「自分が亡くなったら、自宅は長男に渡したい」
「相続人ではない孫に財産を残したい」
「お世話になった人に預金を渡したい」
と考えたとき、よく出てくる言葉が「相続」と「遺贈」です。

どちらも、人が亡くなった後に財産を引き継ぐという点では似ています。
しかし、法律上は同じものではありません。

相続と遺贈では、財産を受け取れる人、遺言書が必要かどうか、不動産の登記手続、登録免許税、相続税の取扱いなどに違いがあります。
特に不動産を遺言で渡す場合には、「相続させる」と書くのか「遺贈する」と書くのかによって、死亡後の手続に違いが生じることがあります。

今回は、相続と遺贈の違いについて、司法書士の実務の視点から7つのポイントに分けて解説します。

そもそも「相続」とは?

相続とは、人が亡くなったときに、その人が持っていた財産上の権利や義務を一定の親族が引き継ぐ制度です。

亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」といいます。

民法では、相続人は相続開始の時、つまり被相続人が亡くなった時から、被相続人の財産に属した権利義務を原則として承継すると定められています。

相続できる人は法律で決められています。配偶者は常に相続人となり、これとともに子、直系尊属、兄弟姉妹などが順位に従って相続人となります。

たとえば、父が亡くなり、妻と子2人がいる場合には、妻と子2人が相続人になります。

相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。
つまり「財産だけ受け取って借金は受け取らない」ということが原則として自由にできる制度ではありません。

「遺贈」とは?

遺贈とは、遺言によって財産の全部または一部を特定の人などに与えることです。

民法964条では、遺言者は包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができると定められています。
遺言は遺言者が死亡した時から効力を生じます。

遺贈をする人を「遺贈者」、遺贈を受ける人を「受遺者」といいます。

相続との大きな違いは、遺贈では法定相続人以外の人にも財産を残すことができる点です。

たとえば、次のようなケースが考えられます。

・相続人ではない孫に自宅を渡す
・内縁の配偶者に不動産を渡す
・長年介護してくれた親族に預金を渡す
・友人や知人に財産を残す
・公益法人やNPO法人などに財産を遺贈する

このように、法定相続人という枠を超えて財産の行き先を決められることが遺贈の大きな特徴です。

ただし、遺贈には必ず遺言が必要です。
「自分が亡くなったら、この家を○○さんにあげる」と家族に口頭で話していただけでは、通常、遺贈としての効力は生じません。

相続と遺贈の違い① 財産を受け取れる人が違う

第一の違いは、財産を取得できる人です。

相続によって財産を取得できるのは、原則として法律上の相続人です。

一方、遺贈の場合には、相続人だけでなく相続人以外の人にも財産を渡すことができます。

たとえば、「長男に自宅を渡す」という場合、長男が法定相続人であれば、「長男に自宅を相続させる」という遺言を作成することができます。

これに対して、「孫に自宅を渡したい」という場合、孫の親である子が存命で孫自身が相続人になっていなければ、孫に「相続させる」とすることはできません。この場合には「孫に遺贈する」という形を検討することになります。

法務省も、自筆証書遺言の案内において、推定相続人には「相続させる」または「遺贈する」と記載できる一方、推定相続人以外の者には「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載することを案内しています。

そのため、遺言書を作成するときは「誰に渡したいのか」と「その人が相続人なのか」を確認することが重要です。

相続と遺贈の違い② 相続は法律上発生するが、遺贈には遺言が必要

相続は、被相続人が亡くなることによって法律上当然に開始します。

遺言書がなくても相続そのものは発生します。遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行って、誰がどの財産を取得するのかを決めるのが一般的です。

一方、遺贈は遺言による財産処分です。そのため、有効な遺言書が存在していることが必要です。

特に、内縁の配偶者、相続人ではない孫、子の配偶者、友人などに財産を渡したい場合、遺言を作成しなければ、その人が当然に相続することはできません。

「家族には昔から話してあるから大丈夫」と考えていても、死亡後に相続人の意見が変わることは珍しくありません。

自分の財産を誰に渡すのかについて明確な希望がある場合には、口約束ではなく遺言書に残しておくことが重要です。

相続と遺贈の違い③ 借金などの債務の扱いが異なることがある

相続では、預金や不動産だけではなく、原則として被相続人の債務も承継します。

たとえば、

預貯金1,000万円
不動産2,000万円
借入金1,500万円

という財産状況であれば、相続人はプラスの財産だけでなく借入金についても検討する必要があります。

遺贈については「特定遺贈」と「包括遺贈」を区別することが重要です。

特定遺贈

「京都市南区○○所在の土地をAに遺贈する」「○○銀行の預金1,000万円をBに遺贈する」というように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。

原則として、その特定した財産を受け取るものです。

包括遺贈

「全財産の2分の1をAに遺贈する」「財産全部をBに遺贈する」など、遺産全体に対する割合を指定する方法です。

包括受遺者については、民法990条で「相続人と同一の権利義務を有する」とされています。

そのため、包括遺贈では預貯金や不動産だけを見て判断するのではなく、借金などの債務についても確認する必要があります。

「全財産を遺贈する」という遺言は一見分かりやすいのですが、受遺者側に予想していなかった債務が生じる可能性もあるため、財産調査をしたうえで設計することが大切です。

相続と遺贈の違い④ 放棄する場合の手続が違う

相続人が「借金が多いので相続したくない」という場合には、相続放棄を検討します。

相続放棄は原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。民法915条にも、この3か月という熟慮期間が定められています。

一方、特定遺贈については、民法986条により、受遺者は遺言者の死亡後に遺贈を放棄することができます。遺贈の放棄は遺言者の死亡時にさかのぼって効力を生じます。ただし、一度承認または放棄をすると原則として撤回できず、利害関係人から承認するか放棄するかを回答するよう催告を受ける場合もあります。

なお、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため、単なる特定遺贈とは異なり、相続の承認・放棄に関するルールを意識する必要があります。

「遺贈だから、いらなければいつでも簡単に断れる」と一律に考えるのは危険です。

相続と遺贈の違い⑤ 不動産登記の手続が違う

司法書士実務で非常に重要なのが、不動産を取得した場合の登記手続です。

相続の場合

不動産を相続した相続人は、相続を原因とする所有権移転登記を申請します。

遺産分割協議による場合や「長男に自宅を相続させる」という特定財産承継遺言による場合など、それぞれ必要書類は異なりますが、相続登記は基本的に相続人から単独で申請することができます。

相続人に対する遺贈の場合

以前は、「遺贈」という登記原因の場合、相続人が受遺者であっても共同申請が原則でした。

しかし法改正により、2023年4月1日から、遺贈によって不動産を取得した相続人については、受遺者である相続人が単独で所有権移転登記を申請できるようになりました。2023年4月1日より前に開始した相続による遺贈についても、現在はこの単独申請制度を利用することができます。

相続人以外への遺贈の場合

これに対し、相続人ではない人に不動産を遺贈する場合は、相続人に対する遺贈の単独申請制度は利用できません。

原則として、受遺者を登記権利者とし、遺言執行者がいる場合には遺言執行者などを登記義務者とする共同申請を検討することになります。

そのため、相続人以外の人へ不動産を遺贈する遺言では、遺言執行者をあらかじめ指定しておくことが非常に重要です。

遺言執行者がいない場合、死亡後の登記手続が複雑になる可能性があります。

相続と遺贈の違い⑥ 登録免許税・相続税に違いが出ることがある

不動産の名義変更では登録免許税がかかります。

相続による所有権移転登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%(1,000分の4)です。

相続人に対する遺贈についても、登録免許税率は原則として0.4%です。法務局の遺贈登記の案内でも、相続人に対する遺贈の所有権移転登記の税率は1,000分の4とされています。

一方、相続人ではない人への遺贈による所有権移転については、原則として「その他の所有権移転」として2%(1,000分の20)の税率が問題となります。

たとえば固定資産税評価額2,000万円の不動産の場合、

0.4%であれば8万円
2%であれば40万円

となり、大きな差が生じます。

不動産を相続人ではない孫や内縁の配偶者などに遺贈する場合には、遺言内容だけでなく登記費用まで考えておくことが大切です。

また、遺贈で取得した財産についても相続税の対象となります。

相続税は「相続人だけにかかる税金」というわけではありません。国税庁も、相続や遺贈によって取得した財産などの課税価格が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税が必要になると案内しています。

さらに、被相続人の配偶者や一親等の血族など一定の人以外が相続または遺贈によって財産を取得した場合には、原則として相続税額の2割加算の対象となります。兄弟姉妹、甥・姪なども対象になる場合があります。

税務については財産額や受遺者との関係によって結論が異なるため、必要に応じて税理士への確認も重要です。

相続と遺贈の違い⑦ 遺留分への配慮が必要

「遺言を書けば、自分の財産を完全に自由に処分できる」と思われることがあります。

しかし、一定の相続人には「遺留分」があります。

たとえば、配偶者と子がいるにもかかわらず、

「全財産を友人Aに遺贈する」

という遺言を作成した場合、遺言そのものが直ちに無効になるわけではありませんが、配偶者や子から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

同様に、

「長男に全財産を相続させる」

という遺言であっても、他の子の遺留分を侵害していれば問題になる可能性があります。

遺贈を利用するときは「誰に渡したいか」だけでなく、「その結果、他の相続人の遺留分を侵害しないか」という視点も必要です。

特に不動産が財産の大部分を占める家庭では注意が必要です。

自宅2,500万円、預金500万円という財産構成で、自宅全部を特定の1人に取得させた場合、他の相続人へ支払う遺留分侵害額を現金で用意できないケースがあります。

遺言を作る際には、財産の分け方だけでなく、死亡後に実際に履行できるかまで考えることが重要です。

「相続させる」と「遺贈する」はどちらを使えばよい?

遺言書を作る際によくある質問が、

「長男に相続させる」
「長男に遺贈する」

のどちらを書くべきかという問題です。

長男が相続人である場合には、どちらの表現も法的には考えられます。しかし、特定の相続財産を相続人に取得させるのであれば、一般的には「相続させる」という特定財産承継遺言を基本として検討する方が、遺言者の意思や死亡後の手続が分かりやすいことが多いでしょう。

法務省も、推定相続人については「相続させる」または「遺贈する」、推定相続人以外には「遺贈する」と案内しています。

ただし、どの表現が適切かは遺言全体の内容によって異なります。

特に、

・相続人と相続人以外の人の双方に財産を渡す
・不動産が複数ある
・預貯金の割合を指定する
・予備的な受取人を決めたい
・遺留分への配慮が必要
・相続人の中に認知症や未成年者がいる
・相続人以外の人へ不動産を遺贈する

といった場合には、単に文章をインターネット上の雛形からコピーするのではなく、死亡後の登記や金融機関の手続まで考えて遺言を設計することをおすすめします。

相続人以外へ不動産を遺贈する場合は遺言執行者が重要

相続人ではない人に不動産を遺贈するときは、遺言執行者の指定を特に検討したいところです。

たとえば、

「京都市南区○○町の土地建物を内縁の妻Aに遺贈する」

という遺言があったとします。

Aさんは法定相続人ではありません。そのため、相続人に対する遺贈のような単独登記の仕組みは利用できません。

遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者と受遺者によって遺贈登記を進められるケースがあります。

一方、遺言執行者がいない場合には、相続人側の関与が必要となり、相続人との関係が悪いケースでは手続がスムーズに進まない可能性があります。

せっかく遺言を書いても、死亡後に実現しにくい内容になっていては十分とはいえません。

遺言は「書くこと」が目的ではなく、「死亡後に確実に実現できること」が大切です。

相続と遺贈、どちらを選ぶべき?

相続と遺贈は、どちらが優れているという関係ではありません。

財産を渡したい相手によって使い分けます。

相続人に財産を渡したいのであれば、「相続させる」という遺言を中心に検討できます。

相続人ではない人へ財産を渡したいのであれば、基本的には遺贈を利用します。

ただし、遺贈では、

・受遺者が相続人かどうか
・特定遺贈か包括遺贈か
・不動産が含まれているか
・登録免許税はいくらになるか
・相続税の2割加算の対象になるか
・遺留分を侵害しないか
・遺言執行者を指定する必要があるか

まで考えておく必要があります。

特に不動産が含まれる場合には、遺言書のわずかな表現の違いが、死亡後の登記手続に影響することがあります。

まとめ|相続と遺贈は「誰に、どの財産を渡すか」から考える

相続と遺贈は、どちらも死亡後に財産を承継する制度ですが、その仕組みは異なります。

相続は法律上の相続人が財産上の権利義務を承継する制度であり、遺贈は遺言によって相続人または相続人以外の人に財産を渡す仕組みです。

特に重要なのは、相続人ではない人に財産を渡したい場合です。

内縁の配偶者、相続人ではない孫、子の配偶者、友人などは、原則として遺言がなければ当然には財産を相続できません。

また、不動産を遺贈する場合には、相続人への遺贈なのか相続人以外への遺贈なのかによって、登記申請の方法や登録免許税が異なる可能性があります。

「誰に何を残したいか」が決まったら、その希望を実現するために「相続させる」のか「遺贈する」のか、遺言執行者を置くのか、遺留分への対策が必要なのかまで検討することが大切です。

遺言書は、文章を作るだけではなく、実際の相続手続・不動産登記まで見据えて作成することで、初めて本来の目的を果たしやすくなります。

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参考リンク

e-Gov法令検索:民法

法務局:相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)

法務局:不動産登記の申請書様式について

法務局:相続登記の登録免許税の免税措置について

国税庁:登録免許税の税額表

国税庁:相続税額の2割加算

国税庁:相続税の申告と納税