はじめに
「親が認知症になってしまった」
「成年後見制度を利用したほうがよいと言われた」
「でも相続対策ができなくなると聞いて不安…」
このような相談を多くいただきます。
高齢化が進む中、認知症対策として成年後見制度を利用するケースは増えています。
しかし、成年後見制度は“本人の財産を守る制度”であるため、相続税対策や財産移転などの「相続対策」とは方向性が異なる部分があります。
そのため、制度をよく理解しないまま成年後見制度を利用すると、
- 生前贈与ができなくなった
- 自宅の売却が難しくなった
- 家族信託を使えなくなった
- 相続税対策が進められなくなった
といった問題が発生することがあります。
この記事では、
- 成年後見制度とは何か
- 成年後見制度を利用すると相続対策にどんな影響があるのか
- 制限される相続対策
- それでもできること
- 認知症になる前に検討したい対策
について詳しく解説します。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が低下した方を法的に支援する制度です。
本人だけでは財産管理や契約手続きが難しい場合に、家庭裁判所が選任した成年後見人等が本人を支援します。
成年後見制度の目的
成年後見制度の最大の目的は、
「本人の財産を守ること」
です。
つまり、
- 財産を減らさない
- 不利益な契約を防ぐ
- 本人の生活を守る
ことが重視されます。
ここが相続対策との大きな違いです。
相続対策では、
- 財産を子へ移す
- 相続税を減らす
- 不動産を組み替える
など、“財産を動かす”ことが多くなります。
しかし成年後見制度では、本人保護が最優先となるため、家族の希望だけで財産を動かすことはできません。
成年後見制度を利用すると相続対策が難しくなる理由
本人の利益にならない行為は原則できない
成年後見人は、本人のために財産を管理する義務があります。
そのため、
- 子どもへ財産を移す
- 相続税対策をする
- 家族の利益を優先する
ような行為は、原則として認められません。
成年後見制度は「相続人のための制度」ではなく、「本人を守る制度」だからです。
成年後見制度を利用すると難しくなる主な相続対策
1. 生前贈与
もっとも影響が大きいのが生前贈与です。
暦年贈与は原則困難
相続税対策として、
- 毎年110万円以内を贈与する
- 孫へ教育資金を渡す
- 子どもへ現金を移す
といった対策をしている家庭は多くあります。
しかし成年後見制度利用後は、
「本人の財産を減らす行為」
として問題視されやすくなります。
特に、
- 相続税対策目的
- 特定の相続人だけに利益がある
- 継続的な贈与
などは認められにくい傾向があります。
過去から継続していた贈与は?
以前から毎年同額の贈与をしていた場合は、一定範囲で継続できる可能性があります。
ただし、
- 金額
- 継続性
- 本人の生活状況
などを慎重に判断する必要があります。
成年後見人が勝手に判断できないケースも多く、家庭裁判所への相談が必要になります。
2. 不動産の売却
自宅売却には家庭裁判所の許可が必要
本人名義の自宅を売却する場合、成年後見人だけで自由に売却できるわけではありません。
特に本人が住んでいる自宅(居住用不動産)は、家庭裁判所の許可が必要になります。
なぜ制限されるのか?
自宅は本人の生活基盤だからです。
売却によって、
- 住む場所を失う
- 生活環境が悪化する
- 本人に不利益が生じる
可能性があるため、慎重な審査が行われます。
3. 家族信託
判断能力低下後は契約が難しい
近年増えている家族信託ですが、契約には本人の判断能力が必要です。
そのため、
- 認知症発症後
- 成年後見開始後
では、家族信託契約が難しいです。
つまり、
「成年後見を利用する前に準備しておくべき制度」
といえます。
4. 不動産の共有整理
相続対策として、
- 共有不動産の整理
- 持分移転
- 不動産の組み換え
を検討することがあります。
しかし成年後見制度利用後は、「本人に不利益ではないか」が厳しくチェックされます。
家族の都合だけで進めることは難しくなります。
成年後見制度を利用してもできること
成年後見制度を利用すると、すべての相続対策が不可能になるわけではありません。
1. 必要な財産管理
以下のような行為は通常可能です。
- 預貯金管理
- 介護施設費用の支払い
- 必要な不動産売却
- 賃貸物件管理
- 税金支払い
本人の生活維持に必要であれば、成年後見人が対応できます。
2. 相続発生後の手続き
成年後見制度は、相続発生後にも関係します。
例えば相続人の中に認知症の方がいる場合、
- 遺産分割協議
- 相続登記
- 預金解約
などで成年後見人が必要になるケースがあります。
3. 遺言書の活用
判断能力があれば遺言作成は可能
成年後見制度利用中でも、本人に遺言能力があれば遺言書を作成できます。
ただし、
- 医師の判断
- 家庭裁判所対応
- 公正証書遺言の利用
など慎重な対応が必要です。
成年後見制度利用前に検討したい生前対策
1. 家族信託
認知症対策として近年注目されているのが家族信託です。
家族信託では、
- 親が元気なうちに
- 信頼できる家族へ
- 財産管理権限を託す
ことができます。
家族信託のメリット
- 柔軟な財産管理
- 不動産売却がしやすい
- 認知症後も運用継続可能
- 相続対策と両立しやすい
成年後見制度より柔軟性が高い点が特徴です。
2. 任意後見契約
任意後見制度は、
「将来判断能力が低下したときに誰に支援してもらうか」
を事前に決めておく制度です。
法定後見より本人意思を反映しやすいメリットがあります。
3. 遺言書作成
認知症が進行すると、遺言書作成自体が難しくなります。
そのため、
- 元気なうちに
- 公正証書遺言で
- 専門家関与のもと
準備しておくことが重要です。
4. 生前贈与の計画的実施
将来の相続税対策を考えるなら、早い段階から計画的に進めることが重要です。
認知症発症後では、
- 贈与契約
- 不動産移転
- 財産処分
が困難になります。
成年後見制度利用時によくあるトラブル
家族が自由に財産を使えない
「親のお金なのだから家族が自由に使える」
と考えていると、大きな問題になります。
成年後見制度利用後は、
- 使途
- 出金理由
- 必要性
を厳しく確認されます。
後見人と家族の意見が合わない
専門職後見人(司法書士・弁護士等)が選任されると、
- 自宅売却
- 生前贈与
- 財産処分
などについて家族希望と一致しないことがあります。
しかし後見人は「本人保護」を最優先に判断する義務があります。
成年後見制度を使う前に専門家へ相談する重要性
成年後見制度は一度開始すると、原則として本人が亡くなるまで続きます。
そのため、
- 相続対策
- 家族信託
- 遺言
- 不動産整理
などを十分検討せずに利用すると、
「もっと早く相談すればよかった」
となるケースも少なくありません。
特に、
- 不動産が多い
- 賃貸経営をしている
- 相続税が心配
- 子どもがいない
- 相続人関係が複雑
といったケースでは、早期相談が重要です。
成年後見制度と相続対策は、密接に関係しています。
認知症対策を優先した結果、相続対策が難しくなるケースもありますし、逆に相続対策ばかりを重視すると本人保護が不十分になることもあります。
重要なのは、「元気なうちから準備すること」です。
- 家族信託
- 遺言書
- 任意後見
- 生前贈与
- 不動産整理
などを早めに検討することで、将来の選択肢を広げることができます。
- 成年後見制度
- 認知症対策
- 相続対策
- 遺言書作成
- 家族信託
- 相続登記
についてお悩みの方は、司法書士へ早めにご相談ください。
ご家族の状況に合わせて、最適な方法をわかりやすくご提案いたします。


