親の介護は長男・長女がするもの
近くに住んでいる子が対応すればよい
家族なのだから
お金の話はしにくい
このような考えから、介護の役割や費用を曖昧にしたまま時間が経過していないでしょうか。
介護が続いている間は、家族全員が目の前の対応に追われます。
しかし、親が亡くなって相続が始まると、それまで表面化していなかった不満が一気に噴き出すことがあります。

介護を担った子は「仕事や生活を犠牲にして世話をしたのだから、多く相続して当然だ」と考え、ほかの相続人は「親の財産なのに、なぜ預金がこれほど減っているのか」「介護を理由に自由に使ったのではないか」と疑うことがあります。
どちらか一方が悪いとは限りません。介護の実情とお金の動きが家族に共有されていなかったことが、対立の大きな原因になります。

介護と相続の問題は、相続が始まってから解決しようとすると難しくなります。
大切なのは、親に判断能力があり、家族が落ち着いて話せる段階から準備することです。本記事では、介護と相続でもめやすい理由と、家族間トラブルを防ぐために今からできる具体策を解説します。

介護と相続が結び付くと家族でもめやすい理由

1.介護の負担は数字だけでは見えにくい

介護の負担は、実際に支払った金額だけでは測れません。通院の付き添い、買物、食事の準備、服薬確認、ケアマネジャーや施設との連絡、緊急時の対応など、小さな作業が日々積み重なります。

介護をしている本人には大きな負担でも、離れて暮らす兄弟姉妹には、その頻度や大変さが十分に伝わっていないことがあります。「たまに様子を見に行っていただけではないか」と受け止められると、介護を担った人の不満は強くなります。

一方、遠方の家族にも、仕事、子育て、健康、交通費などの事情があるかもしれません。介護への関わり方だけを見て「何もしてくれなかった」と決めつけると、相互不信が深まります。

2.親のお金を管理した人が疑われやすい

介護が必要になると、同居の子などが親の生活費や介護費用を立て替えたり、親の依頼を受けて預貯金の入出金に関わったりすることがあります。

ところが、領収書や出金記録が残っていないと、相続開始後に使途を説明できません。
介護用品、医療費、施設費、日用品などに正当に使ったお金であっても、他の相続人から使い込みを疑われる可能性があります。

「親から頼まれていた」「本人も納得していた」という口頭の説明だけでは、年月が経過した後に事実を確認することが困難です。
親の口座と子自身のお金を混在させないこと、現金出金を必要最小限にすること、領収書と簡単な収支表を残すことが重要です。

3.親の口約束と法律上の相続分が一致しない

親が介護をしてくれる子に対し、「自宅はあなたに渡す」「その分、ほかの子より多く残す」と話すことがあります。
しかし、口頭で希望を伝えただけでは、通常、遺言としての効力はありません。

親が亡くなった後、ほかの相続人がその話を知らない、あるいは聞いていても内容を認めない場合には、介護をした子の期待と法律上の相続手続との間に大きな隔たりが生じます。
親が特定の人に財産を多く承継させたいと考えるのであれば、遺言書などの適切な方法で意思を明確にしておく必要があります。

4.「介護をすれば相続分が増える」とは限らない

相続人が被相続人の療養看護などを行い、その結果、被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした場合には、「寄与分」が認められる可能性があります。

ただし、介護をした事実だけで、当然に相続分が増えるわけではありません。
親子や夫婦の間で通常期待される範囲を超えた「特別の寄与」であることや、その介護によって介護サービス費用の支出を免れたなど、財産の維持・増加との関係が問題になります。
寄与分の有無や金額について合意できなければ、家庭裁判所の調停・審判で争われることがあります。

「長期間介護したのだから、財産の半分を上乗せしてもらえるはず」といった自己判断は危険です。
介護の内容、期間、要介護度、専門的な介護サービスの利用状況、仕事への影響、親から受け取った金銭の有無など、個別の事情によって判断が異なります。

5.子の配偶者は相続人ではない

実際の介護を、長男の妻や長女の夫など「子の配偶者」が中心となって担う家庭もあります。
しかし、子の配偶者は、被相続人の養子になっているなどの事情がない限り、相続人ではありません。

相続人ではない親族が無償で療養看護などを行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合には、要件を満たせば、相続人に対して「特別寄与料」という金銭を請求できる可能性があります。
しかし、これも介護をすれば必ず認められる制度ではありません。

さらに、家庭裁判所への申立ては、特別寄与者が相続開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年のいずれか早い時期までという短い期間制限があります。
親が介護への感謝を財産の承継に反映したいのであれば、特別寄与料の制度だけに頼らず、生前に遺言書や適切な契約を検討することが大切です。

介護と相続でもめないために今からできる7つの対策

対策1.親の希望を中心に家族会議を開く

最初に確認すべきなのは、子ども同士の希望ではなく、介護を受ける親本人の意思です。

どこで暮らしたいのか
在宅介護と施設入所をどのように考えているのか
誰に財産管理を頼みたいのか
介護費用をどの財産から支出するのか
将来どのように財産を引き継がせたいのか 
このようなことを本人が話せるうちに確認します。

一度の話合いですべてを決める必要はありません。
健康状態や家族の生活環境は変化するため、半年または1年ごとなど、定期的に見直す場を設けることが有効です。

家族会議では、「誰が一番多く相続するか」から話し始めると対立しやすくなります。
ずは親の生活をどのように支えるかを話し、介護の役割、費用負担、財産管理、将来の相続へと順番に整理するとよいでしょう。

対策2.介護の役割を「できること」で分担する

兄弟姉妹が同じ量の介護を担うことは現実的でない場合があります。近くに住む人は通院付き添い、遠方の人は費用の一部負担や書類整理、インターネットでの手続、定期的な電話、介護者の休息確保など、それぞれができる形で役割を分けます。

担当者を決めるときは、「長女だから」「同居しているから」と当然視せず、本人の仕事、育児、健康状態も踏まえて合意することが大切です。
主たる介護者を一人に固定したままにせず、代わりに対応できる人や緊急連絡の順番も決めておきましょう。

地域包括支援センターは、高齢者の生活に関する総合相談、権利擁護、介護予防などを扱う公的な相談窓口です。
家族だけで抱え込まず、要介護認定、ケアマネジャー、介護サービス、介護休業制度などを早めに調べることが、負担の偏りを小さくすることにつながります。

対策3.介護費用のルールを決めて書面に残す

介護費用については、少なくとも次の点を決めておくと安心です。

  • 親自身の収入・預貯金から支払う費用

  • 子どもが立て替える場合の精算方法と精算時期

  • 一定額を超える支出について、誰に報告・相談するか

  • 現金を扱う場合の記録方法

  • 介護を担う家族に交通費や実費を支払うか

  • 親が介護の対価を支払う場合の金額、業務内容、支払方法

介護者への金銭の支払いは、単なる実費精算なのか、贈与なのか、介護等の対価なのかによって、法律上・税務上の評価が変わる可能性があります。

対策4.介護記録と財産管理記録を残す

記録は、将来の争いを防ぐだけでなく、介護サービスの見直しや医療機関への説明にも役立ちます。詳細な日記を毎日書く必要はありません。
継続できる簡単な形式で、次の資料を残しましょう。

  • 通院、入退院、要介護認定、施設入所などの日付

  • 介護の内容とおおよその時間

  • 介護サービスの利用状況

  • 医療費、介護費、日用品費、交通費の領収書

  • 親の預貯金から出金した日、金額、目的

  • 家族間で共有したメールやメッセージ

  • 親から受け取った金銭とその趣旨

月に一度、収支表や通帳の写しを家族で共有するだけでも、「知らないうちに財産が減っていた」という疑念を防ぎやすくなります。
ただし、親の財産情報は本人のものです。共有の範囲については、まず本人の意思とプライバシーに配慮しなければなりません。

また、本人に無断でキャッシュカードや暗証番号を使う方法は避け、金融機関の代理人制度や代理カードなど、利用できる正規の方法を金融機関に確認するのが良いです。

対策5.遺言書で親の意思を具体化する

介護を担った人に多く財産を残したい、自宅は同居している子に承継させたい、介護してくれた子の配偶者にも財産を渡したいという希望は、遺言書で具体化できます。

ただし、遺言書は単に「介護をしてくれた長女にすべてを相続させる」と書けばよいというわけではありません。
配偶者や子には遺留分があり、財産の大半が不動産であれば、遺留分請求をされた場合、遺留分侵害額を支払う現金が不足する可能性もあります。

遺言書を作る際は、財産全体を把握したうえで、受け取る人の生活、ほかの相続人の遺留分、納税資金、遺言執行者、代わりに財産を受け取る人を定める予備的な条項なども検討します。

なぜその分け方にしたのかを「付言事項」で説明する方法もあります。
付言事項それ自体に財産処分の法的効力はありませんが、親の感謝や考えを伝えることで、相続人の理解を得やすくなることがあります。

自筆証書遺言は手軽な一方、法律で定められた方式を満たさなければ無効になるおそれがあります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する方法や、公証人が関与する公正証書遺言も含め、家族状況に適した方式を選びましょう。

対策6.判断能力の低下に備えて財産管理の仕組みを整える

親の判断能力が低下すると、預貯金や不動産の管理、介護施設との契約などを本人だけで行うことが難しくなる場合があります。
家族だからといって、当然に本人の財産を自由に処分できるわけではありません。

判断能力が十分なうちであれば、財産管理等委任契約、任意後見契約、家族信託などを検討できます。

任意後見契約は、本人が判断能力のあるうちに、将来の任意後見人と委任する事務を公正証書で定めておく制度です。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
任意後見が始まる前の財産管理に備えるため、財産管理等委任契約を組み合わせることもあります。

家族信託は、一定の財産について管理・処分の仕組みを定める方法ですが、身上保護に関する契約をすべて代行できる制度ではありません。
また、家族信託を組めば相続トラブルが必ずなくなるわけでもありません。財産の種類、家族構成、本人の希望に応じ、遺言や任意後見との役割分担を考える必要があります。

対策7.相続財産の一覧を作り、定期的に更新する

介護が始まる前から、親の財産と負債の概要を一覧にしておくと、介護費用の計画と相続対策の両方に役立ちます。

預貯金、不動産、有価証券、生命保険、年金、借入金、保証債務、貸金庫、デジタル資産などを整理し、通帳、保険証券、不動産関係書類、遺言書等の保管場所も確認しておきます。暗証番号そのものを家族全員で共有するのではなく、必要なときに適法・安全に手続できる方法を整えることが重要です。

不動産を相続した人には、原則として、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。
介護中から不動産の所在や名義を把握しておけば、相続開始後の手続も進めやすくなります。

よくある家族間トラブルと予防策

ケース1.同居の長女が介護し、別居の兄弟が法定相続分を主張した

長女は長年の介護を理由に多くの財産を求めましたが、介護記録がなく、親から生活費も受け取っていたため、どの部分が無償の特別な貢献だったのかについて意見が対立しました。

このような事態を防ぐには、介護中から役割と費用を共有し、親が長女に多く財産を残したいのであれば、遺留分に配慮した遺言書を作成しておくことが考えられます。
介護の実績は、日付、内容、時間、要介護度、利用サービスなどを記録しておくことが重要です。

ケース2.長男の妻が介護したが、遺産を受け取れなかった

長男の妻が中心となって義父を介護しても、義父の相続人にはなりません。
特別寄与料を請求できる可能性はありますが、要件や期間制限があり、希望する金額が当然に認められるわけではありません。

義父本人が感謝を財産に反映したいのであれば、判断能力があるうちに遺言書を検討するほか、適正な介護の対価や実費精算について書面で合意する方法が考えられます。
ただし、ほかの相続人の遺留分や税務への配慮が必要です。

ケース3.親の口座を管理していた子に使途不明金の疑いが生じた

親のために使ったつもりでも、多額の現金引出しが続き、領収書がなければ説明は難しくなります。
介護者自身の家計と親の財産を分け、振込や口座振替を利用し、現金支出にはメモと領収書を残します。
定期的に収支を本人や家族へ報告する仕組みも有効です。

すでに本人の判断能力が低下している場合には、第三者である専門職を成年後見人とすることで、不要なトラブルを防止できることがあります。

家族会議で確認しておきたいチェックリスト

  • 親本人は、どこで、どのような介護を受けたいか

  • 主な連絡担当者と緊急時の連絡順は決まっているか

  • 通院、買物、施設対応などの担当が一人に偏っていないか

  • 介護費用をどの財産から支払うか

  • 立替金の精算方法を決めているか

  • 親の預貯金を管理する正規の方法を確認したか

  • 介護記録、領収書、収支表を保存しているか

  • 介護者への実費や対価の扱いを明確にしているか

  • 親の財産・負債の一覧があるか

  • 遺言書、任意後見契約などの必要性を検討したか

  • 遺言書や重要書類の保管場所を確認しているか

  • 半年または1年ごとに家族の状況を見直しているか

介護と相続の相談先を使い分ける

介護と相続の問題は、一つの専門職だけで解決できないことがあります。

介護サービスや要介護認定、家族介護者への支援は、地域包括支援センター、市区町村、ケアマネジャーなどに相談します。
遺言書、任意後見契約、財産管理、不動産の相続登記などは司法書士が支援できる分野です。
相続税や贈与税の具体的な計算・申告は税理士、すでに家族間で法的な紛争が生じている場合の交渉や訴訟は弁護士への相談が適しています。

家族だけで結論を出そうとせず、問題に応じた相談先を早めに利用することが、結果として家族の負担を軽くします。

まとめ|介護の見える化と親の意思の具体化が相続トラブルを防ぐ

介護と相続でもめないために重要なのは、介護を誰か一人の善意に任せきりにしないことです。

介護の役割と費用を家族で共有し、介護記録と財産管理記録を残す。
さらに、親本人の希望を確認し、必要に応じて遺言書、財産管理等委任契約、任意後見契約、家族信託などを検討する。
このように、介護の負担とお金の流れを「見える化」し、親の意思を法的な形に整えることが、将来の相続トラブルを防ぐ基本です。

家族関係が良好な今こそ、準備を始める好機です。
「まだ元気だから早い」と先送りせず、本人が自分の希望を伝えられるうちに、できるところから話し合ってみましょう。

 

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参考リンク