相続財産の中に「借地の上に建っている自宅」が含まれていることがあります。
土地は地主の名義で、亡くなった方が土地を借り、その上に自分名義の建物を所有しているケースです。

このような不動産を相続した場合、
「土地は自分のものではないのに建物だけ相続できるのか」
「借地権も相続できるのか」
「地主の承諾や名義変更料が必要なのか」
「相続登記は建物だけでよいのか」
といった疑問が生じます。

結論からいうと、借地権は原則として相続の対象となり、相続人が借地権を承継すること自体について、通常は地主の承諾を得る必要はありません。
ただし、相続後に建物を売却したり、建替えたりする場合には地主との関係が重要になることがあります。
また、借地契約の種類や内容、地代の滞納、建物の登記状況などによって対応が変わるため、一般的な所有権の土地建物を相続する場合とは違った注意が必要です。

この記事では、借地権付き不動産を相続した場合に確認しておきたいポイントを、司法書士の視点から7つに分けて解説します。

1.そもそも「借地権」とは?

借地借家法上の「借地権」とは、建物を所有する目的で設定された「地上権」または「土地の賃借権」をいいます。

典型的なのは、地主Aさんから土地を借りて、その土地の上にBさんが自宅を建て、Bさん名義で建物を登記しているケースです。この場合、土地そのものの所有権はAさんにありますが、Bさんには土地を使用するための借地権があります。

そしてBさんが亡くなった場合、相続財産になるのは単に「建物」だけではありません。建物を所有するための基礎となっている借地権も相続の対象になります。

民法では、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するとされています。したがって、被相続人が有していた借地権や、それに伴う地代支払義務なども原則として相続人に引き継がれます。

ただし、一口に借地権といっても契約内容は同じではありません。旧借地法が適用される古い契約、現在の借地借家法による普通借地権、一般定期借地権、事業用定期借地権などがあります。

特に相続した借地契約が何十年も前に締結されたものである場合、契約書そのものが見当たらないこともあります。そのような場合は、地代の領収書、通帳の振込記録、過去の更新契約書、土地・建物の登記事項証明書などを確認し、現在の借地関係を整理する必要があります。

2.借地権を相続するのに地主の承諾は原則不要

借地権を相続したときに、最も多い疑問の一つが「地主の承諾が必要なのか」という点です。

通常の相続によって借地権を承継する場合、原則として地主の承諾は必要ありません。

民法612条では、賃借人が賃借権を第三者に「譲渡」したり、賃借物を「転貸」したりする場合には、原則として賃貸人の承諾が必要とされています。

しかし、相続は被相続人から相続人への売買や贈与による「譲渡」ではなく、法律上の包括的な権利義務の承継です。そのため、相続人が借地権を引き継ぐだけであれば、通常は地主から譲渡承諾を得る必要はありません。

したがって、単に相続が発生したという理由だけで、「借地権の名義変更料」「譲渡承諾料」といった金銭が当然に必要になるわけでもありません。

もっとも、「承諾が不要」ということと「何も連絡しなくてよい」ということは別です。

被相続人が亡くなった後も地代の支払いは続きますし、今後の連絡先や地代の支払者を明確にする必要があります。そのため、遺産分割がまとまり、借地上の建物と借地権を誰が承継するか決まった段階で、地主に相続があったことを伝えるのが実務上は望ましいでしょう。

地主から「新しく借地契約を結び直しましょう」と言われる場合もありますが、相続が発生したからといって必ず新規契約を締結しなければならないわけではありません。新しい契約書の内容によって従来の権利関係が変更される可能性もあるため、内容を十分確認せずに署名・押印することは避けたほうがよいでしょう。

なお、相続人以外の第三者に遺贈する場合などは、通常の相続とは法律関係が異なる可能性があります。遺言によって借地権付き建物を承継させる場合には、受遺者が誰なのかも含めて個別に確認することが重要です。

3.借地上の「建物」の相続登記を忘れない

借地権付き不動産を相続した場合、土地自体は地主の所有物ですから、借地人の相続を原因として土地の所有権移転登記をするわけではありません。

一方、借地上の建物が被相続人名義で登記されているのであれば、その建物については相続登記が必要です。

2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく義務を履行しなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

これは借地上に建っている建物についても同様です。

さらに、借地権については「建物の登記」が非常に重要です。借地借家法では、借地権そのものの登記がされていなくても、借地権者がその土地の上に登記された建物を所有している場合には、その借地権を第三者に対抗できる仕組みがあります。

そのため、借地上の建物について相続登記をせず、長期間被相続人名義のまま放置することは適切ではありません。

実務では、

「土地の所有者は誰か」
「建物の登記名義人は誰か」
「借地権自体に登記があるか」
「建物が未登記ではないか」
「借地契約書の借主と建物所有者が一致しているか」

などを確認します。

特に何代にもわたって借地を利用しているケースでは、契約上の借主、実際に地代を支払っている人、建物の登記名義人が一致していないことがあります。相続を機会に権利関係を整理することが大切です。

4.地代の滞納や更新料など契約内容を確認する

借地権を相続すると、借地権という権利だけでなく、借地契約に伴う義務についても引き継ぐことになります。

まず確認したいのが「地代」です。

被相続人が口座振替で地代を支払っていた場合、死亡後に口座が凍結され、知らないうちに地代の支払いが止まっていることがあります。

借地権は財産的価値のある重要な権利です。地代の滞納をそのまま放置すると、地主との関係を悪化させる原因になります。

相続が発生したら早めに、

・毎月または毎年の地代はいくらか
・支払日はいつか
・どの口座から支払っていたか
・未払いの地代がないか
・更新時期はいつか
・更新料について契約上どのような定めがあるか
・建替えや増改築について承諾条項があるか
・譲渡する場合の承諾についてどう規定されているか

などを確認しましょう。

特に昔からの借地契約では、「契約書がない」「数十年前の契約書しかない」「口約束で更新を続けてきた」というケースも少なくありません。

契約書が見つからないからといって直ちに借地権が存在しないことになるわけではありませんが、将来の売却や建替えの際には権利関係の確認が必要になります。

5.複数の相続人で借地権付き建物を共有しないよう慎重に検討する

相続人が複数いる場合、借地上の建物と借地権を誰が取得するかも重要な問題です。

例えば、父親が借地上に自宅を所有しており、相続人が子ども3人だったとします。

遺産分割をしないままにすると、相続財産は共同相続の状態になります。建物を兄弟姉妹の共有にすることも法律上は可能ですが、将来的な管理や処分を考えると慎重な判断が必要です。

借地権付き建物では、建物だけではなく土地を利用する権利も一体として考えなければなりません。

将来、建物を売りたい、建替えたい、地主へ返還したいと考えたときに共有者間で意見が一致しなければ、手続きが進まない可能性があります。

さらに共有者の一人が亡くなると、その持分についてさらに相続が発生します。時間が経過するほど関係者が増え、権利関係が複雑になることがあります。

そのため、実際にその建物に住み続ける相続人がいる場合には、その人が建物と借地権をまとめて取得し、他の相続人には預貯金など別の財産を取得してもらう方法や、必要に応じて代償金を支払う方法なども検討する価値があります。

借地権付き建物は、単純に固定資産評価額だけを見て分ければよい財産ではありません。借地権自体にも経済的価値があるため、遺産分割ではその価値も意識する必要があります。

6.相続後に売却する場合は地主の承諾が問題になる

「相続するだけなら地主の承諾は原則不要」という点と、「相続した後に第三者へ売却する場合」とは区別しなければなりません。

土地の賃借権を第三者へ譲渡する場合には、民法612条により原則として地主の承諾が必要です。したがって、相続した借地上の建物を第三者へ売却し、それに伴って土地賃借権を買主へ移転させる場合には、地主から譲渡承諾を得ることが必要となるのが原則です。

地主から承諾を得られない場合でも、一定の要件のもとで、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める制度があります。

裁判所も、土地賃借権付き建物を第三者へ譲渡する場合について、地主の承諾が得られないときには、借地借家法19条に基づき土地賃借権譲渡許可の申立てを行う制度を案内しています。

つまり、

「親から相続する」

地主の承諾は原則不要

「相続後、第三者に売却する」

地主の承諾が原則必要

という違いを理解しておくことが重要です。

また、借地上の建物を建て替える場合や大規模な増改築をする場合にも、借地契約の内容によっては地主の承諾が必要になることがあります。承諾を得られない場合に裁判所の許可を求められる制度もあります。

そのため、「古い建物だから相続後すぐ建て替えよう」と考えている場合は、工事を進める前に借地契約を確認する必要があります。

7.借地権にも相続税上の価値がある

「土地は地主のものだから、相続財産は建物だけ」と思われることがありますが、税務上もそのように単純ではありません。

国税庁は、借地権を相続税・贈与税の課税対象になる財産として扱っています。一般的な借地権については、原則としてその土地を自用地として評価した価額に「借地権割合」を乗じて評価します。借地権割合は地域ごとに定められ、路線価図などで確認することができます。

例えば、自用地としての相続税評価額が4,000万円で、借地権割合が60%の地域であれば、単純計算では借地権の評価額は2,400万円となります。

ただし、実際の相続税評価は、借地契約の種類、定期借地権かどうか、権利金や地代の状況などによって異なります。一般定期借地権については残存期間などを考慮した別の評価方法があります。

したがって、遺産分割をするときにも「建物の固定資産評価額が500万円だから、この不動産の価値は500万円程度」と考えるのは適切でない場合があります。

借地権の財産価値を考慮せず遺産分割をすると、相続人間で実質的な取得額に大きな差が生じる可能性もあります。

相続税申告が必要なケースでは、税理士など税務の専門家と連携して評価を確認することが重要です。

借地権付き不動産を相続したときの確認事項

借地権付き不動産を相続した場合には、少なくとも次の事項を確認しておきましょう。

・土地と建物の登記事項証明書
・借地契約書
・契約締結日
・普通借地権か定期借地権か
・借地期間と更新時期
・毎月または毎年の地代
・地代の滞納の有無
・更新料に関する条項
・譲渡承諾に関する条項
・増改築、建替えに関する条項
・借地上の建物の登記名義
・借地権自体の登記の有無
・誰が今後その建物を利用するのか
・将来売却する可能性があるか

特に重要なのは「今の相続手続きだけ」ではなく、「5年後、10年後にこの不動産をどうするのか」という視点です。

住み続けるのであれば、地代や更新、建替えを考える必要があります。売却する可能性があるのであれば、地主の承諾や借地権の市場性を確認しておく必要があります。

「借地権を相続したくない」ときは建物だけ放棄できる?

借地権付きの古い建物を相続すると、「建物は老朽化しているし、地代も払い続けたくないので借地権だけ相続したくない」という相談が生じることがあります。

しかし、相続放棄は特定の財産だけを選んで放棄する制度ではありません。

「預貯金は相続するが借地権はいらない」
「自宅は相続するが借金だけ放棄する」

というような選択的な相続放棄はできません。

相続放棄をする場合には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、借地権だけでなく相続財産全体を対象として判断することになります。

借地上の建物が老朽化しているケースでは、建物解体費用や地主への土地返還条件なども確認してから、相続するかどうかを検討する必要があります。

借地権付き不動産は「相続できるか」より「相続後どうするか」が重要

借地権付き不動産については、「土地が自分名義ではない」という理由から複雑に感じる方も多いですが、相続によって借地権を承継すること自体については、通常、地主の承諾は必要ありません。

一方で、その後の管理・利用・処分には借地特有の問題があります。

特に注意したいのは、

1.借地契約の種類と内容を確認する
2.相続による承継では地主の承諾は原則不要
3.借地上の建物の相続登記を行う
4.地代や更新条件、滞納の有無を確認する
5.安易に複数相続人の共有にしない
6.第三者への売却では地主の承諾が問題になる
7.借地権自体にも財産的・相続税上の価値がある

という7点です。

借地権は、土地所有権とは異なり、契約関係と建物の所有権が密接に結び付いています。借地契約が古かったり、契約書がなかったり、建物名義が何代も前のままになっていたりすると、相続の際に初めて問題が表面化することがあります。

「父が何十年も借りていた土地だから、そのまま住み続ければ大丈夫」と考えず、一度、土地と建物の登記、借地契約、相続関係を整理しておくことをおすすめします。

相続登記だけでなく、その後の売却や建替えまで見据えて整理することで、将来の相続人にも問題を残しにくくなります。

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参考リンク

e-Gov法令検索:民法

e-Gov法令検索:借地借家法

法務省:相続登記の申請義務化に関するQ&A

裁判所:借地非訟とは

国税庁:No.4611 借地権の評価

国税庁:No.4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価