「子どもに迷惑をかけたくない」
「夫婦のどちらかが亡くなった後も、今の家で安心して暮らしたい」
「認知症になったとき、預金や不動産の管理はどうなるのだろう」。
高齢のご夫婦から終活について相談を受けると、このようなお話を伺うことがあります。

終活というと、遺言書を書いたり、お墓や葬儀について決めたりすることを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、高齢夫婦の終活では、それだけでは十分ではありません。

特に重要なのは、「亡くなった後」だけではなく、「夫婦のどちらかが認知症や病気になったとき」と「夫婦のどちらかが先に亡くなった後」の生活まで考えておくことです。

元気なうちは、夫婦がお互いに支え合うことで多くの問題に対応できます。
しかし、一方が入院したり判断能力を失ったりすると、それまで当たり前にできていた預金管理、不動産の売却、施設入居の契約などが難しくなることがあります。
また、一方が亡くなれば、残された配偶者自身も高齢であるケースが多く、相続手続きを一人で進めなければならない可能性があります。

そこで今回は、高齢夫婦が元気なうちに考えておきたい終活について、7つのポイントに分けて解説します。

1.まず夫婦それぞれの財産を整理する

高齢夫婦の終活で最初に行いたいのが、財産の「見える化」です。

長年生活していると、預貯金、不動産、生命保険、有価証券などが複数に分かれていることがあります。夫婦であっても、お互いがどこの金融機関に口座を持っているのか詳しく知らないケースは珍しくありません。

まずは次のような財産を書き出してみましょう。

・預貯金口座
・自宅や土地などの不動産
・株式、投資信託などの有価証券
・生命保険
・年金
・貸付金
・自動車
・貴金属などの高価品
・住宅ローンなどの借入れ
・クレジットカード
・インターネット上の金融口座や暗号資産など

不動産については、固定資産税の納税通知書だけで判断するのではなく、登記名義が誰になっているかを確認しておくことも重要です。

例えば、自宅について「当然夫婦共有だと思っていた」という場合でも、実際には夫だけの名義になっていることがあります。
反対に、何十年も前に購入した土地が夫婦共有になっていたというケースもあります。

財産を整理する目的は、単に相続財産を把握することだけではありません。

「夫が先に亡くなった場合、妻の生活費はいくら残るのか」「自宅以外の金融資産がどの程度あるのか」「施設への入居費用をどう確保するか」など、今後の生活設計を考える基礎になります。

エンディングノートなどを利用して一覧にしておくのも有効ですが、銀行の暗証番号やインターネットサービスのパスワードなど、第三者に知られると危険な情報については、保管方法にも十分注意しましょう。

2.夫婦それぞれが遺言書を作成する

高齢夫婦の終活で特に重要なのが遺言書です。

「夫婦だから、どちらかが亡くなれば全部配偶者が相続する」と考えている方もいますが、必ずしもそうではありません。

例えば、夫が亡くなり、妻と子どもが相続人となる場合、法律上は妻だけではなく子どもにも相続権があります。夫婦に子どもがいない場合でも、亡くなった方の父母や兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。

特に子どものいない高齢夫婦では、遺言書が非常に重要です。

夫が「自分が亡くなったら妻に全部渡るだろう」と思っていても、夫の兄弟姉妹などが相続人となれば、妻だけでは相続手続きを完了できません。

そこで、例えば「自宅と預貯金を妻に相続させる」といった意思があるのであれば、元気なうちに遺言書として残しておくことを検討します。

なお、夫婦で終活をする場合でも、夫婦二人の遺言を一枚の遺言書にまとめることは避けなければなりません。
民法では共同遺言が禁止されているため、夫は夫の遺言書、妻は妻の遺言書として、それぞれ別に作成する必要があります。

遺言書には自筆証書遺言や公正証書遺言などがあります。法務局には自筆証書遺言書保管制度もあり、遺言書の紛失や改ざんなどを防ぐための選択肢となっています。
京都地方法務局も、終活における財産承継の方法の一つとして同制度を案内しています。

また、公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を確認したうえで公正証書として作成する方法です。

「配偶者が先に亡くなっていた場合」も考える

高齢夫婦の遺言で見落とされやすいのが、夫婦の死亡順序です。

例えば夫が、「自分の財産はすべて妻に相続させる」という遺言を作成していたとしても、夫より先に妻が亡くなる可能性があります。

そこで、「妻が自分より先に死亡していた場合には、長男に相続させる」など、第一順位の受取人が先に死亡していた場合の財産の行き先まで定める「予備的な条項」を検討する必要があります。

夫婦がともに高齢の場合には、一方が亡くなった後、短期間のうちにもう一方も亡くなることがあります。
遺言書は「一方が死亡した場合」だけを見るのではなく、その後の二次相続まで想定して作成することが重要です。

3.認知症になった場合の財産管理を決めておく

高齢夫婦の終活で、遺言書と同じくらい重要なのが認知症への備えです。

遺言書は基本的に「亡くなった後」の財産承継を決めるものです。
そのため、認知症になった後の財産管理を遺言書だけで解決することはできません。

例えば、夫名義の自宅について、夫の判断能力が十分でなくなった後に妻が、「介護施設に入るため、自宅を売却して費用に充てたい」と考えたとしても、妻だからという理由だけで夫名義の不動産を自由に売却することはできません。

預金についても同じです。

夫婦であっても、配偶者の財産を当然に自由に管理できるわけではありません。

そのため、判断能力があるうちに、将来の財産管理について準備しておく必要があります。

代表的な方法には、次のようなものがあります。

財産管理委任契約

まだ判断能力がある段階から、預貯金の管理や支払いなどの事務を信頼できる人に委任する方法です。

身体が不自由になったものの判断能力は保たれている場合などに活用できます。

任意後見契約

将来、認知症などによって判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ任意後見人となる人や任せる事務の内容を決めておく制度です。

任意後見契約は、本人に十分な判断能力がある間に公正証書によって契約し、将来判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が生じます。

家族信託

一定の財産を信頼できる家族などに託し、契約で定めた目的に従って管理してもらう仕組みです。

例えば、自宅や収益不動産などについて、将来本人の判断能力が低下しても一定の財産管理を継続できるよう設計することがあります。

ただし、家族信託、任意後見、財産管理委任契約は、それぞれ役割が異なります。

「どれか一つを作れば終わり」というものではなく、本人の財産内容、家族関係、将来希望する生活などによって組み合わせを検討する必要があります。

4.残された配偶者の「住まい」を考える

高齢夫婦にとって、自宅は単なる財産ではありません。

長年暮らしてきた生活の拠点であり、一方が亡くなった後も残された配偶者が安心して暮らせるかどうかは非常に重要な問題です。

例えば自宅が夫名義で、夫が亡くなった場合を考えてみましょう。

相続人が妻と子どもであれば、自宅を誰が取得するのかについて遺産分割が必要になります。

妻が自宅を取得すれば住み続けることはできますが、自宅の評価額が高い場合には、妻が取得できる預貯金が少なくなってしまうことも考えられます。

こうした問題に対応する制度の一つが「配偶者居住権」です。

配偶者居住権は、一定の要件を満たす場合に、残された配偶者が亡くなった方の所有していた建物に無償で住み続けることができる権利です。
遺言や遺産分割などによって取得することができます。

ただし、すべての夫婦に配偶者居住権が適しているわけではありません。

自宅の所有権を妻に取得させた方がよい場合もあれば、子どもに所有権を取得させ、妻に配偶者居住権を設定する方法が適しているケースもあります。

重要なのは、

「どちらが先に亡くなっても、残された配偶者がどこに住み、どのくらいの生活資金を確保できるか」

という視点から考えることです。

5.介護・入院・施設入居について夫婦で話しておく

終活では、財産だけでなく生活についても話し合っておきたいところです。

例えば、

「できるだけ自宅で暮らしたい」
「介護が必要になったら施設への入居を希望する」
「子どもに介護を任せきりにしたくない」
「どの程度まで医療を希望するか」

などです。

特に高齢夫婦では、一方がもう一方を介護する「老老介護」になることがあります。

元気なときには、

「自分が夫を介護する」
「妻のことは自分が見る」

と思っていても、介護する側も高齢です。

一方が倒れた結果、もう一方も生活できなくなるという事態も想定しておく必要があります。

介護施設の候補、必要となる費用、緊急連絡先、かかりつけ医、服用している薬などを整理しておくと、いざというときに家族も対応しやすくなります。

6.葬儀・納骨・死後事務まで決めておく

高齢夫婦の場合、一方が亡くなったとき、残された配偶者自身も高齢であることが多いため、葬儀や各種解約手続きを一人ですべて行うことが難しい場合があります。

亡くなった後には、相続手続き以外にも多くの事務が発生します。

例えば、

・葬儀、火葬
・納骨
・病院や施設への支払い
・賃貸住宅の解約
・電気、ガス、水道の解約
・携帯電話の解約
・クレジットカードの解約
・インターネットサービスの解約
・SNSなどのデジタルサービスへの対応
・家財道具の処分

などです。

子どもや親族が対応してくれるのであれば問題ないこともありますが、子どもが遠方に住んでいる場合や、頼れる親族が少ない夫婦では、誰が対応するのかを決めておくことが重要です。

必要に応じて「死後事務委任契約」を利用し、自分が亡くなった後の一定の事務を信頼できる人や専門家に依頼しておく方法もあります。

遺言書と死後事務委任契約は役割が違います。

遺言書は主に財産の承継などを決めるものですが、葬儀や各種契約の解約など実際の死後の事務については、別途準備しておいた方がよいケースがあります。

7.「一人になった後」と二次相続まで考える

高齢夫婦の終活で最も見落とされやすいのが、一方が亡くなった後です。

例えば夫が先に亡くなり、妻がすべての財産を相続したとします。

その時点では問題がなくても、数年後に妻が亡くなれば、今度は妻の相続が発生します。これがいわゆる「二次相続」です。

一次相続だけを考えて財産をすべて配偶者に集中させると、その後の二次相続で財産分割や税務上の問題が生じる場合があります。

また、夫が亡くなった後、妻自身の遺言書を見直す必要が出てくることもあります。

高齢夫婦の終活では、

「夫が先に亡くなった場合」
「妻が先に亡くなった場合」
「その後、残された配偶者が亡くなった場合」

という複数の場面を想定することが重要です。

相続登記も忘れない

自宅などの不動産を相続した場合には、相続登記も必要です。

2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日などから原則として3年以内に相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

さらに、2024年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象となり、一定の場合には2027年3月31日までに相続登記を行う必要があります。

「夫が亡くなったけれど、妻が住んでいるから名義はそのままでいい」という考え方は避けた方がよいでしょう。

高齢夫婦の終活でよくある注意点

高齢夫婦の終活では、次のような状態になっていないか確認してみてください。

・夫婦とも遺言書を作っていない
・どちらか一方しか遺言書を作っていない
・配偶者が先に亡くなった場合の遺言内容を考えていない
・自宅の登記名義を確認していない
・預貯金や生命保険の一覧がない
・認知症になった場合の財産管理を決めていない
・施設入居費用をどこから出すか決めていない
・死後の葬儀や納骨を誰に頼むか決めていない
・二次相続を考えていない

一つでも当てはまる場合には、元気なうちに夫婦で話し合ってみることをおすすめします。

「まだ元気だから」は終活を始める最もよい時期

終活について相談すると、

「まだ元気だから、もう少し先でもいいでしょう」

と考える方も少なくありません。

しかし、遺言書や任意後見契約などの生前対策は、本人が内容を理解し、自分の意思で判断できる状態で行うことが重要です。

認知症がかなり進行してから、

「やはり遺言書を作りたい」
「自宅を売却して施設費用にしたい」
「家族に財産管理を任せたい」

と思っても、希望していた方法を選択できない可能性があります。

だからこそ、夫婦とも元気で、将来について落ち着いて話し合える時期が終活を始めるタイミングです。

夫婦で一度に全部決める必要はない

終活という言葉を聞くと、

「財産を全部整理しなければならない」
「葬儀やお墓まで一度に決めなければならない」

と身構えてしまう方もいるかもしれません。

しかし、一度にすべてを決める必要はありません。

まずは、

「財産を一覧にする」
「自宅の名義を確認する」
「夫婦それぞれが誰に財産を残したいか話す」

というところから始めれば十分です。

そこから必要に応じて、遺言書、任意後見契約、財産管理委任契約、家族信託、死後事務委任契約などを検討していきます。

終活で大切なのは、制度をたくさん利用することではありません。

「夫婦のどちらが先に亡くなっても、残された人が安心して生活できる状態を作ること」「どちらかが判断できなくなっても、生活や財産管理が行き詰まらない状態を作ること」が目的です。

まとめ|高齢夫婦の終活は「死亡後」だけでなく「その前」から考える

高齢夫婦の終活では、遺言書だけを作れば終わりというわけではありません。

特に考えておきたいのは、

1.夫婦それぞれの財産を整理する
2.夫婦それぞれが遺言書を作成する
3.認知症になった場合の財産管理を準備する
4.残された配偶者の住まいを確保する
5.介護・入院・施設入居について話しておく
6.葬儀・納骨・死後事務を準備する
7.一人になった後と二次相続まで考える

という7つです。

特に高齢夫婦の場合、「自分が亡くなったらどうするか」だけではなく、「配偶者が先に亡くなったら自分はどう生活するのか」「自分が認知症になったら誰が財産を管理するのか」という視点が欠かせません。

元気なうちに夫婦で話し合い、必要な手続きを少しずつ進めておくことで、将来の負担を大きく減らせる可能性があります。

相続・遺言・任意後見・家族信託など、どの制度を利用すべきかは、夫婦の年齢、財産、家族構成、自宅の名義、子どもとの関係などによって異なります。

「何から始めればよいかわからない」という場合には、まず現在の財産と家族関係を整理したうえで、司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。

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参考リンク

京都地方法務局:自筆証書遺言書保管制度

法務省:任意後見制度について

裁判所:後見ポータルサイト

法務省:残された配偶者の居住権を保護するための方策

法務省:相続登記の申請義務化について

日本公証人連合会:公正証書遺言とは、どのようなものですか?