「高齢の親が一人で実家に暮らしている」

「親が施設に入ったら、実家をどうすればよいのかわからない」

「兄弟はいるものの、誰も実家に住む予定がない」

このような場合、まだ実家に親が住んでいるとしても、「空き家になる前の生前対策」を考えておくことが大切です。

空き家問題というと、すでに誰も住んでいない建物について、売却する、解体する、管理するといった対策をイメージする方が多いかもしれません。

しかし、実務上は、家が空き家になった後よりも、所有者本人が元気で判断能力が十分にあるうちの方が、選択できる対策は多くあります。

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年の全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%となり、いずれも過去最高となりました。また、賃貸用・売却用・別荘などを除いた空き家も約385万戸に達しています。

国土交通省も、空き家の発生原因の半数以上が相続によるものであるとして、親が元気なうちから「誰が住むのか」「売るのか」「貸すのか」「解体するのか」などを家族で話し合っておくことの重要性を案内しています。

この記事では、親の家や自宅を将来「放置空き家」にしないために、空き家になる前から始めておきたい7つの生前対策について、司法書士の視点からわかりやすく解説します。

1.空き家問題は「誰も住まなくなった日」から始まるわけではない

空き家になるきっかけとして多いのが、高齢の親の施設入所や死亡です。

例えば、父親が亡くなった後、母親が一人で実家に暮らしている家庭を考えてみましょう。

子どもたちはそれぞれ別の地域に自宅を持っており、実家へ戻る予定はありません。

母親が元気なうちは特に問題がないように見えます。

ところが、母親が突然入院し、そのまま介護施設へ入所することになれば、その日から実家には誰も住まなくなる可能性があります。

その段階になって、

「家を売ろう」

「いや、思い出があるから残したい」

「誰が管理するのか」

「固定資産税は誰が払うのか」

「母が認知症になっているが、家を売れるのか」

という問題が一気に表面化することがあります。

つまり、空き家問題は、実際に家が空いたときに突然発生するのではありません。

家の将来について何も決めないまま時間が経過していたことが、後になって問題として現れるのです。

だからこそ、空き家対策は「空き家になってから」ではなく、「空き家になる可能性が見えてきた段階」から始めることが重要です。

2.放置された空き家にはさまざまなリスクがある

誰も住まなくなった住宅は、人が住んでいる住宅よりも劣化しやすい傾向があります。

換気がされなくなり、雨漏りや湿気による建物の傷みに気付きにくくなります。

庭がある住宅では、雑草や樹木が伸び、隣地や道路へ越境することもあります。

さらに、

・屋根材や外壁が落下する
・害虫や害獣が発生する
・不法投棄される
・不審者が侵入する
・庭木が隣地へ越境する
・台風などで建物の一部が飛散する

といった問題につながる可能性があります。

2023年12月13日に施行された改正空家等対策特別措置法では、「管理不全空家等」という仕組みも設けられました。
適切な管理が行われず、このまま放置すれば「特定空家等」になるおそれがある空き家について、市区町村が指導・勧告などを行うことができます。

管理不全空家等や特定空家等について市区町村から勧告を受けると、その敷地は固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外されることがあります。

「誰も住んでいないけれど、とりあえずそのままにしておく」という判断にも、管理責任や費用負担が伴うことを理解しておく必要があります。

3.生前対策① 親が元気なうちに「家をどうしたいか」を聞く

最初に行いたいのは、いきなり遺言書や家族信託を作ることではありません。

まず、所有者本人が家についてどう考えているのかを確認することです。

例えば、

「自分が住めなくなったら売って構わない」

「できれば長男に住んでもらいたい」

「子どもたちが使わないなら処分してほしい」

「先祖からの土地なので残してほしい」

など、本人によって希望は異なります。

ここで注意したいのは、「親の希望」と「子どもの現実」が一致しているとは限らないことです。

親は「長男が実家を継いでくれる」と思っていても、長男はすでに遠方に自宅を購入しており、実家へ戻る予定がないこともあります。

その状態で相続が発生すると、家を残すか売るかというところから兄弟で話し合わなければなりません。

国土交通省では、日本司法書士会連合会などと共同で「住まいのエンディングノート」を作成しており、住まいや土地の情報、将来どのようにしてほしいかなどを記録し、家族で話し合うことを推奨しています。

家族会議では、「誰に相続させるか」だけでなく、

・将来誰かが住むのか
・誰も住まない場合は売却するのか
・いつ頃売却するのか
・それまで誰が管理するのか
・固定資産税や修繕費は誰が負担するのか

まで話しておくと、より実践的な空き家対策になります。

4.生前対策② まず登記名義を確認する

空き家になる可能性がある住宅については、現在の登記名義を確認しておきましょう。

「父の家だと思っていたら、土地は亡くなった祖父名義だった」

「建物は父名義だが、土地は祖父と伯父の共有だった」

「昔の住宅ローンの抵当権が登記簿に残っていた」

ということは実際にあります。

登記事項証明書を取得すると、

・土地の所有者
・建物の所有者
・共有者の有無
・持分割合
・抵当権などの担保権

などを確認できます。

特に注意したいのが、過去の相続登記が終わっていないケースです。

例えば、祖父名義の土地について相続登記をしないまま父も亡くなれば、祖父の相続と父の相続を整理しなければならなくなる場合があります。

相続が何世代も重なると、相続人が増え、戸籍収集や遺産分割協議も複雑になりやすくなります。

2024年4月1日から相続登記の申請は義務化されています。

相続によって不動産を取得した相続人は、自分のために相続が開始したことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。

正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

また、2024年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象となっており、すでに相続したことを知っていた不動産で相続登記をしていない場合には、2027年3月31日までに対応する必要があります。

「昔の相続だから登記しなくてもよい」ということではありません。

生前対策を考える際には、まず現在の権利関係がどうなっているのかを確認しておくことが重要です。

5.生前対策③ 誰も住まないなら「生前売却」も選択肢になる

子どもたちの誰も実家に住む予定がなく、所有者本人も将来的に自宅へ戻る可能性が低い場合には、本人が判断できるうちに売却する方法も考えられます。

生前売却には、

・本人自身の意思で売却できる
・売却代金を介護施設費や生活費に充てられる
・将来の空き家管理が不要になる
・相続人が不動産処分について話し合う必要がなくなる

といったメリットがあります。

一方、「まだ住んでいる家をすぐ売らなければならない」という意味ではありません。

重要なのは、

「施設へ入所したら売却する」

「○年間は維持する」

「子どもが利用しなければ売却する」

といった出口をあらかじめ考えておくことです。

売却する可能性があるなら、境界、接道状況、建物の状態、登記名義なども早めに確認しておくとよいでしょう。

長期間放置して建物が大きく傷んでから売却活動を始めるより、本人と家族に選択肢がある段階で検討する方が進めやすい場合があります。

6.生前対策④ 遺言書で「誰が実家を取得するか」を明確にする

自宅を死亡後も残すのであれば、遺言書の作成も選択肢となります。

例えば、父親が亡くなり、相続人が子ども3人だったとします。

遺言書がなく、実家を誰が取得するか決まっていなければ、3人で遺産分割協議をする必要があります。

長男は「実家をそのまま残したい」

長女は「誰も住まないなら誰かに貸したい」

次男は「自分は管理できないので早く処分したい」

このように意見が分かれると、適切な対策がとれなくなります。

その間にも建物は老朽化し、固定資産税や管理費用は発生します。

そこで、「自宅の土地建物は長男に相続させる」など、誰が不動産を取得するのかを遺言書で明確にしておく方法があります。

遺言書を作成する場合には、自筆証書遺言、公正証書遺言など、それぞれの特徴を理解して方法を選択することが大切です。

自筆証書遺言については、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法もあります。

法務局で保管された遺言書については、家庭裁判所での検認が不要となり、遺言書の紛失や改ざん等を防ぐ点でもメリットがあります。

7.生前対策⑤ 認知症で家を売れなくなるケースを想定する

空き家対策で特に重要なのが、認知症対策です。

例えば、高齢の母親が自宅を所有しており、その後介護施設へ入所したとします。

子どもたちは、

「もう自宅へ戻る予定がないので、家を売って施設費用に充てよう」

と考えるかもしれません。

しかし、自宅の所有者は母親です。

子どもだからといって、母親の不動産を自由に売却することはできません。

不動産売買には所有者本人の意思確認が必要です。

本人が売却の意味や契約内容について必要な判断能力を欠く状態になっている場合、本人自身による売却が困難になります。

このような事態に備える制度の一つが「任意後見」です。

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、誰にどのような事務を任せるのかを公正証書による契約で決めておく制度です。

本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると任意後見契約の効力が生じます。

そのほか、家族構成や財産内容によっては、財産管理委任契約や民事信託・家族信託などを検討することもあります。

例えば家族信託では、自宅を信頼できる家族に信託し、信託契約で定めた目的や権限に従って管理・処分する仕組みを設計します。

ただし、「認知症対策=家族信託」と単純に考えるべきではありません。

任意後見と家族信託では役割が異なります。

また、財産管理だけでなく、施設契約など本人の生活面の支援も含めて考える必要がある場合があります。

本人の年齢、健康状態、家族関係、財産額、不動産の将来の利用方法などを確認し、必要な制度を組み合わせることが重要です。

8.生前対策⑥ 安易な共有名義を避ける

空き家となる可能性がある不動産について、特に注意したいのが共有です。

例えば、父親の自宅を子ども3人がそれぞれ3分の1ずつ相続したとします。

一見すると公平に見えます。

しかし、後になって長男が、「もう建物が古いので売却したい」と考えても、他の共有者との調整が必要になります。

長女は売却に賛成していても、次男が、「父の家を残しておきたい」と考えることもあります。

さらに共有者の一人が亡くなれば、その持分がその人の配偶者や子どもへ相続され、共有者がさらに増える可能性があります。

時間が経つほど権利関係が複雑になり、空き家を処分しにくくなることがあります。

不動産について、「兄弟全員で持てば公平だから」という理由だけで共有にするのではなく、

・将来誰が利用するのか
・誰が管理するのか
・売却するときに意思決定できるか
・次の相続が発生したらどうなるか

まで考えることが大切です。

遺言書を作成する場合にも、単に法定相続分に合わせるのではなく、不動産の将来利用を考慮した承継方法を検討する必要があります。

9.生前対策⑦ 不動産の情報と重要書類を家族に残す

生前対策というと、遺言や契約を思い浮かべる方が多いですが、「情報を整理しておくこと」も非常に重要です。

例えば、

・固定資産税納税通知書
・登記識別情報通知
・昔の権利証
・売買契約書
・境界確認書
・測量図
・建築確認関係書類
・住宅ローン関係書類
・火災保険関係書類
・賃貸している場合の賃貸借契約書

などをまとめておくと、将来の相続手続きや売却手続きを進めやすくなります。

また、自宅以外の土地を本人しか把握していない場合もあります。

例えば、

「地方に祖父から相続した山林がある」

「昔購入した土地がある」

「親族と共有している農地がある」

といった場合です。

本人が元気なうちに、

「どこに、どのような不動産を持っているのか」

を一覧にしておくと、相続発生後の財産調査の負担を減らせます。

2026年2月2日からは、相続人などが一定の要件のもと、被相続人等の所有不動産を一覧的に把握するための「所有不動産記録証明制度」も始まっていますが、生前から本人が情報を整理して家族に伝えておくことの重要性は変わりません。

10.「とりあえず空き家のまま」が一番危ないこともある

実家について、

「すぐに売る必要はない」

「数年考えてから決めよう」

という選択そのものが間違っているわけではありません。

しかし、その場合でも管理方法は決めておかなければなりません。

誰も住まない家でも、

・固定資産税
・火災保険料
・修繕費
・庭木の剪定費
・建物の点検費用
・水道や電気などの費用

が発生します。

また、遠方に住む相続人が定期的に実家へ通うのであれば、交通費や時間的負担も生じます。

「思い出があるから残す」という判断をするのであれば、

「誰が管理するのか」

「費用を誰が負担するのか」

「何年間残すのか」

「どの時点で売却や解体を検討するのか」

まで決めておくことをおすすめします。

「何も決めないまま残す」ことと、「将来計画を立てたうえで残す」ことは全く違います。

11.空き家になる前に相談した方がよい5つのケース

次のような場合には、早めに生前対策を検討するとよいでしょう。

① 高齢の親が実家で一人暮らしをしている

急な入院や施設入所によって、突然実家が空き家になる可能性があります。

② 子ども全員が別に自宅を持っている

誰も実家へ戻る予定がない場合、相続後の利用方法を早めに考えておく必要があります。

③ 子どもが複数いる

相続後、誰が実家を取得するのかについて意見が分かれる可能性があります。

④ 親の物忘れが増えてきた

遺言、任意後見契約、家族信託など、本人に必要な判断能力がある段階でなければ利用できない対策があります。

⑤ 親名義以外の不動産がある

祖父母名義の不動産や共有不動産などがある場合、権利関係の整理に時間がかかることがあります。

「まだ空き家になっていないから相談するのは早い」ということはありません。

むしろ、まだ空き家になっていない時期だからこそ、選択肢が多く残されています。

12.遺言・任意後見・家族信託は目的が違う

生前対策の相談では、

「遺言と家族信託のどちらがいいですか」

「任意後見をすれば遺言はいりませんか」

と質問されることがあります。

しかし、それぞれ目的が異なります。

遺言は、主として本人が亡くなった後に財産を誰へ承継させるのかを決めるものです。

任意後見は、将来本人の判断能力が低下した場合に、契約で定めた範囲の事務を任意後見人に任せるための制度です。

家族信託は、一定の財産について、その管理・処分方法を信託契約によって設計する方法です。

したがって、

「どの制度が一番優れているか」

ではなく、

「何に備えたいのか」

から考えることが重要です。

例えば、

死亡後に長男へ自宅を承継させたい
→遺言を検討する

認知症になった後の財産管理にも備えたい
→任意後見等を検討する

特定の不動産について家族による管理・処分の仕組みを作りたい
→家族信託等を検討する

というように目的を整理します。

実際には複数の制度を組み合わせることもあります。

13.空き家対策は「家」だけでなく「相続全体」で考える

実家だけを見て対策を考えると、うまくいかないことがあります。

例えば、財産が、

自宅   2,000万円
預貯金     500万円

で、子どもが2人いる場合を考えてみます。

長男へ自宅を相続させる遺言を作成すると、長男と次男の取得財産額には大きな差が生じます。

このような場合には、他の財産の配分や遺留分なども含めて検討する必要があります。

生命保険を活用したり、預貯金の配分を調整したりすることが適切なケースもあります。

空き家対策とは、単に「家をどう処分するか」ではありません。

相続人、預貯金、保険、他の不動産、将来の介護費用などを含めて考えることで、より現実的な生前対策になります。

14.空き家になる前の「今」が一番動きやすい

空き家対策で最も大切なのは、本人が元気なうちに考えることです。

本人に十分な判断能力があり、家族とも話ができる時期であれば、

・売却する
・住み続ける
・子どもに引き継ぐ
・賃貸する
・遺言書を作る
・任意後見契約をする
・家族信託を検討する
・不動産資料を整理する

など、さまざまな選択肢があります。

一方、本人の判断能力が大きく低下した後や相続が発生した後では、本人だからこそ選べた方法が利用できなくなることがあります。

「まだ親は元気だから何もしなくてよい」

ではなく、

「元気だからこそ今後について話せる」

と考えることが重要です。

まとめ|空き家になる前の生前対策は「家の出口」を決めることから

空き家になる前に考えておきたい生前対策をまとめると、次の7つです。

1.本人と家族で家の将来について話し合う

2.土地・建物の現在の登記名義を確認する

3.必要に応じて生前売却を検討する

4.遺言書で誰が不動産を取得するか決めておく

5.認知症に備えて任意後見や家族信託等を検討する

6.将来処分しにくくなる共有を安易に選択しない

7.不動産情報や重要書類を整理して家族へ伝える

空き家問題では、「どの制度を利用するか」から考えるのではなく、

「本人が住めなくなったら家をどうしたいのか」

「本人が亡くなったら誰に引き継いでもらいたいのか」

「引き継いだ人はその家をどうするのか」

という家の将来像を考えることが出発点です。

そのうえで、遺言、任意後見、家族信託、相続登記など必要な手続きを組み合わせていきます。

特に、高齢の親が一人暮らしをしており、子どもたちが実家へ戻る予定がない場合には、親が元気なうちに一度、家族で話し合っておくことをおすすめします。

空き家になってから慌てて対策を始めるのではなく、空き家になる前に「家の出口」を決めておくことが、将来の相続人の負担を減らす第一歩です。

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参考リンク

総務省統計局:令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果

国土交通省:住まいのエンディングノートについて

国土交通省:空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について

法務省:相続登記の申請義務化について

法務省:成年後見制度・成年後見登記制度Q&A「任意後見制度について」

京都地方法務局:自筆証書遺言書保管