相続手続きを進める中で、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という言葉を耳にすることがあります。
代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が被相続人より先に亡くなっている場合などに、その子や孫が代わって相続人となる制度です。
現在では一般的な制度として知られていますが、実は代襲相続のルールはこれまで何度も改正されており、被相続人が亡くなった時期によって適用される法律が異なります。
特に相続登記の義務化以降、何十年も放置されていた不動産の相続手続きを行うケースが増えており、「昭和20年代」「昭和30年代」などかなり前に亡くなった方の相続が問題になることも珍しくありません。
この記事では、代襲相続制度の歴史と変遷について、旧民法・応急措置法・現行民法を比較しながら詳しく解説します。
代襲相続とは?
代襲相続とは、相続人となるべき人(被代襲者)が、
- 被相続人より先に死亡した
- 相続欠格となった
- 相続廃除を受けた
場合に、その人の子や孫などの直系卑属が代わって相続人となる制度です。
例えば、
- 父が死亡
- 本来相続人となる長男が既に死亡
- 長男に子(孫)がいる
場合、その孫が長男の相続分を引き継ぎます。
これが代襲相続です。
なぜ代襲相続制度が改正されてきたのか
日本の相続制度は、
- 家制度を前提とした旧民法
- 戦後の応急措置法
- 現行民法
へと大きく変化しました。
戦前は「家」を維持することが重視されていましたが、戦後は日本国憲法の理念である
- 個人の尊厳
- 男女平等
が重視されるようになりました。
その結果、代襲相続制度も大きく見直されてきたのです。
代襲相続制度の歴史的変遷
①旧民法時代(明治31年~昭和22年5月2日)
家督相続制度の時代
現在とは異なり、戸主が死亡すると「家督相続」が発生しました。
家督相続では原則として一人だけが家を継ぎます。
長男が優先されるなど、現在とは全く異なる制度でした。
代襲相続
直系卑属については代襲相続が認められていました。
例えば、
- 長男死亡
- 孫がいる
場合には孫が家督相続人になることがありました。
しかし、現在のような体系的な代襲相続制度とは異なり、家制度を維持するための仕組みという色彩が強いものでした。
②応急措置法時代(昭和22年5月3日~昭和22年12月31日)
わずか約8か月間の特別な時代
日本国憲法施行に伴い、旧民法の家制度は憲法の理念に反すると考えられるようになりました。
しかし、新民法の制定には時間がかかるため、暫定的な法律として応急措置法が制定されました。
応急措置法下の代襲相続
| 相続人 | 代襲相続 |
|---|---|
| 子・孫 | あり |
| 兄弟姉妹 | なし |
応急措置法では、兄弟姉妹の代襲相続は認められていませんでした。
これは現在と大きく異なる点です。
③新民法施行(昭和23年1月1日~昭和55年12月31日)
昭和23年に現代の相続制度の基礎となる新民法が施行されました。
この時代の代襲相続
| 相続人 | 代襲相続 |
|---|---|
| 子・孫 | あり |
| 兄弟姉妹 | あり |
兄弟姉妹についても代襲相続が認められるようになりました。
さらに大きな特徴として、現行民法とは異なり、
兄弟姉妹の再代襲も無制限
例えば
- 被相続人の兄死亡
- 兄の子死亡
- 兄の孫死亡
- 兄のひ孫が存在
という場合でも、代襲が何代にもわたって続きます。
そのため相続人調査が極めて複雑になるケースが多くありました。
④昭和56年改正(現行制度の基礎)
昭和55年改正により、昭和56年1月1日から現行制度の基礎が整備されました。
最大の変更点
兄弟姉妹の再代襲が廃止。
兄弟姉妹の子(甥姪)までが代襲相続の対象となりました。
改正前
兄弟姉妹の代襲相続
↓
孫
↓
ひ孫
↓
玄孫
↓
どこまでも続く
改正後
兄弟姉妹
↓
その子まで(甥・姪まで)で終了
現在の民法では、
甥・姪までは代襲相続できますが、甥・姪の子(大甥・大姪)は代襲相続できません。
兄弟姉妹の代襲相続制度の変遷一覧
| 時代 | 適用法 | 兄弟姉妹の代襲相続 | 再代襲相続 | 代襲者の範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 明治31年7月16日~昭和22年5月2日 | 旧民法(家督相続・遺産相続) | なし | なし | なし |
| 昭和22年5月3日~昭和22年12月31日 | 応急措置法 | なし | なし | なし |
| 昭和23年1月1日~昭和55年12月31日 | 現行民法(制定当初) | あり | あり | 無制限 |
| 昭和56年1月1日~現在 | 昭和55年改正民法 | あり | なし |
甥・姪のみ |
なぜ古い相続では注意が必要なのか
例えば、
- 祖父が昭和30年死亡
- 父が昭和50年死亡
- 相続登記未了
というケースでは、
昭和30年当時の法律
を適用しなければなりません。
現在の法律ではありません。
そのため、
- 代襲相続人の範囲
- 法定相続人
- 相続分
が現在と異なることがあります。
実務でよくあるトラブル
ケース1
「甥の子は相続人ではないと思っていた」
実際には、
被相続人が昭和53年に死亡しているので、再代襲あり
↓
甥の子も代襲相続人
ケース2
「応急措置法時代の相続だった」
昭和22年5月3日~12月31日に死亡していた場合、
兄弟姉妹の代襲相続が認められていません。
現在の感覚で相続人を判断すると誤る可能性があります。
司法書士へ相談するメリット
古い相続では、
- 戸籍の読み取り
- 相続人調査
- 法律の適用判断
- 遺産分割協議書作成
- 相続登記
が非常に複雑になります。
特に昭和20年代から50年代の相続が絡む場合は、現行民法だけでは判断できません。
司法書士であれば、
- 被相続人の死亡時期の確認
- 適用法令の判断
- 相続人の確定
- 不動産の名義変更
まで一括してサポートできます。
まとめ
代襲相続制度は、戦前の家制度から現在の個人中心の相続制度へと移行する過程で大きく変化してきました。
特に重要なのは、
- 応急措置法時代は兄弟姉妹の代襲相続なし
- 昭和23年から55年は兄弟姉妹の再代襲あり
- 昭和56年以降は甥・姪までに制限
という点です。
被相続人がかなり前に亡くなっている場合は、現在の民法ではなく当時の法律が適用されます。
相続人の範囲や相続分を誤ると、遺産分割協議や相続登記をやり直すことにもなりかねません。
古い相続や代襲相続が関係する案件では、早めに司法書士へ相談することをおすすめします。
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