再婚家庭では、夫婦それぞれに前の結婚で生まれた子がいる、どちらかに連れ子がいる、現在の夫婦にも子が生まれているなど、家族関係が複雑になることがあります。
日頃は円満に暮らしていても、相続が始まると、それまで表面化していなかった立場や認識の違いが一気に現れることがあります。
特に注意したいのが、「長年会っていない前婚の子には相続権がない」「一緒に育てた連れ子は当然に相続人になる」「自宅は同居している配偶者がそのまま受け継げる」といった思い込みです。家族としての実感と、法律上の相続関係は必ずしも一致しません。
この記事では、再婚家庭で起こりやすい相続トラブルと、その予防策を具体例を交えてわかりやすく解説します。
再婚家庭の相続が複雑になりやすい理由
一般的な相続でも、財産の分け方をめぐって意見が対立することはあります。再婚家庭では、さらに次のような事情が重なりやすくなります。
- 現在の配偶者と前婚の子が、ほとんど会ったことがない
- 前婚の子と現在の家庭との間に、感情的な距離がある
- 現在の配偶者が住む自宅が、亡くなった人の主な財産である
- 連れ子を実の子と同じように育てたが、養子縁組をしていない
- 一部の子だけが介護や生活費の援助を担ってきた
- 生前贈与や住宅購入資金の援助について、家族間の認識が異なる
- 亡くなった人の財産と、現在の配偶者の財産の区別が曖昧である
このような家庭では、単に法定相続分を確認するだけでは十分ではありません。
「誰を相続人として扱うのか」「誰の生活を優先して守るのか」「不動産と現金をどう配分するのか」「二次相続で財産が誰に渡るのか」まで考える必要があります。
前婚の子は、離婚後も相続人になる
父母が離婚しても、親と子の法律上の親子関係はなくなりません。そのため、前の配偶者との間に生まれた子は、離婚後に別居していても、姓や戸籍が変わっていても、長年交流がなくても、実親の相続人になります。
一方、離婚した前の配偶者自身には相続権はありません。
ただし、前婚の子が未成年であれば、その親権者である前の配偶者が法定代理人として相続手続に関与することがあります。結果として、現在の配偶者と前の配偶者が、子の相続を通じて連絡を取り合う場面もあり得ます。
たとえば、亡くなった夫に現在の妻と前婚の子が1人いる場合、遺言書がなければ、法定相続分は妻が2分の1、前婚の子が2分の1です。現在の妻との間にも子が1人いれば、妻が2分の1、子2人がそれぞれ4分の1となります。
連れ子は、当然には相続人にならない
再婚相手の子を幼い頃から育て、実の親子と変わらない関係を築いていても、養子縁組をしていなければ、連れ子と再婚相手との間に法律上の親子関係はありません。そのため、連れ子は再婚相手の法定相続人にはなりません。
同居していること、生活費や学費を負担していること、同じ姓を名乗っていることだけで相続権が生じるわけではない点に注意が必要です。
連れ子に財産を残したい場合には、主に次の方法が考えられます。
- 連れ子と養子縁組をする
- 遺言書を作成し、連れ子への遺贈を定める
- 生命保険の受取人に指定する
- 生前贈与を検討する
ただし、どの方法が適切かは、ほかの相続人の遺留分、相続税や贈与税、家族関係、財産の種類によって異なります。
養子縁組は相続対策だけの制度ではなく、法律上の親子関係を生じさせる重要な身分行為です。相続人が増えることで、ほかの子の相続分にも影響します。税務上の養子の数え方にも独自のルールがあるため、「節税になるらしい」という理由だけで決めるのは避けるべきです。
なお、未成年者を養子とする場合には原則として家庭裁判所の許可が必要ですが、配偶者の直系卑属を養子とする場合などには例外があります(裁判所「養子縁組許可」参照)。実際に養子縁組を検討するときは、年齢、親権、同意の要否などを個別に確認しましょう。
よくある相続トラブル1 現在の配偶者が自宅に住み続けられない
再婚家庭で特に問題になりやすいのが自宅です。たとえば、夫の遺産が次の内容だったとします。
- 自宅不動産 3,000万円
- 預貯金 1,000万円
- 相続人 現在の妻と前婚の子1人
遺産総額は4,000万円で、法定相続分は妻と前婚の子がそれぞれ2,000万円です。妻が自宅を単独で取得すると、自宅だけで妻の法定相続分を1,000万円上回ります。預貯金をすべて前婚の子に渡しても不足するため、妻が代償金を準備する、前婚の子に共有持分を取得してもらう、自宅を売却するなどの選択を迫られる可能性があります。
しかし、前婚の子との不動産共有は、将来の売却、修繕、建替えなどで意見が一致しないリスクがあります。現在の妻に十分な資力がなければ、「住み続けたい妻」と「相続分を受け取りたい前婚の子」との対立が深刻になりかねません。
この問題は、遺言書で自宅を妻に相続させるだけでは完全に解決しないことがあります。前婚の子には遺留分があるためです。上の例では、妻と子が相続人であるため、前婚の子の個別的遺留分は原則として遺産全体の4分の1となり、4,000万円を基礎とする単純な例では1,000万円が目安になります。実際の計算では、一定の生前贈与や債務なども考慮されるため、個別の確認が必要です。
したがって、自宅を妻に残したい場合には、遺言書とあわせて、預貯金や生命保険など、遺留分の支払いに充てられる資金を確保しておくことが重要です。
よくある相続トラブル2 連絡が取れない
遺言書がない場合、原則として相続人全員で遺産分割協議を行います。前婚の子と長年連絡を取っていなくても、その人を除外して手続を進めることはできません。一部の相続人を欠いた遺産分割協議は有効に成立しないためです。
相続が発生した後は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍等を集め、前婚の子を含む相続人を確認します。住所が分からなければ、戸籍の附票などをたどって連絡先を調査することになります。それでも所在が分からない場合には、家庭裁判所の手続が必要となることもあります。
突然届いた手紙で初めて親の死亡を知った前婚の子が、「財産を隠されているのではないか」「署名だけ求められている」と不信感を持つことも珍しくありません。
最初の連絡では、財産目録、評価資料、遺産分割案とその理由をできるだけ明確に示すことが大切です。当事者同士での連絡が難しい場合は、専門家を介して手続を進める方法も検討できます。
よくある相続トラブル3 「いったん妻に全部」が二次相続で裏目に出る
「まずは現在の妻に全財産を相続させ、妻が亡くなったときに子どもたちで分ければよい」と考える方もいます。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
夫の前婚の子は、夫の現在の妻と養子縁組をしていない限り、妻の相続人ではありません。夫の財産をいったん妻が取得すると、その財産は妻自身の財産になります。妻の死亡時には、妻の実子・養子などが相続し、夫の前婚の子は相続できません。
反対に、現在の配偶者へ十分な財産を残さず、前婚の子へ多く配分すれば、配偶者の老後の生活や住まいが不安定になるおそれがあります。
再婚家庭の相続対策では、最初の相続だけでなく、現在の配偶者が亡くなったときの二次相続まで見通して設計する必要があります。
よくある相続トラブル4 介護や生前贈与の評価が食い違う
現在の配偶者や同居の子が長年介護をしてきた一方で、前婚の子は遠方で生活していたというケースでは、「自分たちの貢献が法定相続分に反映されないのは納得できない」という不満が生じやすくなります。反対に、前婚の子から見れば、生活費の負担や預金の引出しが不透明に映ることがあります。
また、住宅購入資金、学費、事業資金などを一部の子に渡していた場合、その贈与を相続でどのように扱うかが争点になることもあります。生前の資金移動は、日付、金額、目的、贈与なのか貸付けなのかを記録し、契約書や振込記録を残しておくことが重要です。
再婚家庭の相続トラブルを防ぐ7つの対策
1.戸籍を確認して家族関係図を作る
まず、法律上の相続人が誰になるかを確認します。前婚の子、認知した子、養子縁組の有無などは、家族の記憶だけで判断せず、戸籍に基づいて整理することが大切です。
2.財産と債務を一覧にする
不動産、預貯金、株式、保険、事業用資産、貸付金、借入金などを一覧にします。不動産は登記事項証明書を確認し、所有者や共有持分、担保の有無を調べましょう。夫婦のお金を同じ口座で管理している場合も、誰の財産なのかを資料で説明できるようにしておきます。
3.遺言書を作成する
再婚家庭では、遺言書の必要性が高いといえます。遺言書によって、自宅を誰に相続させるか、連れ子に何を遺贈するか、預貯金をどう配分するかなどを具体的に定められます。
形式不備や内容の曖昧さを避けたい場合は、公正証書遺言を検討するとよいでしょう。
自筆証書遺言を作成する場合は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、紛失、隠匿、改ざんなどのリスクを抑えられます。ただし、法務局の保管制度は遺言内容の法的な妥当性まで保証する制度ではありません。
4.遺留分を踏まえて配分する
遺言書があれば自由に財産を配分できるのが原則ですが、兄弟姉妹以外の一定の法定相続人には遺留分があります。「妻に全財産を相続させる」「世話をしてくれた子だけに残す」という遺言を作る場合も、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性を検討しなければなりません。
遺留分を侵害する内容が直ちに無効になるわけではありませんが、相続後の金銭請求や感情的対立につながります。誰にどの財産を渡すかだけでなく、請求を受けた人が支払えるかまで試算しておきましょう。
5.遺言執行者を指定する
遺言執行者は、遺言の内容を実現するための手続を担います。現在の配偶者と前婚の子が疎遠な場合には、相続財産の確認、名義変更、金融機関の手続などを円滑に進めるため、遺言書で専門家などを遺言執行者に指定しておく方法があります。
6.生命保険の受取人と資金計画を見直す
生命保険は、現在の配偶者の生活資金や遺留分に対応するための資金を準備する手段の一つです。ただし、契約者、被保険者、受取人の組合せによって税金の扱いが異なります。受取人が離婚した前の配偶者のままになっていないか、保障額が現在の家族構成に合っているかも確認しましょう。
7.家族構成や財産が変わったら見直す
再婚、子の出生、養子縁組、離婚、家族の死亡、不動産の購入・売却などがあれば、以前作成した遺言書や保険の内容が現在の希望と合わなくなることがあります。遺言書は作成して終わりではありません。定期的に内容を確認し、必要に応じて作り直すことが大切です。
付言事項は「理由」を伝えるために活用する
遺言書には、財産の分け方に加えて、家族への思いや配分理由を「付言事項」として記載することができます。付言事項そのものに財産を移転させる法的効力はありませんが、「妻が自宅に住み続けられるようにしたい」「前婚の子を軽視したわけではない」「介護を担った子への感謝を反映した」など、遺言者の考えを伝える役割があります。
ただし、一方の家族を責めたり、感情的な表現を用いたりすると、かえって対立を深めることがあります。付言事項は、残された家族が納得しやすい、穏やかで具体的な文章にすることが重要です。
相続発生後は不動産の名義変更も忘れずに
遺産に不動産がある場合は、遺言書や遺産分割協議の内容に基づいて相続登記を行います。2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。義務化前に発生した相続も対象となるため、再婚家庭で遺産分割が難航している場合も、期限を意識して対応しなければなりません(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」参照)。
期限内に遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記を利用して申請義務を履行する方法もあります。ただし、相続人申告登記をしただけでは、遺産分割の結果に応じた正式な名義変更が完了するわけではありません。遺産分割が成立した後は、その内容を反映した相続登記が別途必要です。
まとめ 再婚家庭では「家族の気持ち」と「法律上の関係」の両方を整理する
再婚家庭の相続トラブルは、家族仲が悪いから起こるとは限りません。仲が良くても、法律上の相続人と家族としての実感が異なることや、自宅以外の財産が少ないことによって、話し合いが難しくなる場合があります。
特に重要なのは、次の点です。
- 前婚の子は、疎遠でも相続人になる
- 連れ子は、養子縁組をしていなければ原則として相続人にならない
- 自宅を配偶者に残す場合は、前婚の子の遺留分と支払資金も考える
- 最初の相続だけでなく、現在の配偶者の二次相続まで検討する
- 遺言書、遺言執行者、生命保険などを組み合わせて設計する
相続対策に唯一の正解はありません。
家族関係、財産内容、今後の生活希望を整理したうえで、早い段階から専門家に相談することが、トラブルを防ぐ第一歩です。
※本記事は一般的な制度の説明です。養子縁組、遺留分、税金などの取扱いは個別事情によって異なるため、具体的な手続は司法書士・弁護士・税理士等の専門家へご相談ください。
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参考リンク
- e-Gov法令検索:民法
- 政府広報オンライン:知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐために
- 法務省:自筆証書遺言書保管制度について
- 裁判所:養子縁組許可
- 国税庁:No.4170 相続人の中に養子がいるとき
- 法務省:相続登記の申請義務化に関するQ&A
- 法務省:相続人申告登記について


