スマートフォンやパソコンが生活に欠かせなくなった現在、相続が発生した際には、不動産や預貯金だけではなく「デジタル遺品」への対応も必要になっています。

例えば、亡くなった方がネット銀行に預金を持っていたり、ネット証券で株式を保有していたり、暗号資産を所有していたりするケースがあります。
また、動画配信サービスなどのサブスクリプション、SNS、クラウド上の写真、電子メール、電子マネー、各種ポイントなども、亡くなった後に家族が対応しなければならないことがあります。

ところが、これらは通帳や権利証のように目に見える形で残っていないことが多く、遺族が存在そのものに気付かないという問題があります。

国民生活センターも、故人のスマートフォンを開くことができずネット銀行の契約先が分からない、コード決済サービスの相続手続きに時間がかかる、サブスクを解約したくてもIDやパスワードが分からない、といった相談事例を公表しています。

この記事では、デジタル遺品とは何か、何が相続財産になるのか、スマートフォンのパスワードが分からない場合はどうすればよいのか、ネット銀行や暗号資産、SNSなどをどのように整理すればよいのかを、相続実務の観点からわかりやすく解説します。

デジタル遺品とは?

「デジタル遺品」という言葉について、法律上の統一された定義があるわけではありません。

国民生活センターでは、デジタル機器を通して確認できるデータやインターネットで契約したサービスなどをデジタル遺品として説明しています。

実際の相続では、次のようなものが問題になります。

・スマートフォン、タブレット、パソコン
・ネット銀行の預金
・ネット証券の株式や投資信託
・FX口座
・暗号資産(仮想通貨)
・電子マネーやコード決済残高
・ポイントやマイレージ
・SNSアカウント
・メールアカウント
・クラウドストレージに保存された写真や動画
・動画、音楽、電子書籍などのオンラインサービス
・動画配信サービスなどのサブスクリプション
・オンラインゲームのアカウントやゲーム内アイテム
・ブログ、ウェブサイト、ドメイン
・YouTubeなどから発生する広告収入
・ネットショップやアフィリエイトの収益
・故人が制作した写真、文章、動画等の著作権

このように、一口にデジタル遺品といっても、「財産価値があるもの」「契約上の権利」「写真やメールなどのデータ」「解約しなければ料金が発生する契約」が混在しています。

したがって、デジタル遺品については、すべてを同じように扱うのではなく、その性質を確認することが重要です。

デジタル遺品は相続できる?

民法896条では、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められています。
ただし、被相続人本人だけに帰属する一身専属的な権利義務は承継されません。

そのため、「デジタル遺品だから相続できない」ということではありません。

例えば、ネット銀行の預金は銀行に対する預金債権ですので、相続財産になります。
ネット証券口座で保有している株式や投資信託も相続財産です。

暗号資産についても財産的価値があります。
国税庁は、暗号資産を相続または遺贈によって取得した場合には相続税の課税対象になることを明らかにしています。

一方、SNSアカウントや動画配信サービスの利用資格などについては事情が異なります。

サービスによっては利用規約に「アカウントは本人のみが利用できる」「第三者に譲渡できない」といった規定が設けられています。
その場合、相続人だからといって、故人のIDとパスワードを使ってそのまま利用を続けられるとは限りません。

つまり、「財産として相続できるか」と「故人のアカウントにログインできるか」は別の問題として考える必要があります。

スマートフォンやパソコン本体は相続財産

故人が所有していたスマートフォンやパソコンそのものは、通常の動産として相続財産になります。

ただし、端末を所有しているからといって、端末内のすべてのデータやオンラインアカウントを自由に利用できるとは限りません。

スマートフォンの中には、本人だけの情報だけではなく、家族や友人から送られたメッセージ、仕事上の秘密、取引先の情報などが保存されている場合があります。

また、クラウドサービスのデータは端末そのものに保存されているのではなく、サービス事業者のサーバー上に保存されています。
そのため、端末の所有権を相続したことと、クラウド上のデータへアクセスする権利を取得することは同じではありません。

注意点1 スマホをすぐに初期化・処分しない

デジタル遺品の相続で特に注意したいのが、故人のスマートフォンです。

スマートフォンには、ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、クレジットカード、サブスクなどを発見するための重要な手掛かりが残っていることがあります。

そのため、相続手続きが終わる前に初期化したり、下取りに出したり、処分したりすることは避けた方がよいでしょう。

国民生活センターも、スマートフォン等のパスワードが分からない場合には、第三者がロックを解除することが困難であると注意喚起しています。

携帯電話会社へ持ち込めば必ずロックを解除してもらえる、というものでもありません。

特に注意したいのが、ロック解除できないからと端末を初期化してしまうことです。
初期化すると、端末内に保存されていた重要な情報まで失われる可能性があります。

まずは端末の状態をそのまま保全し、他の資料からデジタル資産の存在を調査することが重要です。

注意点2 パスワードが分からなくても財産が消えるわけではない

「ネット銀行のパスワードが分からないから預金を相続できない」と心配される方もいますが、パスワードが分からないことと相続権の有無は別問題です。

例えば、ネット銀行に預金が存在することが判明しているのであれば、銀行へ死亡の連絡を行い、相続手続きについて確認します。

相続人であることを確認できる戸籍、本人確認書類、遺産分割協議書など、金融機関から指定された書類を提出して相続手続きを進めます。

故人のログインIDやパスワードを使って相続人が本人になりすまして手続きをするのではなく、金融機関の正式な相続窓口を利用することが大切です。

問題なのは、「どこの銀行を使っていたのか自体が分からない」というケースです。

この場合には、故人の郵便物、預金通帳、クレジットカードの利用明細、銀行口座の入出金履歴、確定申告資料、スマートフォンのアプリ一覧などから手掛かりを探します。

注意点3 ネット銀行・ネット証券を見落とさない

従来の銀行であれば、通帳やキャッシュカードを見つけることで口座の存在に気付きやすいのですが、ネット銀行やネット証券では通帳が発行されないケースがあります。

郵送物も少なく、すべての取引をスマートフォン上で完結させている方も多いです。

その結果、家族がネット上の金融資産の存在を知らないまま遺産分割協議を行ってしまうことがあります。

後から大きな預金や有価証券が発見されれば、遺産分割について改めて検討しなければなりません。

相続が発生した際には、実店舗のある銀行だけでなく、「ネット銀行やネット証券を利用していなかったか」という視点を持って財産調査を行うことが重要です。

注意点4 暗号資産は「存在」と「アクセス方法」の両方を確認する

デジタル遺品の中でも特に注意が必要なのが、Bitcoinなどの暗号資産です。

暗号資産を国内の暗号資産交換業者の口座で保有している場合には、事業者へ相続が発生したことを連絡し、その事業者が定める相続手続きを確認します。

一方、故人自身が暗号資産をウォレットで管理している場合には、秘密鍵やリカバリーフレーズなどの管理状況が大きな問題になります。

財産が存在していても、アクセスに必要な情報が失われてしまえば、技術的に資産を移動できなくなる可能性があります。

暗号資産は相続税の対象にもなります。
国税庁によれば、活発な市場が存在する暗号資産については、暗号資産交換業者が公表する課税時期の取引価格などを基に評価します。

「取り出せないから相続財産ではない」と単純に判断することはできません。

暗号資産を保有している方は、生前に「どの暗号資産をどこで保有しているのか」「相続発生後に家族がどのように手続きを確認できるのか」を整理しておくことが非常に重要です。

なお、秘密鍵やリカバリーフレーズそのものを第三者に安易に知らせることは、資産を失う危険につながります。保管方法には十分な注意が必要です。

注意点5 電子マネー・ポイントは利用規約を確認する

電子マネー、QRコード決済、ポイント、航空会社のマイレージなどについては、サービスごとに取扱いが異なります。

残高を相続人へ払い戻せるサービスもあれば、死亡によって利用資格が終了するもの、ポイントを承継できないものなどがあります。

「残高がある=必ず相続人が利用できる」と考えるのは危険です。

事業者の利用規約や相続・死亡時の手続き案内を確認し、必要に応じて事業者へ問い合わせる必要があります。

少額に見えるポイントでも、複数のサービスを利用していると合計額が大きくなる場合があります。

注意点6 サブスクは亡くなった後も請求が続くことがある

デジタル遺品は「プラスの財産」だけではありません。

動画配信サービス、音楽配信サービス、クラウドストレージ、オンラインソフト、セキュリティサービスなど、毎月料金を支払う契約にも注意が必要です。

国民生活センターには、亡くなった方が契約していたサブスクを解約したいものの、IDやパスワードが分からず手続きに困ったという相談が寄せられています。
また、サブスクは解約手続きをしなければ請求が続くケースがあると注意喚起されています。

故人の銀行口座やクレジットカードの利用明細を確認すると、毎月または毎年、同じ事業者へ料金が支払われていることがあります。

こうした引落しを手掛かりに契約先を確認していくことも、デジタル遺品調査の重要な作業です。

ただし、相続放棄を検討している場合には、財産や契約を自己判断で処分・変更する前に注意が必要です。

民法921条では、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、保存行為などを除き、単純承認をしたものとみなされる規定があります。

暗号資産を売却する、電子マネー残高を使用する、換金可能なデジタル資産を自分の口座へ移すといった行為を行う前に、相続放棄の可能性がある場合は専門家へ相談することをおすすめします。

注意点7 SNSやメールは「相続財産だから自由に見られる」とは限らない

SNS、メール、クラウド上の写真などについては、預貯金のような財産とは異なる問題があります。

故人のアカウントには、故人本人だけではなく、友人、知人、取引先など第三者に関する情報が含まれていることがあります。

個人情報保護法では、「個人情報」は生存する個人に関する情報とされているため、死者本人だけに関する情報は同法の保護対象にはなりません。
ただし、死者の情報が同時に生存する遺族などの情報でもある場合には、その遺族等の個人情報として保護対象になることがあります。

また、相続人であることだけを理由として、あらゆるデータについて当然に開示を求められるわけでもありません。
個人情報保護委員会も、行政機関が保有する死者の情報について、相続手続きに必要であることや遺族であることだけで開示請求の対象になるものではないと説明しています。

SNSやメール、クラウドサービスについては、それぞれの事業者が死亡時のアカウント削除、追悼アカウント、データ提供などについて独自の手続きを設けている場合があります。

IDとパスワードが分かったからといって、故人本人としてログインして操作するのではなく、各事業者の死亡時・相続時の手続きを確認することが安全です。

写真・ブログ・YouTubeなどに「著作権」がある場合

デジタル遺品には、単なるデータではなく著作権という財産的権利が含まれていることもあります。

例えば、故人が撮影した写真、制作した動画、執筆した文章、ブログ記事、イラスト、音楽などです。

著作権は財産権であり、相続の対象になり得ます。
著作権法では、多くの著作物について著作者の死後70年間、著作権が存続するとされています。

特に、ブログ、YouTubeチャンネル、写真販売サイト、電子書籍などから継続的な収益が発生している場合には注意が必要です。

アカウントそのものの承継可否と、著作権や未払収益などの財産的権利は分けて考える必要があります。

デジタル遺品にも相続税がかかる?

「インターネット上にある財産だから相続税はかからない」ということはありません。

国税庁は、相続税の対象となる財産について、現金や預貯金、不動産、有価証券だけではなく、「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」が含まれるとしています。

したがって、ネット銀行の預金、ネット証券の有価証券、暗号資産なども、相続税の計算上、確認する必要があります。

デジタル資産を見落としたまま相続税申告を行い、後日多額の資産が判明した場合には、申告内容の見直しが必要になります。

相続財産を調査する際には、従来型の財産だけでなく、デジタル資産も財産目録に加えるという意識が重要です。

デジタル遺品が見つかったときの手続きの流れ

デジタル遺品がある場合には、次のような順序で整理すると分かりやすくなります。

まず、スマートフォン、パソコン、タブレットなどの端末を保全します。慌てて初期化や売却をしないことが重要です。

次に、故人の郵便物、クレジットカード明細、銀行口座の取引履歴、確定申告書、契約書類などから、ネット上のサービスを洗い出します。

そして、見つかったものを「財産」「債務・継続課金」「SNS・メール等」「写真等のデータ」に分類します。

ネット銀行、ネット証券、暗号資産交換業者など財産が存在するサービスについては、各事業者の相続窓口へ連絡します。

サブスクについては、事業者へ死亡の事実を伝え、必要書類や解約方法を確認します。

最後に、相続財産となるものについて遺産分割を行い、必要に応じて相続税の申告にも反映させます。

相続放棄を検討している場合には、この流れの途中で財産を換金、移転、消費しないよう特に注意してください。

生前にしておきたい「デジタル終活」

デジタル遺品で家族が困らないためには、生前の準備が非常に有効です。

国民生活センターも、デジタル終活として、スマートフォン等のロック解除方法を家族が確認できるようにすること、ネット上の資産やサブスクのサービス名・ID等を整理すること、エンディングノートを活用することなどを紹介しています。

具体的には、次のような一覧を作っておくとよいでしょう。

・利用しているネット銀行
・利用しているネット証券
・暗号資産を保有しているサービス
・電子マネー、QRコード決済
・クレジットカード
・毎月または毎年支払っているサブスク
・SNS
・メールアドレス
・クラウドストレージ
・ブログ、ウェブサイト、ドメイン
・収益が発生しているオンラインサービス

ただし、一覧表にすべてのパスワードや暗号資産の秘密鍵をそのまま書き、誰でも見られる場所へ置くのは危険です。

「どのサービスを利用しているかを確認できる資料」と「アクセスに必要な重要情報」は分けて管理するなど、情報漏えいにも配慮する必要があります。

遺言書にパスワードを書いてもよい?

デジタル資産を遺言書に記載することは検討できます。

例えば、「○○証券の有価証券を長男に相続させる」「保有する暗号資産を長女に相続させる」といった財産の承継について遺言を作成することは、生前対策として有効です。

一方、遺言書そのものにスマートフォンのパスコード、各サービスのパスワード、暗号資産の秘密鍵やリカバリーフレーズなどを直接記載する方法は、セキュリティ上避けるべきです。

パスワードは変更することがありますし、非常に重要な認証情報が遺言書を通して第三者の目に触れるリスクもあります。

遺言書では「誰にどの財産を承継させるか」を定め、具体的なアクセス情報は別の安全な方法で管理するという方法をとることをお勧めします。

また、遺言執行者を指定したとしても、その人が各サービスの利用規約や本人確認手続きを超えて自由に故人のアカウントへログインできるわけではありません。

遺言の内容と各サービスの死亡時手続きを組み合わせて考える必要があります。

デジタル遺品で特に困りやすいケース

次のような場合には、相続手続きが複雑になりやすいため注意が必要です。

・スマートフォンのロック番号を誰も知らない
・家族がネット銀行の存在を知らなかった
・暗号資産を持っていたらしいが保管場所が分からない
・複数のサブスク契約が残っている
・故人が事業用のSNSやウェブサイトを運営していた
・YouTubeやブログから広告収入がある
・ネットショップを運営していた
・家族の誰かが故人のアカウントをそのまま使用している
・相続放棄を考えているのにデジタル資産を換金してしまった
・遺産分割後にネット上の財産が見つかった

デジタル遺品は、財産価値だけでなく、契約、税金、個人情報、著作権など複数の問題が関係することがあります。

まとめ|これからの相続では「スマホの中」も財産調査の対象に

以前の相続財産調査では、自宅にある通帳、証券会社からの郵便物、固定資産税の納税通知書などを調べることで、多くの財産を把握することができました。

しかし、現在はスマートフォン一台の中に、銀行、証券、暗号資産、電子マネー、SNS、サブスクなど多くの情報が集約されています。

そのため、これからの相続では「自宅に何が残されているか」だけではなく、「インターネット上に何が残されているか」という視点が欠かせません。

特に重要なのは、ネット銀行や暗号資産などの財産を見落とさないこと、スマートフォンを不用意に初期化しないこと、故人のID・パスワードを使って安易に本人として操作しないこと、相続放棄を検討している場合には財産を処分しないことです。

そして、生前の段階でデジタル資産や契約先を整理しておけば、残された家族の負担を大きく減らすことができます。

遺言書やエンディングノートを作成する際には、不動産や預貯金だけではなく、「ネット上に残る財産や契約」についても一度整理してみることをおすすめします。

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参考リンク

国民生活センター:今から考えておきたい「デジタル終活」-スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために-

国民生活センター:始めましょう!デジタル終活

e-Gov法令検索:民法

国税庁:No.4105 相続税がかかる財産

国税庁:暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)

個人情報保護委員会:死者の情報は、個人情報保護法の保護の対象になりますか。

デジタル庁:死亡・相続手続のオンライン・デジタル化