚えのない養子が判明したら
司法書士が相続登記のために戸籍を収集すると、依頼者が把握していなかった身分関係が判明することがあります。
もし被相続人の戸籍に家族が知らない養子が記載されていたとしても、その養子を無視して遺産分割協議を進めることはできません。
まず、その養子縁組が存在することを前提として相続関係を確認する必要があります。
そのうえで、「被相続人本人は本当に養子縁組をしていたのか」「本人の意思に基づいた養子縁組だったのか」という具体的な問題があるのであれば、養子縁組の有効性について別途検討が必要になります。
まとめ
不受理申出とは、本人の意思に基づかない戸籍届が受理されることを防止する制度です。
対象となるのは、婚姻届、協議離婚届、養子縁組届、協議養子離縁届、任意認知届の5種類です。
特に実務で問題になりやすいのが、協議離婚届と養子縁組届です。
一度離婚届に署名したとしても、届出前に離婚意思を撤回したのであれば、不受理申出を検討することができます。
養子縁組についても同様に、養親になる人または養子になる人が、本人の意思に反して養子縁組届を提出されるおそれがある場合には、不受理申出を利用できます。
養子縁組は法律上の親子関係を生じさせ、将来の相続人や相続分にも影響する重要な身分行為です。特に、高齢者について署名済みの養子縁組届が作成されている場合など、不安があるのであれば早めに状況を確認することが大切です。
また、15歳未満の養子については法定代理人が不受理申出をすることができますが、本人が15歳になった後も不受理を継続したい場合には、本人から改めて申出が必要となる点にも注意してください。
そして最も重要なのは、不受理申出は「これから提出される届出」を防ぐ制度であり、すでに受理された離婚届や養子縁組届を取り消す制度ではないということです。
すでに届出が受理されている場合には、協議離婚無効確認調停や養子縁組無効確認調停など、別の手続を検討することになります。
離婚届や養子縁組届が「まだ提出されていないのか」「すでに受理されているのか」を確認し、その時点に応じた対応を取ることが重要です。
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参考リンク
法務省:戸籍の窓口での「本人確認」が法律上のルールになりました
裁判所:養子縁組のこと(普通・養子・特別養子 日本国籍の場合)


