はじめに

高齢化の進展に伴い、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が低下した方を支援する成年後見制度の重要性はますます高まっています。

しかし、現行制度には、

  • 一度利用すると原則として本人が亡くなるまで終了できない

  • 後見人への報酬負担が長期間続く

  • 本人の意思よりも財産保護が優先されやすい

  • 制度利用への心理的ハードルが高い

といった課題が指摘されていました。

こうした問題を受け、政府は成年後見制度の抜本的見直しを行い、「民法等の一部を改正する法律」及び「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立しました。

今回は、司法書士の視点から、改正後の成年後見制度の内容や実務への影響について分かりやすく解説します。


成年後見制度とは?

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を法的に支援する制度です。

本人に代わって、

  • 預貯金の管理

  • 不動産の管理

  • 介護施設入所契約

  • 福祉サービス契約

  • 遺産分割協議

などを行います。

現行制度では、

  • 後見

  • 保佐

  • 補助

の3類型に分かれています。

判断能力が低下するほど強い権限を持つ後見人等が選任される仕組みです。


なぜ改正されるのか?

成年後見制度は2000年にスタートしました。

しかし利用者数は想定ほど伸びず、制度利用をためらう人が多い状況が続いていました。背景には次のような問題があります。

1. 一度始めると終われない

現行制度では、本人の判断能力が回復しない限り、後見は継続します。

例えば、

  • 不動産売却のためだけに利用したい

  • 相続手続きだけ終えたい

というケースでも、その後何年も制度を利用することになります。

2. 報酬負担が継続する

専門職後見人が選任されると、毎月数万円程度の報酬が発生します。

利用目的が終了しても報酬が継続することに不満を感じる方は少なくありません。

3. 本人の意思尊重が不十分

現行制度は「保護重視」の色彩が強く、本人がやりたいこと、本人の希望よりも、財産保全が優先されていました。

4. 利用しにくい制度設計

「一生続く制度」というイメージから、

  • 家族信託

  • 任意後見

を選択する人も増えています。

こうした課題を解決するため、大規模な制度改革が進められています。


改正のポイント① 「終われる成年後見制度」へ

今回の改正で最も注目されているのが、必要な期間だけ利用できる制度への転換です。

現行制度では原則終身利用ですが、改正後は、

  • 相続手続きが終わった

  • 不動産売却が完了した

  • 財産管理上の課題が解消した

など一定の目的達成後に終了することが可能です。

利用者の負担は大きく軽減されることになります。


改正のポイント② 「後見・保佐・補助」の一本化

現行制度では、後見、保佐、補助の3類型があります。

しかし一般の方には違いが分かりにくく、申立て時の負担も大きいという問題がありました。

改正後は、補助を中心とする一元化された制度へ移行します。

これにより、判断能力に応じた柔軟な支援、必要な権限だけ付与、過剰な権限制限の回避が可能になります。


改正のポイント③後見人の交代が柔軟に

現行制度では後見人の解任は簡単ではありません。

しかし、相性が悪い、支援内容に不満がある、家族との連携が困難、といったケースも存在します。

改正後は本人利益の観点から後見人の変更が柔軟になります。


改正のポイント④必要な権限だけ付与

従来の制度では、「財産全体を包括的に管理」する場面が多くありました。

改正後は、不動産売却のみ、遺産分割のみなど、特定の目的に限定した支援が可能になります。


相続実務への影響

司法書士業務において成年後見制度は非常に重要です。

特に、

  • 認知症の相続人がいる

  • 不動産売却が必要

という場面で利用されます。

今回の改正により、遺産分割協議や不動産売却のために制度を活用し、手続き完了後に制度の利用をやめるということが可能です。

これまでは後見開始すると一生続くことがネックでした。

改正後は、途中で制度利用をやめることが可能です。


今後のスケジュール

成年後見制度の抜本的見直しを定めた改正民法は2026年6月17日に成立し、新たな成年後見制度の施行時期は「法律の公布から2年6か月以内(多くの解説で2028年度中の施行見込み)」とされています。


まとめ

今回の成年後見制度改正は、

  • 終身利用から必要期間利用へ

  • 後見・保佐・補助の一本化

  • 後見人交代の柔軟化

  • 必要な支援への限定化

という大きな転換点となります。

従来の「利用しにくい制度」から、「必要なときに必要な範囲で利用する制度」へ変わろうとしています。

特に相続や不動産管理の場面では大きな影響が予想されるため、今後の制度動向を注視する必要があります。

成年後見制度の利用を検討されている方は、早めに司法書士へ相談することをおすすめします。


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