はじめに|「遺言書を書きたいけれど、どちらを選べばよいかわからない」という方へ

相続対策として遺言書を作成したいと思っても、最初に迷いやすいのが「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」のどちらにするか、という点です。

「費用をかけずに自分で書けるなら、自筆証書遺言で十分では?」
「公正証書遺言の方が安心と聞くけれど、そこまでする必要があるの?」
「家族に迷惑をかけないためには、どちらを選べばいい?」

このような疑問を持つ方は少なくありません。

結論からいうと、どちらが絶対に良いというものではありません。財産の内容、家族関係、遺言書に込めたい内容、将来の相続トラブルの可能性によって、適した方法は変わります。

ただし、相続人同士の争いをできるだけ避けたい場合や、不動産がある場合、相続人以外の方へ財産を渡したい場合、家族関係が複雑な場合には、公正証書遺言を選ぶメリットが大きくなります。

この記事では、公正証書遺言と自筆証書遺言の違い、それぞれのメリット・デメリット、どちらを選ぶべきかの判断基準について、京都の司法書士がわかりやすく解説します。

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作成する遺言書です。

遺言者が希望する内容を公証人に伝え、公証人が法律上の形式に沿って遺言書を作成します。作成時には、原則として証人2名の立会いが必要です。

公正証書遺言の大きな特徴は、公的な立場にある公証人が関与して作成される点です。そのため、方式の不備によって無効になるリスクが比較的低く、遺言書の原本も公証役場で保管されます。

自宅で保管する遺言書のように、紛失したり、誰かに隠されたり、破棄されたりする危険を抑えることができます。

また、公正証書遺言は家庭裁判所での検認手続が不要です。
相続開始後、相続人や受遺者が比較的スムーズに預貯金の手続き、不動産の名義変更、遺言執行などに進みやすいというメリットがあります。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で書いて作成する遺言書です。

基本的には、遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印して作成します。紙とペンがあれば作成できるため、費用を抑えやすく、思い立ったときに書ける手軽さがあります。

一方で、自筆証書遺言は法律上の形式を満たしていないと、せっかく書いた遺言書が無効になるおそれがあります。

たとえば、日付が「令和〇年〇月吉日」のように特定できない記載になっていたり、署名押印がなかったり、内容があいまいで不動産や預貯金を特定できなかったりすると、相続手続きで問題になることがあります。

なお、現在は財産目録についてはパソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書のコピーを添付したりする方法も認められています。
ただし、その場合でも財産目録の各ページに署名押印が必要です。

公正証書遺言と自筆証書遺言の主な違い

公正証書遺言と自筆証書遺言には、次のような違いがあります。

1. 作成方法の違い

公正証書遺言は、公証人が関与して公証役場で作成します。遺言者は、財産の内容や誰に何を渡したいかを整理し、公証人との打合せを経て作成する流れになります。

自筆証書遺言は、遺言者本人が自分で書いて作成します。公証人の関与は不要で、自宅でも作成できます。

手軽さでは自筆証書遺言が優れていますが、法律上の正確性や実現性を重視するなら、公正証書遺言の方が安心です。

2. 費用の違い

自筆証書遺言は、自分で作成するだけであれば基本的に費用はほとんどかかりません。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合には、所定の手数料が必要です。

公正証書遺言は、公証役場で作成するため、公証人手数料がかかります。手数料は財産の価額や内容によって変わります。また、専門家に文案作成や事前整理を依頼する場合には、別途報酬が発生します。

費用だけを見ると自筆証書遺言の方が安く済むことが多いですが、「後日のトラブルを防ぐための費用」と考えると、公正証書遺言には大きな意味があります。

3. 無効になるリスクの違い

自筆証書遺言は、形式の不備や内容の不明確さによって無効になったり、実際の相続手続きで使いにくくなったりすることがあります。

たとえば、不動産について「自宅を長男に相続させる」とだけ書いた場合、同じ敷地内に土地と建物が複数あるケースでは、どの不動産を指しているのか問題になることがあります。

また、「預金は妻に任せる」「子どもたちで仲良く分ける」といった表現では、法的に具体的な分け方が不明確になり、相続人同士の協議が必要になることもあります。

公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、方式不備による無効リスクは比較的低くなります。ただし、公正証書遺言であっても、遺留分への配慮や財産の特定、相続税・贈与税との関係など、事前に検討すべき点はあります。

4. 保管方法の違い

公正証書遺言は、原本が公証役場で保管されます。そのため、遺言者本人が正本や謄本を紛失しても、原本がなくなるわけではありません。

一方、自筆証書遺言を自宅で保管する場合、紛失、破棄、隠匿、改ざんのリスクがあります。遺言書を書いた本人が亡くなった後、相続人が遺言書の存在に気づかない可能性もあります。

この点を補う制度として、法務局の自筆証書遺言書保管制度があります。
この制度を利用すると、法務局で遺言書を保管してもらうことができ、紛失や改ざんのリスクを減らすことができます。

ただし、法務局の保管制度は、遺言書の内容が法律的に有効かどうかまで保証する制度ではありません。遺言の内容そのものに不備がある場合には、相続開始後に問題が生じる可能性があります。

5. 家庭裁判所の検認が必要かどうか

自宅で保管されていた自筆証書遺言は、遺言者の死亡後、家庭裁判所で検認手続を行う必要があります。

検認とは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の状態を確認して偽造・変造を防ぐための手続です。遺言書が有効か無効かを判断する手続ではありません。

公正証書遺言は、検認が不要です。

また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している自筆証書遺言も、検認は不要です。

相続開始後の手続きのスムーズさを重視する場合には、公正証書遺言または法務局保管制度を利用した自筆証書遺言が選択肢になります。

自筆証書遺言が向いているケース

自筆証書遺言は、次のようなケースに向いています。

・まずは費用をかけずに遺言書を作成したい
・財産や家族関係が比較的シンプルである
・内容を何度も見直しながら作成したい
・自分の気持ちを手書きで残したい
・将来的に公正証書遺言を作る前のたたき台として作成したい

たとえば、相続人が配偶者と子ども1人だけで、財産も自宅と預貯金が中心というような比較的シンプルなケースでは、自筆証書遺言でも対応できる場合があります。

ただし、自筆証書遺言を選ぶ場合でも、法務局の保管制度の利用を検討することをおすすめします。自宅保管のままだと、紛失や発見されないリスクが残るためです。

また、文案を作成する前に、専門家に内容を確認してもらうことで、相続手続きで使いにくい遺言書になるリスクを減らすことができます。

公正証書遺言が向いているケース

公正証書遺言は、次のようなケースに向いています。

・不動産を所有している
・相続人が複数いる
・相続人同士の関係に不安がある
・特定の相続人に多く財産を残したい
・相続人以外の人に財産を渡したい
・内縁の配偶者、お世話になった人、法人などに遺贈したい
・再婚、前婚の子、認知した子など家族関係が複雑である
・遺留分に配慮した内容にしたい
・遺言執行者を指定しておきたい
・相続開始後の手続きをできるだけスムーズにしたい

特に、不動産がある場合は注意が必要です。

不動産は、預貯金のように単純に金額で分けにくい財産です。土地と建物の名義、共有持分、私道、未登記建物、固定資産評価証明書と登記事項証明書の記載の違いなど、確認すべき点が多くあります。

遺言書の不動産の記載が不十分だと、相続登記の際に法務局で補正が必要になったり、相続人間で追加の協議が必要になったりする可能性があります。

そのため、不動産を含む遺言書を作成する場合は、公正証書遺言を基本に検討するのがおすすめです。

「費用が安いから自筆証書遺言」で本当に大丈夫?

自筆証書遺言は、費用面では魅力があります。しかし、遺言書は「書くこと」だけが目的ではありません。

本当に大切なのは、遺言者が亡くなった後、その内容どおりに相続手続きが進むことです。

せっかく遺言書を書いても、次のような状態では、かえって相続人を困らせてしまうことがあります。

・財産の書き方が不明確
・相続させる人の記載があいまい
・日付や押印など形式に不備がある
・遺留分への配慮がない
・相続人の一部に強い不満が出る内容になっている
・不動産の記載が登記事項証明書と一致していない
・遺言執行者が指定されていないため手続きが進めにくい

遺言書は、家族への最後のメッセージであると同時に、相続手続きを進めるための重要な法律文書です。

費用だけで選ぶのではなく、「残された家族が困らないか」「相続手続きで使える内容になっているか」という視点で考えることが大切です。

公正証書遺言にしておいた方がよい代表的なケース

次のような場合は、特に公正証書遺言をおすすめします。

1. 子ども同士の仲があまり良くない

相続人同士の関係が良くない場合、遺言書の内容が少しでもあいまいだと、争いの火種になることがあります。

「長男に自宅を継がせたい」「長女には預貯金を多めに残したい」など、具体的な希望がある場合は、公正証書遺言で明確にしておく方が安心です。

2. 不動産を特定の相続人に相続させたい

自宅不動産を同居している子に相続させたい場合や、事業用不動産を特定の人に承継させたい場合には、遺言書の記載を正確にする必要があります。

不動産は、所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積など、登記事項証明書に基づいて特定することが重要です。

3. 相続人以外の人に財産を渡したい

内縁の配偶者、長男の妻、お世話になった友人、施設、団体など、法定相続人ではない人に財産を渡したい場合、遺言書が非常に重要になります。

遺言書がない場合、原則として相続人以外の人は遺産を取得できません。

このような場合は、内容の正確性が特に重要になるため、公正証書遺言を検討した方がよいでしょう。

自筆証書遺言を作るなら注意したいポイント

自筆証書遺言を作成する場合は、次の点に注意しましょう。

・全文、日付、氏名を自書する
・押印を忘れない
・日付は「令和〇年〇月〇日」と明確に書く
・財産はできるだけ具体的に特定する
・不動産は登記事項証明書を確認して記載する
・預貯金は金融機関名、支店名、口座番号などを確認する
・誰に何を相続させるのかを明確に書く
・遺言執行者の指定を検討する
・法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用を検討する
・作成後も財産や家族関係の変化に応じて見直す

特に、不動産がある場合は、登記簿上の記載と遺言書の記載が一致しているかを確認することが重要です。

「住所」と「地番」は異なることがほとんどです。
普段使っている住所だけで不動産を記載すると、相続登記の際に不動産の特定が問題になることがあります。

司法書士に相談するメリット

司法書士は、不動産登記や相続手続きに関わる専門職です。

遺言書を作成する際には、「その遺言書で将来きちんと相続登記ができるか」「不動産の記載が正確か」「相続人や財産の整理ができているか」という視点が重要になります。

司法書士に相談することで、次のようなサポートを受けることができます。

・相続人関係の整理
・不動産の登記事項の確認
・遺言内容の整理
・公正証書遺言作成前の文案整理
・公証役場との打合せ準備
・遺言執行者の検討
・相続登記を見据えた記載内容の確認
・遺言書作成後の見直し相談

遺言書は、書いて終わりではありません。将来の相続手続きで実際に使える内容にしておくことが大切です。

結論|安心重視なら公正証書遺言

公正証書遺言と自筆証書遺言には、それぞれメリットがあります。

費用を抑えて手軽に作成したい場合は、自筆証書遺言が選択肢になります。特に、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、紛失や改ざん、検認手続きの負担を減らすことができます。

一方で、確実性、保管の安全性、相続開始後の手続きのしやすさ、相続トラブルの予防を重視するなら、公正証書遺言がおすすめです。

特に、不動産がある方、相続人が複数いる方、家族関係に不安がある方、相続人以外に財産を渡したい方は、公正証書遺言を前向きに検討するとよいでしょう。

遺言書は、残された家族への大切な配慮です。

「まだ早い」と思っているうちに、判断能力や体調の問題で作成が難しくなることもあります。元気なうちに、自分の希望を整理し、家族が困らない形で備えておくことが大切です。

京都・東寺近くの不動リーガルオフィスでは、遺言書作成や相続対策に関するご相談を承っております。公正証書遺言にするべきか、自筆証書遺言でもよいか迷っている方も、お気軽にご相談ください。

ご相談のご案内

京都・東寺近くの不動リーガルオフィスでは、相談のご予約受付中です。
初回相談無料
土日祝も相談可能
京都市内は出張料無料

参考リンク

政府広報オンライン:知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方

法務省:自筆証書遺言書保管制度

法務省:遺言書保管制度とは?

裁判所:遺言書の検認

日本公証人連合会:遺言