相続の相談を受けていると、
「相続人は配偶者と子だから、配偶者が2分の1、子が2分の1ですね」
と、現在の民法を前提に考えているケースがあります。

しかし、これは必ずしも正しいとは限りません。

相続に関する民法は何度も改正されており、相続が開始した時期によって、法定相続分、代襲相続の範囲、相続放棄の効果、遺留分などのルールが異なることがあります。

特に、何十年も前に亡くなった方の名義のまま不動産が残っているケースでは注意が必要です。令和になってから相続登記をする場合でも、昭和40年に亡くなった方の相続について現在の民法をそのまま当てはめてよいとは限りません。

相続は被相続人の死亡によって開始します。
したがって、「いつ遺産分割協議をするか」「いつ相続登記を申請するか」ではなく、まず被相続人がいつ亡くなったのかを確認することが重要です。
法務省も、相続は被相続人の死亡によって開始することを前提として、改正法の適用関係を説明しています。

この記事では、相続実務で特に確認しておきたい民法改正の時期について、古い年代から順番に解説します。

1.なぜ「死亡した日」が重要なのか

相続手続きを始める際には、最初に被相続人の戸籍を確認します。

戸籍は相続人を調査するためだけの資料ではありません。
被相続人の死亡年月日を確認し、「その相続についてどの時代の相続法が適用されるのか」を判断する重要な資料でもあります。

たとえば、配偶者と子が相続人となるケースを考えてみます。

現在の民法では、配偶者の法定相続分は2分の1、子全体の法定相続分も2分の1です。

ところが、昭和55年12月31日までに開始した相続では、配偶者は3分の1、子全体が3分の2でした。

・昭和56年1月1日以降に死亡した場合
配偶者2分の1、子全体2分の1

・昭和22年5月3日から昭和55年12月31日までに死亡した場合
配偶者3分の1、子全体3分の2

つまり、現在相続登記をするからといって、現在の法定相続分になるわけではありません。

2.まず押さえておきたい相続法の8つの時期

古い相続を検討するときには、次の時期が大きな目安になります。

相続開始時期・改正時期 主なポイント
昭和22年5月2日以前 家督相続など旧民法の制度
昭和22年5月3日 応急措置法により家督相続制度を適用しないことに
昭和23年1月1日 戦後の新しい親族・相続法が施行
昭和37年7月1日 代襲相続・相続放棄などを改正
昭和56年1月1日 配偶者の法定相続分引上げ・寄与分新設・兄弟姉妹の再代襲制限
平成25年9月5日 嫡出子・嫡出でない子の法定相続分を同等にする改正法の適用基準日
令和元年7月1日 遺留分侵害額請求・特別寄与料など相続法改正の主要部分施行
令和2年4月1日以降 配偶者居住権施行。さらに令和5年4月1日に長期間経過後の遺産分割ルール改正

それぞれ詳しく見ていきましょう。

3.昭和22年5月2日以前の相続―「家督相続」が問題になる

昭和22年5月2日以前に開始した相続については、現在とは大きく異なる旧民法の制度を確認しなければなりません。

当時は「家」という制度が法律上存在し、「戸主」という地位がありました。
戸主の地位と家の財産を承継する「家督相続」と、戸主以外の者について行われる「遺産相続」が区別されていました。

そのため、古い戸籍で昭和22年以前の死亡を確認した場合、「配偶者と子がいるから現在の法定相続分で分ける」という処理はできません。

まず、

・死亡した人が戸主だったのか
・家督相続が発生しているのか
・誰が家督相続人になったのか
・戸籍上どのような身分関係になっていたのか

などを確認する必要があります。

古い土地について、登記簿上の所有者が曽祖父や高祖父のままになっているようなケースでは、この時代まで遡って相続関係を調査することがあります。

4.昭和22年5月3日から12月31日―「応急措置法」の時代

日本国憲法は昭和22年5月3日に施行されました。

これに伴い、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」が施行され、家督相続に関する規定は適用されないことになりました。

この法律では、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の順で相続人となり、配偶者は常に相続人となる仕組みが採用されました。

配偶者の相続分は、

・直系卑属と相続する場合 3分の1
・直系尊属と相続する場合 2分の1
・兄弟姉妹と相続する場合 3分の2

とされました。

この応急措置法は、昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までという短期間に適用された法律です。

わずか8か月程度の期間ですが、この間に相続が開始している案件では無視できない制度です。

5.昭和23年1月1日から昭和37年6月30日―戦後民法のスタート

昭和23年1月1日から、現在の相続制度につながる戦後の民法が施行されました。

昭和22年法律第222号による民法改正によって、家制度を前提とした相続から、個人を中心とした現在につながる相続制度へ大きく転換しています。

ただし、この当時の法定相続分は現在とは異なります。

配偶者と子が相続人の場合は、

配偶者 3分の1
子全体 3分の2

です。

配偶者と直系尊属の場合は、

配偶者  2分の1
直系尊属 2分の1

配偶者と兄弟姉妹の場合は、

配偶者  3分の2
兄弟姉妹 3分の1

でした。

さらに、この時期の相続では代襲相続や相続放棄について現在とは異なる規定が存在していました。

たとえば、昭和37年6月30日以前に開始した相続では、共同相続人の一人が相続放棄をした場合、その者の相続分が他の相続人の相続分に応じて帰属するという規定がありました。

現在の「相続放棄をした者は、その相続について初めから相続人ではなかったものとみなす」という考え方とは条文上の仕組みが異なるため、古い相続放棄が関係する案件では注意が必要です。

6.昭和37年7月1日―相続放棄のルールが変更

昭和37年には「民法の一部を改正する法律」(昭和37年法律第40号)が成立し、同年7月1日に施行されました。

相続放棄の効果について、放棄した人はその相続について初めから相続人ではなかったものとみなされる仕組みになりました。

そのため、古い相続案件では、「誰が先に亡くなっているか」だけでなく、「相続開始日は昭和37年7月1日の前か後か」まで確認する必要が生じることがあります。

7.昭和56年1月1日―現在の法定相続分へ大きく変更

実務上、特に重要なのが昭和55年の民法改正です。

昭和55年法律第51号による改正が行われ、昭和56年1月1日以降に開始した相続について、現在と同じ配偶者の法定相続分となりました。

配偶者の相続分は次のように引き上げられました。

配偶者と子

改正前
配偶者3分の1・子3分の2

改正後
配偶者2分の1・子2分の1

配偶者と直系尊属

改正前
配偶者2分の1・直系尊属2分の1

改正後
配偶者3分の2・直系尊属3分の1

配偶者と兄弟姉妹

改正前
配偶者3分の2・兄弟姉妹3分の1

改正後
配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1

さらに、この改正では「寄与分制度」が新設されました。

そしてもう一つ、古い相続実務で重要なのが兄弟姉妹の代襲相続です。

現在、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合、その子である甥・姪は代襲相続できます。
しかし、甥・姪も先に死亡している場合、その子までさらに代襲することはありません。

一方、昭和55年12月31日までに開始した相続では、兄弟姉妹について再代襲が認められる場合があります。

つまり、現在なら相続人にならない「兄弟姉妹の孫」にあたる人が、古い相続では相続人になることがあるのです。

長期間放置された不動産で相続人が数十人に増えているケースでは、この違いが相続人調査に大きく影響することがあります。
司法書士実務の解説でも、昭和55年以前の相続について兄弟姉妹の再代襲が問題になることが指摘されています。

8.平成25年9月5日―嫡出子と嫡出でない子の相続分が同等に

以前の民法では、嫡出でない子の法定相続分は嫡出子の2分の1とされていました。

しかし、最高裁判所は平成25年9月4日の大法廷決定で、この規定について憲法14条1項に違反すると判断しました。

その後、民法が改正され、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分は同等となりました。

改正法は平成25年9月5日以後に開始した相続に適用されます。

ここでさらに注意したいのが、平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続です。

最高裁判所の違憲判断との関係から、この期間に開始した相続について、まだ遺産分割などによって法律関係が確定していない場合には、嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等として扱うことがあります。

一方、すでに遺産分割協議や裁判などにより確定している法律関係まで当然にやり直すわけではありません。

この期間の相続については、単純に「死亡年月日だけ」で結論を出すのではなく、遺産分割がいつ、どのように成立しているかまで確認することが必要です。

9.令和元年7月1日―約40年ぶりの大規模な相続法改正

平成30年には、相続法について大規模な改正が行われました。

その主要部分が令和元年7月1日に施行されています。法務省も、昭和55年以来、実質的に大きな見直しが行われてこなかった相続法について、社会の高齢化などを背景として改正したことを公表しています。

代表的な改正には、

・遺留分減殺請求から「遺留分侵害額請求」への変更
・特別寄与料制度の創設
・遺産分割前の預貯金払戻し制度
・相続による権利承継と対抗要件に関する見直し

などがあります。

特に遺留分制度は大きく変わりました。

令和元年7月1日より前に開始した相続では、旧法の「遺留分減殺請求」が問題となります。

令和元年7月1日以後に開始した相続では、「遺留分侵害額請求」となり、遺留分を侵害された人が金銭の支払いを請求する制度へ変更されています。

弁護士・司法書士の実務解説でも、遺産分割を行う日ではなく相続開始日がどちらの制度を適用するかの重要な基準になることが指摘されています。

ただし、平成30年改正については、すべての制度が一律に相続開始日だけで決まるわけではありません。

たとえば、遺産分割前の預貯金払戻し制度については、施行日前に開始した相続であっても、施行日以後の払戻しに新制度が適用されます。

このような経過措置があるため、近年の改正については「死亡当時の法律だけを確認すれば終わり」と考えないことが重要です。

10.令和2年4月1日―配偶者居住権がスタート

令和2年4月1日から、配偶者居住権と配偶者短期居住権の制度が施行されました。

配偶者居住権は、一定の要件のもと、亡くなった人が所有していた建物に配偶者が引き続き居住できる権利です。

法務省は、これらの制度について令和2年4月1日以後に開始した相続に適用することを案内しています。

したがって、たとえば被相続人が令和2年3月31日に亡くなった場合と、令和2年4月1日に亡くなった場合とでは、配偶者居住権について適用される制度が異なります。

わずか1日の違いでも法律関係が変わることがあるため、改正日の前後に開始した相続では死亡年月日を正確に確認する必要があります。

11.令和5年4月1日―古い相続にも影響する「相続開始から10年」のルール

ここは特に注意が必要です。

令和5年4月1日から、長期間経過した遺産分割に関するルールが変わりました。

相続開始から10年が経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」ではなく、法定相続分または指定相続分によって遺産分割することになりました。

この改正には実際に例外があります。
10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割を請求している場合や、期間内に申立てができなかったことについて一定のやむを得ない事由がある場合などです。
また、相続人全員が合意する場合には、10年経過後であっても特別受益や寄与分を踏まえた内容で協議することは可能です。

そして重要なのは、この制度が令和5年4月1日以後に開始した相続だけを対象としているわけではないことです。

令和5年4月1日より前に開始している古い相続にも、新しいルールが適用されます。

ただし、古い相続に突然不利益が生じないよう経過措置が設けられており、相続開始時期によっては令和10年3月31日までの猶予があります。

この点は、「相続開始時の法律がずっと適用される」とだけ覚えていると判断を誤りやすい部分です。

12.具体例―昭和50年に父が死亡し、現在まで相続登記をしていない場合

たとえば、父が昭和50年に死亡し、不動産が現在も父名義のまま残っているとします。

相続人は母と子2人だったとします。

現在の法定相続分だけを見ると、

母    2分の1
子A 4分の1
子B 4分の1

と考えてしまうかもしれません。

しかし、昭和50年は昭和55年改正より前です。

そのため当時の法定相続分では、

母    3分の1
子A 3分の1
子B 3分の1

となります。

その後に母や子が死亡していれば、さらにその人について相続が発生します。

つまり、

父の相続には父が死亡した時点の相続法
母の相続には母が死亡した時点の相続法
子の相続には子が死亡した時点の相続法

というように、数次相続では相続ごとに適用される法律を確認しなければなりません。

一つの不動産について複数回の相続が発生している場合、途中で民法改正をまたいでいることもあります。

これが古い相続登記が難しくなる理由の一つです。

13.兄弟姉妹の相続では死亡年月日が特に重要

古い相続で特に慎重な確認が必要なのが、兄弟姉妹が相続人となるケースです。

現在であれば、

兄弟姉妹が先に死亡

その子である甥・姪が代襲相続

までは認められます。

しかし、

兄弟姉妹が死亡

甥・姪も死亡

甥・姪の子

という再代襲は現在の民法では認められていません。

ところが、昭和55年12月31日までに開始した相続では、兄弟姉妹について再代襲が問題となります。

そのため、「現在なら相続人ではないから」と戸籍調査を途中で止めてしまうと、相続人を漏らす危険があります。

古い兄弟相続では、死亡年月日を確認しながら戸籍をたどることが非常に重要です。

14.相続登記が今でも終わっていない場合はどうする?

「祖父が昭和40年に亡くなっていますが、今からでも相続登記できますか」という相談もあります。

相続開始から長期間経過していても、相続登記をすることはできます。

ただし、時間が経過しているほど、

・複数回の相続が発生している
・相続人が多数になっている
・兄弟姉妹の再代襲が問題になる
・旧法時代の法定相続分を確認する必要がある
・古い戸籍や除籍を調査する必要がある
・すでに死亡した相続人についてさらに戸籍調査が必要になる

といった問題が生じやすくなります。

また、令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、同日以前に発生していた相続についても一定の期間内に登記する必要があります。
法務省も、過去に発生した相続について相続登記義務化の対象となることを案内しています。

「昔の相続だからそのままでよい」ということにはなりません。

15.古い相続で確認すべき5つのポイント

古い相続については、少なくとも次の点を確認します。

① 被相続人の死亡年月日

適用される相続法を判断する出発点です。

② 当時の相続人

現在の家族関係だけではなく、相続開始時点に誰が生存していたかを確認します。

③ 代襲相続の有無

子や兄弟姉妹が先に死亡している場合、適用される時代の代襲相続制度を確認します。

④ 法定相続分

特に昭和55年12月31日以前の相続では、現在とは配偶者の相続分が異なります。

⑤ その後に発生した相続

相続人が後から死亡している場合、数次相続になります。各相続について死亡日と適用法を一つずつ確認する必要があります。

16.「今手続きするから今の民法」という考え方には注意

古い相続について最も避けたいのは、

「今、遺産分割協議をするのだから今の法律を使えばよい」

と考えてしまうことです。

昭和50年に発生した相続を令和8年に手続きしたとしても、昭和50年当時の法定相続分や相続人の範囲を確認しなければならない場面があります。

一方で、令和5年施行の長期間経過後の遺産分割ルールのように、施行前に発生した相続にも適用される制度があります。

したがって、正確には、

「相続開始日を確認する」

「その時点の法律を確認する」

「その後の改正法に経過措置がないか確認する」

という順序で判断することが大切です。

まとめ|古い相続では最初に「いつ亡くなったか」を確認する

相続に関する民法は長い間に何度も改正されています。

特に、

昭和22年5月3日
昭和23年1月1日
昭和37年7月1日
昭和56年1月1日
平成25年9月5日
令和元年7月1日
令和2年4月1日
令和5年4月1日

は、古い相続を検討する際に確認しておきたい重要な時期です。

相続開始の時期によっては、現在とは法定相続分が違ったり、兄弟姉妹について現在では認められない再代襲が発生したり、遺留分について異なる制度が適用されたりすることがあります。

さらに数次相続では、一つの不動産について複数の時代の民法を確認しなければならないケースもあります。

「何十年も前に亡くなった祖父の土地がそのままになっている」
「古い戸籍を取ったが誰が相続人なのかわからない」
「兄弟姉妹や甥・姪が多数いて相続関係が複雑になっている」
という場合は、現在の民法だけで判断せず、相続開始時期と経過措置を確認したうえで手続きを進めることが重要です。

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参考リンク

法務省:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正) 法務省:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)

法務省:民法の一部が改正されました(嫡出でない子の相続分) 法務省:民法の一部が改正されました

法務省:残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます 法務省:残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます

法務省:不動産を相続した方へ~相続登記・遺産分割を進めましょう~ 法務省:不動産を相続した方へ~相続登記・遺産分割を進めましょう~

最高裁判所:平成25年9月4日大法廷決定(嫡出でない子の相続分) 最高裁判所:平成25年9月4日大法廷決定

国立国会図書館:日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律 国立国会図書館:日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律

国立国会図書館:民法の一部を改正する法律(昭和37年法律第40号) 国立国会図書館:民法の一部を改正する法律(昭和37年法律第40号)

国立国会図書館:民法及び家事審判法の一部を改正する法律(昭和55年法律第51号) 国立国会図書館:民法及び家事審判法の一部を改正する法律(昭和55年法律第51号)