自宅の駐車場に入るには、隣地の一部を通らなければならない

これまで通れていた通路に、隣人が車を駐車するようになった

隣地所有者が代わり、突然ポールやチェーンを設置された

このような駐車場をめぐる隣地トラブルでは、「地役権」が重要な問題になることがあります。

ただし、同じ駐車場に関する問題でも、隣地を通って自分の土地にある駐車場へ出入りする権利と、隣地そのものに車を駐車する権利は、法的には別の問題です。

「長年使ってきたから当然に通れる」「売買契約書に通行できると書いてあるから大丈夫」と思っていても、地役権の目的や範囲、登記の有無によって結論が変わることがあります。

この記事では、駐車場に出入りするための通行地役権、隣人による駐車やポール設置、未登記の地役権、時効取得、トラブルが発生したときの確認事項などをわかりやすく解説します。

地役権とはどのような権利か

地役権とは、ある土地の利用価値を高めるために、他人の土地を一定の目的に従って利用する権利です。

民法第280条は、地役権者が設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有すると定めています。

地役権では、次の2種類の土地が登場します。

  • 要役地(ようえきち)
    他人の土地を利用することによって便益を受ける土地
  • 承役地(しょうえきち)
    他人の土地のために利用される土地

例えば、Aさんの自宅敷地にある駐車場へ入るため、隣人Bさんの土地の一部を通路として利用する場合、Aさんの土地が要役地、Bさんの土地が承役地となります。

地役権には通行地役権、引水地役権、送電線路の設置を目的とする地役権などがあります。
駐車場との関係で最も多く問題になるのは、自動車による通行を目的とする「通行地役権」です。

「駐車場へ通る権利」と「隣地に駐車する権利」は異なる

駐車場に関する地役権を考えるときは、まず次の2つを区別する必要があります。

隣地を通って自分の駐車場へ入る場合

自宅敷地や所有する土地に駐車場があり、その駐車場へ出入りするために隣地を通行するケースです。

この場合は、隣地について「自動車による通行を目的とする地役権」を設定する方法が考えられます。

契約や登記では、単に「通行」とするのではなく、必要に応じて次のような内容を明確にします。

  • 徒歩だけでなく自動車による通行を認めるか
  • 通行できる土地の範囲と幅員
  • 普通乗用車、軽自動車、トラックなど車両の種類
  • 家族、来客、賃借人、従業員なども利用できるか
  • 24時間通行できるか
  • 舗装、補修、除雪などの費用を誰が負担するか
  • 門扉、チェーン、ポールなどを設置する場合の取扱い
  • 駐車や荷物の放置を禁止するか

内容を曖昧にすると、「徒歩での通行しか認めていない」「来客の車は対象外である」「営業用車両の通行までは認めていない」といった争いにつながります。

隣地そのものに車を駐車する場合

一方、隣地の一部を駐車スペースとして継続的・独占的に使う場合は、通行地役権とは性質が異なります。

通行地役権は、承役地を通行目的の範囲で利用する権利であり、承役地の一定部分を排他的に占有する権利ではありません。
したがって、通行地役権があるからといって、その通路に車を置いてよいことにはなりません。

隣地上に駐車スペースを確保するのであれば、土地賃貸借、使用貸借、土地の一部の売買・分筆など、利用実態に合った方法を検討する必要があります。

単なる駐車利用を地役権として構成できるかについては、「自己の土地の便益」といえるか、承役地をどの程度独占するのかなどの問題があるため、慎重な判断が必要です。

駐車場をめぐって起こりやすい地役権トラブル

1.隣人が通路に車を駐車するようになった

典型的なのが、通行地役権の設定された通路に、承役地所有者やその家族が車を駐車するケースです。

隣人から「車が横を通れる幅は残している」「短時間の駐車だから問題ない」と言われることがあります。しかし、駐車によって切り返しが難しくなる、車体や塀に接触する危険が生じる、緊急車両が入れないなどの事情があれば、通行地役権の侵害になる可能性があります。

特に、通路全体が地役権の範囲となっている場合には、一応通れる幅が残っているだけで、当然に妨害が否定されるわけではありません。

2.ポールやチェーン、植木鉢を置かれた

承役地所有者が、無断駐車や防犯を理由にポール、チェーン、門扉、植木鉢などを設置することがあります。

承役地の所有者にも土地を利用する権利がありますが、地役権者による契約目的に沿った通行を不当に妨げることはできません。

ただし、門扉を設けても鍵を共有し、通常の通行に支障がない場合など、設置物の存在だけで直ちに地役権侵害になるとは限りません。
地役権の目的、通路の幅、設置位置、開閉方法、通行頻度などを具体的に検討する必要があります。

3.「徒歩の通行だけ」「自動車は認めていない」と言われた

古い地役権設定契約や登記では、目的が単に「通行」と記載され、自動車による通行まで含まれるか明確でないことがあります。

この場合は、契約締結時の事情、通路の幅や構造、従来の利用方法、要役地上の建物の用途、当事者の認識などを踏まえて判断されます。

長年自動車で通行していたという事実は重要ですが、それだけで必ず自動車通行が認められるとは限りません。
逆に、通路が当初から自動車の出入りを予定して造成されていたなどの事情があれば、自動車通行を含むと解釈される可能性があります。

4.住宅を店舗や月極駐車場に変更した

地役権は、設定行為で定めた目的の範囲内で行使しなければなりません。

当初は一戸建て住宅の自家用車1台を想定していたところ、要役地が店舗、事務所、共同住宅、月極駐車場などに変わり、多数の車両が通行するようになれば、承役地の負担が大きくなります。

利用方法の変更が直ちに地役権の範囲外になるわけではありませんが、車両の台数、種類、通行頻度、騒音、安全性、契約時の想定などによっては争いになる可能性があります。

将来、要役地の用途変更や建替えを予定している場合は、現在の地役権で十分かを事前に確認することが重要です。

5.隣地の所有者が代わり、通行を拒否された

「前の所有者からは通ってよいと言われていた」というケースも少なくありません。

地役権設定契約があっても登記がなければ、承役地を取得した第三者との関係で問題が生じます。
不動産に関する物権の取得・変更は、原則として登記をしなければ第三者に対抗できないためです。

最高裁は、通路として継続的に使用されていることが土地の位置、形状、構造などから客観的に明らかであり、承役地の譲受人がその事実を認識していたか、認識できた場合には、譲受人が未登記を主張できないことがあるとの判断を示しています。

もっとも、これは具体的事情に基づく例外的な判断です。
「通路を見れば分かるから、登記をしなくても大丈夫」と考えるのは危険です。所有者の変更後も安定して通行するためには、地役権設定登記をしておくことが基本です。

6.地役権の範囲が現地と一致していない

承役地の一部だけに地役権を設定している場合、登記記録だけでなく地役権図面の確認が必要です。

現地で利用している通路と登記された範囲がずれている、契約書に手書きされた図面しかない、塀や側溝の工事によって通路の形状が変わっているといったケースがあります。

このような状態を放置すると、売却、相続、建替え、融資の際に問題が表面化します。

通路への恒常的な駐車を地役権侵害とした最高裁判例

駐車と通行地役権の関係について、重要な判例が最高裁平成17年3月29日判決です。

この事件では、自動車による通行を目的とする地役権が設定された通路に、隣接地の所有者が恒常的に車を駐車していました。駐車後も約3メートル余りの幅が残り、車両が横を通ること自体は可能でした。

しかし最高裁は、通路全体について通行目的の限度で自由に使用できる内容の地役権であることなどを踏まえ、車両を恒常的に駐車して通路の一部を独占的に使用することは、地役権者の通行を妨げるとして、地役権侵害を認めました。

この判例から分かる重要な点は、次の2点です。

  • 横を通れるだけで、必ず通行妨害が否定されるわけではない
  • 地役権者も、通行妨害の禁止を超えて承役地のあらゆる目的外使用を禁止できるわけではない

つまり、地役権者が承役地を全面的に支配できるわけではありません。あくまでも、設定された通行目的を実現するために必要な範囲で、妨害の排除や予防を求められるということです。

地役権設定登記では何を確認するのか

地役権設定登記を確認するときは、承役地だけでなく、要役地の登記記録も取得します。

不動産登記法第80条では、地役権の登記事項として、要役地、地役権設定の目的、範囲などが定められています。

実務では、次の資料を確認します。

  • 要役地と承役地の登記事項証明書
  • 公図
  • 地積測量図
  • 地役権図面
  • 地役権設定契約書
  • 過去の売買契約書や重要事項説明書
  • 私道に関する合意書や通行承諾書
  • 建築確認関係資料
  • 現地の通路幅、塀、側溝、門扉などの状況

特に、登記された目的が「通行」であるのか「自動車の通行」であるのか、承役地の全部が対象なのか一部だけなのかが重要です。

承役地の一部を対象として地役権を設定する場合は、対象範囲を地役権図面によって明確にする必要があります。

長年通っていれば地役権を時効取得できるのか

「20年以上通っているから、通行地役権を時効取得しているはずだ」という相談もあります。

しかし、単に長期間、隣地を通行してきただけで通行地役権を時効取得できるとは限りません。

民法第283条では、時効取得できる地役権を「継続かつ表現のもの」に限定しています。最高裁判例では、通行地役権についてこの継続性が認められるためには、原則として承役地上に通路が開設され、その通路が要役地所有者によって開設されたことが必要とされています。

隣人の好意や黙認で既存の道を通っていただけの場合は、地役権の時効取得が認められない可能性があります。

時効取得を主張する場合には、次のような事実や証拠が問題になります。

  • 誰が通路を開設したのか
  • 誰が舗装や補修費用を負担したのか
  • いつからどのように通行してきたのか
  • 承役地所有者の許可に基づく通行だったのか
  • 通路の存在が外部から客観的に分かる状態だったか
  • 通行の開始時期を示す写真、契約書、領収書などがあるか

時効取得の成否は個別事情に大きく左右されるため、長年の利用だけで判断しないことが大切です。

袋地の通行権と通行地役権は別の制度

土地が他の土地に囲まれて公道に通じていない場合には、民法第210条以下の「公道に至るための他の土地の通行権」が問題になることがあります。以前は一般に「囲繞地通行権」と呼ばれていた制度です。

これは当事者の地役権設定契約がなくても、一定の要件の下で法律上認められる通行権です。

一方、通行地役権は、当事者間の設定契約によって成立します。

また、建築基準法上の道路に指定されていることと、私法上、自動車で自由に通行できる権利があることも同じではありません。

次の制度を混同しないように注意しましょう。

  • 契約による通行地役権
  • 公道に至るための他の土地の通行権
  • 賃貸借や使用貸借に基づく通行
  • 通行承諾書による債権的な権利
  • 建築基準法上の道路指定
  • 位置指定道路などに関する人格権的な通行利益

どの権利が成立しているかによって、通行できる範囲や第三者への主張、妨害排除の可否が変わります。

駐車場の地役権トラブルが起きたときの対処法

1.登記記録と契約書を確認する

最初に行うべきことは、感情的に抗議することではなく、権利関係を正確に確認することです。

要役地と承役地の登記事項証明書、地役権図面、設定契約書、売買契約書、重要事項説明書などを集めます。

「地役権があると思っていたが、実際は通行承諾書だけだった」というケースもあります。

2.現地の状況を記録する

駐車車両やポールなどによって通行が妨げられている場合は、次の事項を記録しておきます。

  • 写真や動画
  • 撮影日時
  • 通路の幅
  • 駐車車両の位置
  • 通行時に必要となる切り返しの回数
  • 車両や建物に接触する危険性
  • 妨害が発生した回数と時間帯
  • 隣人との話合いや通知の内容

一時的な駐車なのか、恒常的な駐車なのかも重要です。

3.勝手に車両やポールを撤去しない

地役権があると考えていても、相手の車両を移動させたり、ポールやチェーンを勝手に撤去したりすることは避けるべきです。

器物損壊や損害賠償など、別のトラブルに発展するおそれがあります。まずは書面で通行妨害の解消を求め、必要に応じて専門家へ相談しましょう。

4.話合いの内容を書面化する

近隣関係を維持するため、話合いによる解決が適しているケースもあります。

合意する場合は、口約束で終わらせず、次の事項を書面にします。

  • 通行できる土地の範囲
  • 通行できる車両の種類
  • 通行できる人の範囲
  • 駐車や物品放置の禁止
  • 門扉や鍵の管理方法
  • 舗装・補修費用の負担
  • 所有者が代わった場合の取扱い
  • 地役権設定登記への協力義務

将来の売却や相続も考えると、単なる通行承諾ではなく、地役権設定契約と登記を検討すべきです。

5.紛争性が高い場合は弁護士とも連携する

司法書士は、登記記録や図面の確認、地役権設定契約書の作成、地役権設定登記などを取り扱います。

一方、隣人が権利の存在を全面的に争っている、妨害排除請求や損害賠償請求が必要であるなど、紛争性が高い場合には、弁護士への相談や連携が必要になります。

土地や中古住宅を購入する前の注意点

駐車場への出入りに隣地や私道を通る物件を購入するときは、「現在通れている」という現況だけで判断してはいけません。

購入前に、少なくとも次の点を確認しましょう。

  • 駐車場から公道までの経路
  • 通路部分の所有者
  • 共有私道の場合は共有者と持分
  • 地役権設定登記の有無
  • 自動車通行が地役権の目的に含まれているか
  • 通路の幅と地役権の範囲
  • 転回や切り返しが可能か
  • 通行料や維持管理費の負担
  • 通行承諾書の内容と承継条項
  • 将来の建替えや用途変更への対応
  • 過去に近隣トラブルがなかったか

住宅ローンや建築確認、将来の売却にも影響するため、契約前の確認が重要です。

まとめ

駐車場をめぐる地役権トラブルでは、まず「隣地を通って自分の駐車場へ入る権利」なのか、「隣地そのものへ駐車する権利」なのかを区別する必要があります。

通行地役権が設定されていても、その目的や範囲を超えて通路に駐車することはできません。一方、承役地所有者によるすべての土地利用を、地役権者が禁止できるわけでもありません。

トラブルを防ぐために重要なのは、次の点です。

  • 要役地と承役地の登記記録を確認する
  • 地役権の目的に自動車通行が含まれるか確認する
  • 地役権図面で正確な範囲を確認する
  • 未登記の合意を放置しない
  • 駐車やポール設置による妨害状況を記録する
  • 将来の用途変更や所有者変更まで想定して契約する
  • 権利関係が不明なまま実力で撤去しない

地役権は、一度設定すると要役地や承役地の売却、相続、建替えにも影響する重要な権利です。現在は問題なく通行できていても、世代交代や売却をきっかけに争いになることがあります。

駐車場への通路に不安がある場合は、早い段階で登記記録、図面、契約書、現地の利用状況を確認しておくことをおすすめします。


京都・東寺近くの不動リーガルオフィスでは、相談のご予約受付中です。

初回相談無料
土日祝も相談可能
京都市内は出張料無料