相続争いを未然に防ぐ遺言書の書き方|京都の司法書士がわかりやすく解説

うちの家族は仲がよいから相続で争うことはない、財産が少ないから遺言書は不要、そう考えて、遺言書を作成しないままになっている方は少なくありません。
しかし、相続争いは、もともと家族仲が悪かった家庭や財産が多い家庭だけに起こるものではありません。

親の介護を誰が担ったか、実家を誰が引き継ぐか、生前に誰がどのくらい援助を受けていたかなど、それまで表面化していなかった不満が、相続をきっかけに噴き出すことがあります。

また、財産の大部分が自宅不動産で、分けやすい預貯金が少ない場合には、全員が公平に分けたいと思っていても、現実には分割が難しくなります。

このような相続争いを未然に防ぐための有効な手段の一つが、遺言書です。
ただし、遺言書は、単に「誰に何を残すか」を書けばよいわけではありません。書き方や内容によっては、かえって相続人の不満や疑念を招くこともあります。

本記事では、相続争いを防ぐという観点から、遺言書を作成するときに押さえておきたいポイントを解説します。

遺言書がないと相続はどうなる?

遺言書がない場合、亡くなった方の遺産は、原則として相続人全員による遺産分割協議で分け方を決めます。

法律上の相続分である「法定相続分」は定められていますが、個々の財産が当然に法定相続分どおり分割されるわけではありません。

例えば、父が亡くなり、相続人が母と長男、長女の3人であったとします。相続財産が次のような内容だった場合を考えてみましょう。

  • 自宅不動産 2,500万円

  • 預貯金 500万円

法定相続分は、母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1です。しかし、自宅不動産を物理的に3つに分けることはできません。

母が自宅に住み続けるために不動産を取得すると、母の取得額が法定相続分を上回ります。
長男や長女に差額を支払う「代償分割」という方法もありますが、母に十分な資金がなければ実行できません。

実家を売却して代金を分ける方法もありますが、母が住み続けたい場合には適しません。
このように、家族全員に争うつもりがなくても、財産の内容によって話合いが難航することがあります。

遺言書であらかじめ財産の承継先を定めておけば、遺産分割協議をしなくても、原則として遺言書の内容に沿って手続きを進められます。

相続争いを防ぐ遺言書の7つのポイント

1.相続人を正確に確認する

遺言書を作る前に、まず確認したいのが「誰が相続人になるのか」です。

家族関係を把握しているつもりでも、前婚の子、認知した子、養子、すでに亡くなった子の子である孫などが相続人になる場合があります。

相続人を誤って認識したまま遺言書を作成すると、一部の相続人について何も定められていなかったり、遺留分を大きく侵害したりするおそれがあります。

家族関係が複雑な場合には、遺言者の出生から現在までの戸籍を確認し、推定相続人を調査しておくことが大切です。

2.財産を漏れなく整理する

次に、所有している財産を一覧にします。主な確認対象は次のとおりです。

  • 土地・建物などの不動産

  • 預貯金

  • 株式・投資信託・国債などの金融資産

  • 生命保険

  • 自動車

  • 貸付金

  • 貴金属・美術品などの動産

  • 会社の株式や事業用資産

  • 借入金や保証債務

  • デジタル資産やインターネット上の契約

不動産については、登記事項証明書や固定資産税の課税明細書などを確認します。
ただし、課税明細書にすべての所有不動産が記載されているとは限りません。私道、山林、農地、共有持分などが漏れていることもあります。

預貯金については、「○○銀行○○支店の普通預金」のように、金融機関名、支店名、預金種別などを特定できるように記載します。
ただし、口座番号まで遺言書に書くかどうかは、保管方法やプライバシーにも配慮して判断します。

財産の記載が曖昧で、どの不動産や口座を指しているのか分からない場合、遺言書があっても手続きを進められないことがあります。

3.遺留分に配慮する

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の遺産取得分です。

遺留分を持つ可能性があるのは、配偶者、子や孫などの直系卑属、父母や祖父母などの直系尊属です。兄弟姉妹とその代襲相続人である甥・姪には遺留分がありません。

例えば、「全財産を長男に相続させる」という遺言書を作成しても、他の子に遺留分がある場合、その子から長男に対して遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。

遺留分を侵害する遺言書が直ちに無効になるわけではありません。
しかし、遺留分をめぐる金銭請求が発生すれば、相続人間の関係が悪化するおそれがあります。

相続争いを防ぐことを重視するなら、原則として遺留分を考慮した配分を検討します。
特定の相続人に多く残したい事情がある場合には、遺留分侵害額請求に備え、生命保険を検討すう余地があります。
生命保険は、特定の相続人に不動産や事業を承継させ、その人が他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合の「支払資金」を準備する方法として有効です。

例えば、父の財産が自宅4,000万円だけで、相続人が長男・長女の2人だとします。
父が「自宅は長男に相続させる」という遺言を作成すると、長女の遺留分は原則として1,000万円です。
そこで父を被保険者、長男を死亡保険金受取人とする1,000万円程度の生命保険に加入しておけば、長男は受け取った保険金を原資として、長女に遺留分侵害額を支払いやすくなります。

ここで注意すべき点は、支払資金を準備する目的なら、「遺留分を請求される可能性がある人」を受取人にする、ということです。

父の相続人が長男と長女の2人で、次の財産があったとします。

  • 相続財産:4,000万円
  • 長男が遺言により4,000万円全部を取得
  • 長女が死亡保険金1,000万円を受領
  • 債務・生前贈与はない

長女の遺留分割合は4分の1なので、原則的な遺留分額は次のとおりです。
4,000万円 × 1/4 = 1,000万円

長女が受け取った生命保険金1,000万円は、原則として長女固有の財産です。そのため、長女の遺留分1,000万円から当然に差し引かれるわけではありません。

したがって長女は、保険金1,000万円を受け取ったうえで、長男に対して遺留分侵害額1,000万円を請求できる可能性があります。

「保険金を渡しているから遺留分も満たしたことになる」とは限らない点に注意が必要です。

遺留分の計算や税務上の取扱いも含め、個別に確認することが重要です。

4.「なぜこの分け方にしたのか」を付言事項で伝える

遺言書には、財産の分け方など法的効力を持つ内容のほかに、家族への思いや分配理由を記載する「付言事項」を設けることができます。

例えば、長男に自宅を相続させる遺言を作成した場合、ほかの子は「長男だけが優遇された」と感じるかもしれません。

そこで、次のような事情を付言事項として伝えます。

  • 長男が長年同居し、通院や生活を支えてくれたこと

  • 配偶者が安心して住み続けられるようにしたいこと

  • 家業や先祖代々の土地を維持してほしいこと

  • 相続人全員に争わず助け合ってほしいこと

付言事項そのものには、通常、財産を取得させる条項と同じ法的効力はありません。
しかし、遺言者の考えを伝えることで、相続人が遺言内容を受け入れやすくなる場合があります。

ただし、「親の面倒を見なかったから何も渡さない」など、特定の相続人を責める表現は避けた方がよいでしょう。亡くなった後には遺言者本人から真意を説明できないため、強い言葉が長く残り、かえって争いを深める可能性があります。

感謝や願いを中心に、穏やかな表現で記載することが大切です。

5.予備的条項を入れる

遺言書を作成してから相続が発生するまでには、長い年月が経過することがあります。その間に、財産を受け取る予定だった人が先に亡くなることもあります。

例えば、遺言者が「自宅を長男に相続させる」とだけ書いており、長男が遺言者より先に死亡した場合、その自宅を当然に長男の子が取得することはできません。

そこで、次の順位の承継先を定める「予備的条項」を検討します。

長男Aが遺言者より先に死亡したときは、前記不動産をAの長女Bに相続させる。

予備的条項がなければ、その財産について遺産分割協議が必要になったり、遺言書全体の計画と異なる結果になったりする可能性があります。

財産を受け取る人が高齢である場合、病気がある場合、遺言者と年齢が近い場合などには、特に予備的条項が重要です。

6.遺言執行者を指定する

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。

相続財産の調査や管理、預貯金の解約・払戻し、遺贈の履行など、遺言内容に応じた手続きを進めます。

遺言執行者を指定していないと、遺言書があっても、相続人間で「誰が手続きをするのか」が決まらず、手続きが停滞することがあります。

相続人の一人を遺言執行者に指定することもできますが、その相続人が多くの財産を取得する場合、ほかの相続人から公平性を疑われる可能性があります。相続人同士の関係や財産の内容によっては、司法書士や弁護士などの専門職を指定する方法を検討することをお勧めします。

なお、遺言執行者に予定していた人が先に亡くなる、就任を断る、病気などで職務を行えなくなる可能性もあります。必要に応じて、第二順位の遺言執行者を定めておくと安心です。

7.作成後も定期的に見直す

一度作成した遺言書が、何十年先まで適切とは限りません。

次のような変化があったときは、内容を見直しましょう。

  • 配偶者や財産を渡す予定だった人が亡くなった

  • 結婚、離婚、再婚、出生、養子縁組があった

  • 不動産を売却・購入した

  • 預貯金や株式など財産の内容が大きく変わった

  • 家族の介護や同居の状況が変わった

  • 相続人との関係が変わった

  • 遺言執行者が職務を行えなくなった

  • 法律や制度が改正された

遺言書は、遺言者に判断能力がある間であれば、撤回や作り直しができます。複数の遺言書が存在し、内容が抵触する場合には、後の遺言が優先されます。

ただし、古い遺言書をそのまま残すと、相続開始後に複数の遺言書が発見され、どちらが有効かをめぐって混乱することがあります。作り直す際には、前の遺言を撤回する旨を明記し、古い遺言書の取扱いも整理しておきましょう。

自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶ?

代表的な遺言方式には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、原則として遺言者が本文、日付、氏名を自書し、押印して作成します。

財産目録については、一定の要件を満たせばパソコンで作成したものや通帳の写し、登記事項証明書などを添付できます。ただし、その場合は財産目録の各ページに署名・押印が必要です。

自筆証書遺言の主な長所は、費用を抑えて自分で作成できることです。一方、方式不備によって無効となる、内容が曖昧で手続きに使えない、紛失・隠匿・改ざんのおそれがあるなどの注意点があります。

自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、相続開始後、原則として家庭裁判所で検認を受ける必要があります。検認は、遺言書の状態や内容を明確にして偽造・変造を防止するための手続きであり、遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。

自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管することもできます。

法務局で保管された遺言書については、紛失や隠匿、改ざんの危険を抑えられます。また、法務局で保管されている自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書は、家庭裁判所の検認が不要です。

ただし、法務局では、遺言書が民法上有効か、財産の分け方が適切か、遺留分を侵害していないかといった内容面まで保証するわけではありません。形式上受理されていても、内容の解釈をめぐって問題が生じる可能性はあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者の意思に基づいて公証人が作成する遺言です。原則として証人2名の立会いが必要です。

公証人が関与して方式に従って作成され、原本が公的に保管されるため、紛失や改ざんの危険が少なく、家庭裁判所の検認も不要です。

一方で、公証人手数料などの費用がかかり、必要資料や証人の準備も必要になります。推定相続人、受遺者や、これらの人の配偶者・直系血族など、証人になれない人もいるため注意が必要です。

次のようなケースでは、公正証書遺言を積極的に検討する価値があります。

  • 相続人同士の関係が良くない

  • 特定の相続人に多くの財産を残したい

  • 子どものいない夫婦である

  • 前婚の子と現在の配偶者が相続人になる

  • 内縁の配偶者や相続人以外の人に財産を残したい

  • 不動産や事業用資産が多い

  • 遺言者が高齢または病気である

  • 遺言の有効性をめぐる争いが予想される

「平等に分ける」と書けば争いを防げるとは限らない

遺言書に「すべての財産を子どもたちに平等に相続させる」と書けば公平に見えます。しかし、平等という言葉だけでは、具体的にどの財産を誰が取得するのか決まりません。

不動産を全員の共有にすると、その後の売却、賃貸、大規模修繕、建替えなどについて共有者間の調整が必要になります。共有者の一人が亡くなれば、その持分がさらに次の相続人へ引き継がれ、権利関係が複雑になることもあります。

争いを防ぐには、単に割合を等しくするだけではなく、次の点まで具体的に考える必要があります。

  • 誰がどの財産を取得するのか

  • 不動産を単独で取得する人が代償金を払えるか

  • 配偶者の住居と生活費を確保できるか

  • 納税や維持管理に必要な現金があるか

  • 財産を取得した人が管理できるか

  • 将来売却する場合に支障がないか

金額の平等と、家族が感じる公平は必ずしも一致しません。生前の援助、介護、同居、家業への貢献なども確認し、家族ごとの事情に合った設計をすることが大切です。

遺言書だけでは解決できないこともある

遺言書は重要な相続対策ですが、すべての問題を解決できるわけではありません。

例えば、認知症などで本人の判断能力が低下した後の財産管理については、遺言書では対応できません。遺言書は、原則として本人が亡くなった後に効力を生じるものだからです。

老後の財産管理や介護費用の支払いについては、任意後見契約、財産管理等委任契約、家族信託などを組み合わせる必要がある場合があります。

また、葬儀、納骨、住居の明渡し、家財の処分、各種サービスの解約といった死後の事務についても、遺言書だけでは十分に対応できないことがあります。必要に応じて、死後事務委任契約などを検討します。

遺言書を単独で考えるのではなく、生前から死亡後までを含めた全体的な対策として設計することが重要です。

相続争いを防ぐために生前の話合いも大切

遺言書を作成しても、その存在や大まかな方針を家族が全く知らなければ、相続開始後に突然内容を知り、驚きや不満を感じる可能性があります。

すべての内容を事前に明かす必要はありませんが、状況に応じて、次のようなことを伝えておくとよいでしょう。

  • 遺言書を作成したこと

  • どの方式で作成したか

  • どこに保管しているか

  • 遺言執行者を誰にしたか

  • 財産の分け方を考えた基本的な理由

  • 専門家の連絡先

ただし、家族から強い反対や圧力を受けるおそれがある場合には、無理に内容を開示する必要はありません。遺言者の自由な意思を守ることが最優先です。

遺言書は家族への最後の説明書

相続争いを防ぐ遺言書を作るためには、形式を守るだけでなく、財産と家族関係を正確に把握し、遺留分、予備的条項、遺言執行者、付言事項などを総合的に検討する必要があります。

特に重要なのは、次の7点です。

  1. 戸籍を確認して相続人を正確に把握する

  2. 不動産や預貯金などの財産を漏れなく整理する

  3. 遺留分に配慮した分け方を検討する

  4. 付言事項で分配理由や家族への思いを伝える

  5. 財産を受け取る人が先に亡くなる場合に備える

  6. 遺言執行者を指定する

  7. 家族や財産の変化に合わせて定期的に見直す

遺言書は、財産を分けるためだけの書類ではありません。残された家族が迷わず手続きを進め、できるだけ争わずに次の生活へ進むための「最後の説明書」でもあります。

インターネットや市販のひな形は便利ですが、家族関係や財産の内容は一人ひとり異なります。ひな形の文言をそのまま使うと、意図したとおりの効果が生じないこともあります。

将来の相続争いが心配な方、相続人以外の人へ財産を残したい方、不動産の分け方に悩んでいる方は、判断能力が十分にあるうちに専門家へ相談することをおすすめします。


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